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草薙食堂 上
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「アリちゃんまたねー」
家の前で少しおしゃべりをした後に、アリちゃんに手を振りながらアプローチを進む。
「お鈴また明日ー。ちゃんと勉強するんだよー」
「アリちゃんもねー」
小テストの結果は、惜しくもアリちゃんに負けてしまった。そのためか、今日のアリちゃんはやたらと勉強の大切さを説いてくる。
テストが終わった帰り道に、「山が当たったー」って喜んでたアリちゃんは何処か遠くの国へと行ってしまったみたい。
私だって三年生になって初の全体小テストだったから、意気込みとやる気はものすごくあった。でも、何故だか行動が伴わない。机に向かうと他のことが気になっちゃう。
やり始めたらやる気が出てくるんだけれど、そのやり始めるのが難しい。
勉強というものはなんて不思議な存在なんだろう。これは私みたいな…。いや、全人類共通の謎だと思う。うん、たぶんそう。そして、誰もこの謎は解けないんだろうなと思う。
結果としては、予想を大きく上回る訳ではなく下回る訳でもく、思った通りの結果となった。
次回はもっと頑張ろう。そう心に誓ってドアノブに手をかける。
ガチャリという音と共にもう一人の私から、「誓うだけならいつでもできるからね」と、厳しい指摘が入る。
「ただいまー」
「鈴香おかえり、ちょうど良かった」
お母さんは、出かける時によく着るカーディガンを羽織っていた。
「あれ?お母さんどうしたの?」
「電車が止まっちゃったらしくて浩史を迎えに行ってくるから、ちょっとお店を手伝ってちょうだい」
「お店忙しいの?」
「そうでもないけれど、おばあちゃん一人だと少し大変だからお願い」
「はーい、分かったー」
急いで階段を上り、部屋で着替えてからエプロンを手に取りお店に向かう。
お店のお手伝いは苦じゃない。むしろ好きな方。
小さい頃に草薙食堂に遊びにきた時は、お客さんに混じってカウンター席に座り、おじいちゃんが料理をする所を飽きもせず眺めていた。
さくから綺麗に切り分けられていくお刺身や、こんがりと黄金色に揚げられるコロッケ。傷だらけでごつごつしているけれど、とても優しい手で色々な料理が作り出される。
それらをおばあちゃんが次々にお客さんの元に運んで行く。
今か、今かと待っていたお客さんは、料理が到着すると目を輝かせる。そして、頬張った途端に溢れ出る笑顔。
料理人というのは、淀みない所作から笑顔を作り出す魔法使いの一種だと思っていたのかも知れない。
それと、好きなものを食べられるっていうのも好きな理由の一つ。毎回メニューを眺めてはその味を思い出し、どれがいいか悩みながら選ぶのが本当に幸せだった。もちろん今もそう。
私とは対照的に弟は毎回カツカレーを食べる。同じものを頼んで楽しいかと聞いたら「書いてある店のメニューは一通り食べたことがあるから、その中で一番好きなものを食べたい」だそうだ。その考えもありかもしれない。
そんな事を考えていたらお腹が空いてきた。家で何かつまんでくれば良かったかな、と裏口の戸を開ける。途端にお店から流れてくる良い香りに、先ほどの考えが後悔に変わる。
「おじいちゃん、手伝いに来たよー」
厨房の中でお鍋を振っていたおじいちゃんと目が合う。私が笑いかけるとおじいちゃんはクッと目に力を込めてから、眉根に皺を寄せ小さく頷く。
いつものように顔つきは怖いが、かなり嬉しそうにしている。
「あら、スズちゃんお手伝いありがとう」
「おばあちゃん後は任せて」
ゆっくりと話しかけてくれるおばあちゃんに、私はトンと胸を打って答える。
「あら、力強い味方ができたわ」
おばあちゃんも嬉しそうに、お盆を手に持ったままカウンター近くのいつもの場所に陣取る。おばあちゃんに椅子に座っててと話をしながら、店内が見渡せる場所まで歩いていく。
夕飯には少し時間が早いためか、お母さんの言った通りに店内はあまり混雑していない。それでもテーブルの上に料理が運ばれていない席も多く、これからという様相を呈している。
