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とある王国の エピソード
とあるエピソード お灸 開戦 下
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「灸が火傷になってしまってはならないと、申していたな?」
「はい、薬は適量により効果を得ます」
「それならばお主はここに残り、閉じ込められたハオス兵を助け出せ。前にいるのがあいつなら、扱いやすいだろうからな」
「承知しました」
ファトストは馬から降りる。
「ライロス」
将は名を呼ぶ。
「最後の仕上げだ。準備致せ」
「はっ!」
隊列は組み直され、斜めに向き直した隊を率いて、レンゼストは左翼の救援に向かう。
当然のごとく、その行く手を阻むために敵の壁が何重にもできていく。
「構わぬ、押し込め」
「はっ!」
敵とエルドレ・ハオス軍がぶつかる。
ハオス兵が長槍で敵の動きを抑え、ハオス兵の手練れが敵を斬り伏せていく。お互いが上手く噛み合って順調に押し込めたのは初めだけで、壁の厚さに抑え込まれてしまう。
逃げ場を失った力は行き場を求めて兵の少ない左へと流れていき、戦線は、中央の砦から左に長く広がっていった。
レンゼストの救援は左翼まで届かず、もうそろそろハオス軍が全て脱出できるというところで、敵遊軍により蓋がされる。
左に伸びた戦線に沿って敵の追撃戦が始まる。迂回先には森があるが、そこに逃げるより本陣へと戻った方が早いが、戦線は左に伸び続けている。
「中央は拠点を伸ばし、中の者の救出を開始しています」
馬上にて剣で指し示し、ライロスはレンゼストに伝える。
「仕事が早いな、なるべく多く救ってくれ」
敵兵の多くはレンゼストが引き連れてきた。中央は手薄になった守りを突いて、早々に脱出経路を確保した。
レンゼストは左に顔を向ける。
戦線を広げて敵の分散を図ったが、レンゼストの前には何重にも人が集められている。
「目の前にひと部隊、突っ込ませろ」
「はっ!」
歩兵がどいた隙間を狙って、長槍を手にした騎兵が突撃を開始する。生まれた裂け目に、ハオス兵が流れ込む。敵の「第一防衛線崩壊!」という声が聞こえると敵兵が更に集まり、後ろに厚くなる。
突撃を何度も繰り返しても、ここを抜くことは難しいだろう。
「真面目なやつは嫌いじゃない」レンゼストは苦笑いを浮かべる。「左の戦線を縮めろ」
敵が作る壁の、その奥を通り過ぎる人の姿が味方から敵に変わる。敵の追撃が始まった。
「弓兵」
レンゼストは兵を集める。
「二部隊先に敵兵が薄くなっている場所があるな、あそこに矢を射掛けろ」
「はっ!」
兵たちは矢を番える。
「ライロス。狙いはあそこだ、出るぞ」
レンゼストは馬を走らせる。
敵の壁に沿って左に移動すると、レンゼストたちの頭上を矢が追い越していく。矢の襲来で揺らいだ敵の集団に、ライロスを先頭とした騎兵が鋭く突き刺さる。罫書きされた場所目掛けてレンゼストが矛を突き刺し、切り抜くように敵の壁を突破する。
「死地というのは毎度のことながら、頭が冴え渡るな」レンゼストは辺りをゆっくりと見渡す。「すり潰されるなよ」
充分な数の騎兵が抜けたのを確認すると、直ぐに味方の殿へと馬を走らせる。
通れる道などなく、壁となっている敵の背と追撃をしている敵の間にある、わずかな隙間をこじ開けながら進む。
気が付いた敵兵が、レンゼストたち目掛けて飛び出して来る。しかし、矢が使えぬ状況で騎兵を捕えることは難しく、見す見す通過を許してしまう。
あとに続く騎兵は両側から攻撃を受け始めているが、慣れた様子で攻撃を受け流していく。
