恋はあせらず

遠野 時松

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クラスの女子も困りもの

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「そんなんじゃないって、今度遊びに行こうって言われただけだって」

 あれだけ大きな声で話をしていたら、自然と視線はそちらに向けられる。そこには三沢 花音、木下 和花、岩瀬 華の仲良しグループが話をしている。

「だから違うって言ってるでしょ」

 三人で話をしているはずなのに、花音の声だけが鈴香たちの位置まで聞こえてくる。

「始まったな」

 鈴香は声の聞こえた方へ顔を向ける。

「佐藤君、始まったって何が?」
「決まってんだろ、いつものあれだよ」
「いつものあれ?」
「えっ!?知らねーの?有名じゃん」
「うん、知らない」

 鈴香は首を振る。

「マジで?」

 今度はしゃべりかけてきた横山の方へ顔を向ける。

「うん」
「へー、やっぱりお前って変わってんだな」
「そうなの?瑠美ちゃんは知ってる?」
「うん」
「それなら教えてくれると嬉しいな」
「えっとぉ…、何て言えばいいのかなぁ…」

 瑠美の口が重くなったのを見て、鈴香はあまり良い話ではないことに気が付く。

「そんなの決まってんだろ、お花畑のバカ話だよ」
「うるさい、あんたには聞いてない!」

 都丸は「教えてやっただけだろうがよ」と、あからさまに機嫌を悪くして首元を指でかく。
 その様子を見た横山は嬉しそうに笑う。それに気が付いた都丸は、後で見てろよと横山を軽く睨みつけるが、鈴香の視線に気が付いて「あー、めんどくせー」と天井を仰ぎ見る。

「一年の時、宇佐美って三沢とクラスが違ったから知らないのかもな」

 都丸と鈴香の雲行きが怪しくなってきたので、北村がフォローを入れる。

「いやいやキャプテン、三沢の「私を見て、私ってすごいでしょ?なぜなら私が一番なの」ってやつ、かなり有名じゃん。それにいつも一緒にいるのが木下だぜ。あいつってめちゃくちゃ性格きついじゃん」
「まあな、佐藤の言いたいことも分かるよ」

 あっ、そうなんだ。花音ちゃんてそんな風にみんなから見られているんだ。確かに言われてみたらそうかもしれないけれど、もっとキャラが濃い人を草薙食堂で見てきてるから、そこまで気にならなかったな。
 鈴香は思い当たる人の顔を思い浮かべてみる。酔っ払っている人ってそんな人が多いかも、ということに気が付く。

「だろ?それを知らないって信じられねーよ」
「いや、俺は信じられるよ。これが他の女子なら裏があるかもとか、かわい子ぶってんのかなって思うけれど、宇佐美に限ってはそれはない。それはないっていうか、そんな駆け引きが出来るやつじゃない」

 あれ?ちょっと待って。北村君は私のことを褒められているんだよね?

「あー、言われてみたらそうかも」
「だろ?もっと言うと、こいつはそんなことには興味がないんだよ」

 やっぱり何かがおかしい。
 瑠美ちゃんと視線を合わせようとしてもなかなか合わないから、確証が取れない。ん?合わないってことはやっぱりそういうことなの?
 ねえ瑠美ちゃん教えて、お願い。

「キャプテン、こいつは食うこと以外に興味がないってはっきり言っちゃえよ」
「都丸、それで納得できた。そうだ、それが一番しっくりくる」
「だろ?佐藤」
「おう」

 北村君の視線を感じる。
 気を遣ってくれてありがとね。でももう我慢の限界なの。

 腕まくりをしている途中で再び瑠美ちゃんに服を引っ張られた。でも、今の私は誰にも止められない。今回は瑠美ちゃんに向かって私が首を横に振る。怒りに満ち満ちた顔で敵を見据えと、私の迫力に恐れをなしたのか相手は目を逸らした。
 謝ったとしても絶対に許さない。そう心に決めて深く息を吸い込んでから、全身に力を込める。
 いざゆかん。