家の前で少しおしゃべりをした後に、アリちゃんに手を振りながらアプローチを進む。
「お鈴また明日ー。ちゃんと勉強するんだよー」
「アリちゃんもねー」
小テストの結果は、惜しくもアリちゃんに負けてしまった。そのためか、今日のアリちゃんはやたらと勉強の大切さを説いてくる。
テストが終わった帰り道に、「山が当たったー」って喜んでたアリちゃんは何処か遠くの国へと行ってしまったみたい。
私だって三年生になって初の全体小テストだったから、意気込みとやる気はものすごくあった。でも、何故だか行動が伴わない。机に向かうと他のことが気になっちゃう。
やり始めたらやる気が出てくるんだけれど、そのやり始めるのが難しい。
勉強というものはなんて不思議な存在なんだろう。これは私みたいな…。いや、全人類共通の謎だと思う。うん、たぶんそう。そして、誰もこの謎は解けないんだろうなと思う。
結果としては、予想を大きく上回る訳ではなく下回る訳でもく、思った通りの結果となった。
次回はもっと頑張ろう。そう心に誓ってドアノブに手をかける。
ガチャリという音と共にもう一人の私から、「誓うだけならいつでもできるからね」と、厳しい指摘が入る。
「ただいまー」
「鈴香おかえり、ちょうど良かった」
お母さんは、出かける時によく着るカーディガンを羽織っていた。
「あれ?お母さんどうしたの?」
「電車が止まっちゃったらしくて浩史を迎えに行ってくるから、ちょっとお店を手伝ってちょうだい」
「お店忙しいの?」
「そうでもないけれど、おばあちゃん一人だと少し大変だからお願い」
「はーい、分かったー」
急いで階段を上り、部屋で着替えてからエプロンを手に取りお店に向かう。
お店のお手伝いは苦じゃない。むしろ好きな方。
小さい頃に草薙食堂に遊びにきた時は、お客さんに混じってカウンター席に座り、おじいちゃんが料理をする所を飽きもせず眺めていた。
さくから綺麗に切り分けられていくお刺身や、こんがりと黄金色に揚げられるコロッケ。傷だらけでごつごつしているけれど、とても優しい手で色々な料理が作り出される。
それらをおばあちゃんが次々にお客さんの元に運んで行く。
今か、今かと待っていたお客さんは、料理が到着すると目を輝かせる。そして、頬張った途端に溢れ出る笑顔。
料理人というのは、淀みない所作から笑顔を作り出す魔法使いの一種だと思っていたのかも知れない。
それと、好きなものを食べられるっていうのも好きな理由の一つ。毎回メニューを眺めてはその味を思い出し、どれがいいか悩みながら選ぶのが本当に幸せだった。もちろん今もそう。
私とは対照的に弟は毎回カツカレーを食べる。同じものを頼んで楽しいかと聞いたら「書いてある店のメニューは一通り食べたことがあるから、その中で一番好きなものを食べたい」だそうだ。その考えもありかもしれない。
そんな事を考えていたらお腹が空いてきた。家で何かつまんでくれば良かったかな、と裏口の戸を開ける。途端にお店から流れてくる良い香りに、先ほどの考えが後悔に変わる。
「おじいちゃん、手伝いに来たよー」
厨房の中でお鍋を振っていたおじいちゃんと目が合う。私が笑いかけるとおじいちゃんはクッと目に力を込めてから、眉根に皺を寄せ小さく頷く。
いつものように顔つきは怖いが、かなり嬉しそうにしている。
「あら、スズちゃんお手伝いありがとう」
「おばあちゃん後は任せて」
ゆっくりと話しかけてくれるおばあちゃんに、私はトンと胸を打って答える。
「あら、力強い味方ができたわ」
おばあちゃんも嬉しそうに、お盆を手に持ったままカウンター近くのいつもの場所に陣取る。おばあちゃんに椅子に座っててと話をしながら、店内が見渡せる場所まで歩いていく。
夕飯には少し時間が早いためか、お母さんの言った通りに店内はあまり混雑していない。それでもテーブルの上に料理が運ばれていない席も多く、これからという様相を呈している。
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