「もう少ししたら中に突っ込むぞ」
敵兵を何人も追い越し、追撃を行っている敵兵の背後を狙える位置まで近付くとレンゼストは馬の速度を落とす。
「あそこだ」
レンゼストが突撃先を指示すると、先ずは後に付いてきた騎兵が、敵の後続を止めるために真横に襲いかかる。
ライロスが目標に突撃すると、隊は将を先頭に敵の中へと入っていく。
敵はハオス軍への追撃を止め、レンゼストに照準を移す。上手く守りを固めてレンゼストの力を前に逃し、衝撃を躱す。
レンゼストは一旦敵から離れて、楽しそうに笑う。
ハオス兵が反転して攻撃に参加すれば、一気に好転するが、誰もが心を折られたまま敗走を続けている。レンゼストは、流された力のまま森の方に戦線を広げて壁を作り、敗走を助ける。
「これぐらいが限界かのう」
戦線を伸ばし過ぎると、兵が足りなくなってしまう。ファトストは馬を止める。
敵は先頭のファトストを囲むように、兵を展開させていく。特大の手柄を前に、敵兵の気が上がる。
「しばしの我慢だ」
レンゼストは森に目を向ける。
森から騎兵が飛び出してくる。
「エルメウス家、お主に会いたかったぞ」レンゼストは敵に目を向ける。「ほれ、もうひと仕事だ」
レンゼストは、自分を包囲した敵に向かって突撃を開始する。
伏兵の登場に敵陣地内から退却の鐘が鳴り、エルドレ軍は敵を陣地内に押し込んだ。
この戦で多くの捕虜を手にし、交渉の材料としてその身を都へ送った者もいる。損害としてはハオス軍の将に怪我人が多く出てしまい、結果として持久戦へと移行した。
海岸線戦へ応援に向かう可能性もあるため、敵の退却を遅らせるような橋の破壊などの妨害工作は控えられ、互いに追撃戦の攻防へと策が練られ始めた。
レンゼストはその間に、エルドレ兵とハオス兵を同時に鍛え上げ、夜は酒を交えて『将校とは何たるか』を教え込んだ。
すっかりその強さと心意気に惚れ込んだ将校がレンゼストの分身となった頃、敵の退却が始まった。
「はい、薬は適量により効果を得ます」
「それならばお主はここに残り、閉じ込められたハオス兵を助け出せ。前にいるのがあいつなら、扱いやすいだろうからな」
「承知しました」
ファトストは馬から降りる。
「ライロス」
将は名を呼ぶ。
「最後の仕上げだ。準備致せ」
「はっ!」
隊列は組み直され、斜めに向き直した隊を率いて、レンゼストは左翼の救援に向かう。
当然のごとく、その行く手を阻むために敵の壁が何重にもできていく。
「構わぬ、押し込め」
「はっ!」
敵とエルドレ・ハオス軍がぶつかる。
ハオス兵が長槍で敵の動きを抑え、ハオス兵の手練れが敵を斬り伏せていく。お互いが上手く噛み合って順調に押し込めたのは初めだけで、壁の厚さに抑え込まれてしまう。
逃げ場を失った力は行き場を求めて兵の少ない左へと流れていき、戦線は、中央の砦から左に長く広がっていった。
レンゼストの救援は左翼まで届かず、もうそろそろハオス軍が全て脱出できるというところで、敵遊軍により蓋がされる。
左に伸びた戦線に沿って敵の追撃戦が始まる。迂回先には森があるが、そこに逃げるより本陣へと戻った方が早いが、戦線は左に伸び続けている。
「中央は拠点を伸ばし、中の者の救出を開始しています」
馬上にて剣で指し示し、ライロスはレンゼストに伝える。
「仕事が早いな、なるべく多く救ってくれ」
敵兵の多くはレンゼストが引き連れてきた。中央は手薄になった守りを突いて、早々に脱出経路を確保した。
レンゼストは左に顔を向ける。
戦線を広げて敵の分散を図ったが、レンゼストの前には何重にも人が集められている。
「目の前にひと部隊、突っ込ませろ」
「はっ!」