「何やってるのぉ?」

 ブリブリの可愛らしい花音の声が教室内に響く。
 自分の感情と真反対の声により、鈴香の溜め込んだ力がヘナヘナと抜けていく。

「なんかそっちって楽しそうだね」

 花音を先頭にして、三人は一緒になって鈴香の方に歩いて来る。

「くだらない話で盛り上がってるだけだよ。迷惑だった?」

 北村が花音に話しかける。
 三人の話をしていたなどと言ってしまったら、花音の性格上、会話の内容を聞かれる可能性が高い。北村らしい無難な対応と言って差し支えないだろう。

「迷惑だなんて全然。楽しそうだなって気になって来ちゃった。こっちこそ迷惑?」
「そんなことないよ」

 北村は笑顔で答える。
 二人が大人の会話をしているなか、すぐ近くでは別の戦いが繰り広げられていた。

 命拾いしたわね。と鈴香が都丸を睨むと、都丸は余裕綽々の顔で見つめ返す。その顔が鈴香のハートに再び火を灯したが、三人が近くにいるため踏み止まる。しかしそれを感じ取った都丸は、鈴香をおちょくる顔をする。

 ふーん。そっちがその気なら端ないとか恥ずかしいなんて言ってられない。その挑戦受けてたちましょう。

 再び瞳に燃えたぎる炎を宿した瞬間「鈴香ってサッカー部の男子と仲良いよね」と、またもや花音に出鼻を挫かれる。
 
「それそれ、私もそれが気になってた」和花は花音の話に乗る。「なんか、宇佐美って男子とよく絡むよね。でも、サッカー部と仲良しっていうかペット的な可愛がられ方だよね」
「あー、それ分かるかも。綺麗っていうより可愛いって感じだけど、その可愛いもペットとかの可愛いって感じだよね」
「分かるー」

 あっ、私この二人の口調って苦手。
 鈴香は俯く。
 その場にいる男子たちの顔が変わっていく。
 特に都丸が一番ひどく、何でわざわざこっちに来てこんなくだらない話をしだしてんだと、冷めた目つきが物語っている。

「うざ」

 都丸は二人に向かって短く言葉を投げつける

「それってひどくない?」
「本当、ひどーい。華もそう思うでしょ?」
「う、うん」

 二人に気圧されるようにして、華は頷く。

「チッ」

 三人に聞こえるように舌打ちをして、都丸はその場から離れようとする。

「おい、どこ行くんだよ?」

 北村が都丸を呼び止める。

「便所」

 その言葉に「あ、俺も」と佐藤が都丸の後をついていく。横山もその場を離れたそうにしていたが、何か思うことがあるらしくその場に留まる事を決めたらしい。

「さっきのあの態度なくない?」

 和花に同意を求められた瑠美は、「そうだね」と言葉少なめに答える。それが物足りないのか、和花は次の言葉を要求するように瑠美のことを見つめる。

「ちょっと怖かったかも」

 自分の求めている言葉が出てこなかったのか、和花は顔を歪めて不満を露わにする。

「あいつも悪気があったわけじゃないんじゃないかな」
「何それ?あれで?」

 横山が都丸を庇うと、和花は反抗的な顔で横山を睨みつける。横山の顔がピクリと動くが、瑠美の視線を感じて思い止まる。

「俺もそう思うよ。ほら、あいつって機嫌が悪くなると態度に出るやつじゃん。さっきまで宇佐美とバチバチやってたから、それで機嫌が悪かったんじゃないかな?」
「それって鈴香が悪いってこと?」

 和花は横山に対してとった態度と同じものを北原にぶつける。

「それは違うな」

 突然冷たい口調になった北原に対して和花は一瞬だけ怯む。
 二人のやりとりを見ていた花音が「もういいよ。行こ」と言うと「そうだね」と和花は頷く。そして花音は「行くよ」と華に話しかける。

 その場に残された全員が、三人が教室から出ていくのを何も言わずに見送った。
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