歩兵がどいた隙間を狙って、長槍を手にした騎兵が突撃を開始する。生まれた裂け目に、ハオス兵が流れ込む。敵の「第一防衛線崩壊!」という声が聞こえると敵兵が更に集まり、後ろに厚くなる。
突撃を何度も繰り返しても、ここを抜くことは難しいだろう。
「真面目なやつは嫌いじゃない」レンゼストは苦笑いを浮かべる。「左の戦線を縮めろ」
敵が作る壁の、その奥を通り過ぎる人の姿が味方から敵に変わる。敵の追撃が始まった。
「弓兵」
レンゼストは兵を集める。
「二部隊先に敵兵が薄くなっている場所があるな、あそこに矢を射掛けろ」
「はっ!」
兵たちは矢を番える。
「ライロス。狙いはあそこだ、出るぞ」
レンゼストは馬を走らせる。
敵の壁に沿って左に移動すると、レンゼストたちの頭上を矢が追い越していく。矢の襲来で揺らいだ敵の集団に、ライロスを先頭とした騎兵が鋭く突き刺さる。罫書きされた場所目掛けてレンゼストが矛を突き刺し、切り抜くように敵の壁を突破する。
「死地というのは毎度のことながら、頭が冴え渡るな」レンゼストは辺りをゆっくりと見渡す。「すり潰されるなよ」
充分な数の騎兵が抜けたのを確認すると、直ぐに味方の殿へと馬を走らせる。
通れる道などなく、壁となっている敵の背と追撃をしている敵の間にある、わずかな隙間をこじ開けながら進む。
気が付いた敵兵が、レンゼストたち目掛けて飛び出して来る。しかし、矢が使えぬ状況で騎兵を捕えることは難しく、見す見す通過を許してしまう。
あとに続く騎兵は両側から攻撃を受け始めているが、慣れた様子で攻撃を受け流していく。
「もう少ししたら中に突っ込むぞ」
敵兵を何人も追い越し、追撃を行っている敵兵の背後を狙える位置まで近付くとレンゼストは馬の速度を落とす。
「あそこだ」
レンゼストが突撃先を指示すると、先ずは後に付いてきた騎兵が、敵の後続を止めるために真横に襲いかかる。
ライロスが目標に突撃すると、隊は将を先頭に敵の中へと入っていく。
敵はハオス軍への追撃を止め、レンゼストに照準を移す。上手く守りを固めてレンゼストの力を前に逃し、衝撃を躱す。
レンゼストは一旦敵から離れて、楽しそうに笑う。
ハオス兵が反転して攻撃に参加すれば、一気に好転するが、誰もが心を折られたまま敗走を続けている。レンゼストは、流された力のまま森の方に戦線を広げて壁を作り、敗走を助ける。
「これぐらいが限界かのう」
戦線を伸ばし過ぎると、兵が足りなくなってしまう。ファトストは馬を止める。
敵は先頭のファトストを囲むように、兵を展開させていく。特大の手柄を前に、敵兵の気が上がる。
「しばしの我慢だ」
レンゼストは森に目を向ける。
森から騎兵が飛び出してくる。
「エルメウス家、お主に会いたかったぞ」レンゼストは敵に目を向ける。「ほれ、もうひと仕事だ」
レンゼストは、自分を包囲した敵に向かって突撃を開始する。
伏兵の登場に敵陣地内から退却の鐘が鳴り、エルドレ軍は敵を陣地内に押し込んだ。
この戦で多くの捕虜を手にし、交渉の材料としてその身を都へ送った者もいる。損害としてはハオス軍の将に怪我人が多く出てしまい、結果として持久戦へと移行した。
海岸線戦へ応援に向かう可能性もあるため、敵の退却を遅らせるような橋の破壊などの妨害工作は控えられ、互いに追撃戦の攻防へと策が練られ始めた。
レンゼストはその間に、エルドレ兵とハオス兵を同時に鍛え上げ、夜は酒を交えて『将校とは何たるか』を教え込んだ。
すっかりその強さと心意気に惚れ込んだ将校がレンゼストの分身となった頃、敵の退却が始まった。
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