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とある王国の エピソード
とあるエピソード お灸 開戦 上
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「報告!」
兜に鳥の羽を付けた兵がレンゼストに近寄り、拳を胸に当てる。
「こちら左翼、堀を埋め終え敵陣地への攻撃を開始しました」
兵は手を下ろすと馬の元へと走って戻り、次の目的地へと山を下って行った。
エルドレは敵側からの攻撃が無い為、平地まで軍を下ろした。現地にて指揮をしたレンゼストは馬に跨り、山の裾野から新たに組んだ陣容を眺めている。
「ハオス側は予想より展開が早いですね。用心の為、そろそろ移動を開始いたしましょう」
レンゼストは、将の気紛れに気を揉むライロスに背を向けたまま、肘から先だけを挙げる。
「蛮勇なれど、それに見合うだけの訓練はされているか」
「その様ですね。組織だっていないと、この時間での攻撃は不可能です。」
レンゼストの横でロンビアが答える。
「これで敵の意識は嫌でも中に向けられる。いい機会だ、ショーセンを沼地より上げて足を乾かさせろ」
「その様に。突撃は、角から奥側に二番目の敵部隊が妥当だと思いますが?」
あそこが一番脆く、その横には手強い部隊がいる。狙うならばあそこが手頃となる。
「そうだな。助攻として、ケインとラーク辺りを裏手から襲わせろ」
手強い部隊を離してしまえば何てことは無い。先に弱いところを潰してから強い方を挟み込んでしまえば、あの場所は制圧できる。
「早速、取り掛かります」
ロンビアが頷くのを見ると、報を知らせるために兵が動く。
「あの隊を置いていく」レンゼストは、平地で待機をしている騎馬隊へ顎をしゃくる。「好きに使ってくれ」
「こちらの防衛に使用しても?」
「構わない、お前の好きに使ってくれ。特に馬の扱いが上手い奴らだ、使い勝手は良い」
だが、沼地より平地にこそ馬は相応しい。
「ありがたく」
部隊の長は、将の目を見て力強く笑う。
「お前も馬の扱いに長けているからな」
そこへ、乗っていた馬の手綱を兵に預けたファトストが、二人に近付く。
「よろしいですか?」
レンゼストが頷く。
「ショーセン様におかれましては、他が突撃している際に、手頃な橋を壊して回っていただきたいのですが」
ファトストは両手を胸の前で組み、頭を下げる。
「頼む」
「承知しました。他には?」
「何卒、兵に気を掛けていただき、兵糧、馬、家畜を重点に狙って下さい」
内々での策は変更され、敵兵を態と多く残し、兵糧に不安を残す状況を作ることを優先させることとなった。とはいっても、元からエルドレ軍の役割は、右側に位置し敵からの攻撃を防ぐという簡単なものだ。
軍議にてどれだけ無理を説いても、それならばハオス軍だけで攻め入るとのことで、意見が分かれたままハオスの戦にエルドレが付きあっている状況だ、こちらがどう攻めようが文句は言われない。
ファトストは軍議にて興奮するハオス側から、こちらの参戦の条件として戦場での自由を取り付け、総指揮のコーライには常に情報は流している。同じ敵を別々に攻め込むというおかしな戦にはなってしまっているが、レンゼストが一つの戦さとして上手くまとめている。
「ご心配なさらずに。必ずや、将の思惑通りに事を進めます」
ファトストはロンビアに笑顔を返す。その笑顔には将の気まぐれに付き合う者同士の、ある種の諦めが含まれているが、楽しみなのは隠さずに笑う。
「我は恵まれているな、気心の知れた者と戦えておる」
レンゼストもつられて笑う。
「旗を何本か置いていく」
「はっ!」
「騎兵には器用な者を多数入れておいた。敵兵を狩る時は苛烈に攻め込み、時を見て投降を促してくれ」
「はっ!」
レンゼストは、近くまで歩いてきたファトストを馬上から見下ろす。
「奇手を多用するが卑怯者とは思われたく無いと、こいつが申しているのでな」
ロンビアがファトストに顔を向ける。
「相手が拒否してきた場合は?」
「その時は致し方なく」
ロンビアはそれを聞いて意外そうに笑う。
「遠慮はいらん、派手にやれ」
「レンゼスト様、ファトスト殿は策で勝ちを拾っていると思われるのが嫌なのですね」
「そうらしい。ハオス軍に合わせて策を練ったのに、軍議の場で我の武を疑うとは何事かと怒っている」
「ハオスも訓練された兵ゆえに、こちらの方が灸としては効きそうですな」
ロンビアは、二人の間に入ってきたファトストに顔を向ける。
「それでは、山を下るとするか」
レンゼストは馬首を麓にめぐらす。
「はい」
ライロスは麓で待機する隊に合図を送る。
ロンビアとファトストに見送られながら麓に下りたレンゼストは、自らの隊を率いると、敵への挨拶とばかりに後方の敵遊軍と矛を交え、充分に武を相手に見せつけてから悠々と旗を風に靡かせてエルドレ軍を一巡した。
行く先々で上がる歓声に対し、敵兵は肩を竦めて武器を構える。
戦場は左へと移る。
ハオス軍は士気の高さから敵の防御柵も壊し終え、陣地内へと攻撃の場を移していた。
中央に配置された弓兵とクロスボウ兵との相性は良く、お互いの欠点を補って左翼の攻撃を大いに助けた。しかし、内部に仕掛けられた堀や馬車を巧みに使った妨害により、流入する人の数と侵攻速度にずれが生じ始め、次第に停滞していく。
この状況で後ろに控えた敵の遊軍に挟撃されると一溜まりも無いが、ショーセンを始めケインとラークによる牽制で敵は動けないでいる。
レンゼストたちは中央の右後方に位置しながら、戦況を見つめている。
「やはり出てきたな」
敵中央が打って出てきたのを見ながら、レンゼストは言う。
「はい」
ファトストが答える。
中央は予定通りに、弓兵たちと場所を入れ替えたハオス軍が守りを固め始める。指揮を取るのはエルドレの部隊長だ。
左翼にハオスの将が集まった結果、中央の指揮官が不足し、それを補うかたちであの部隊を率いている。
「動かれますか?」
ライロスが訊ねる。
「もう少しだけ待とうか、のう。右に合わせた方が効果が上がる」
騎兵を率いて、ロンビアがこちらに向かっているとの報が入っている。
「それよりも左翼は持ち堪えそうか?」
「中に入れずに外にいた者たちが、そのまま防衛を始めたとのことです」
「そうか」
レンゼストはその場で戦場をぐるりと見渡し、人の声や気の流れを感じる。
「ファトストよ」
「はい」
ファトストが馬を近付ける。
「ケインとラークの助攻を、まず初めにぶつけてしまうのはどうだ」
ファトストは一考する。
「敵の遊軍を、左翼に向かわせますか?」
ショーセン隊だけでは、敵の遊軍全てを抑えることは難しくなる。
「その方が、こちらが動く理由付けができる」
敵は中央の攻撃に合わせて攻めて来たと思うだろう。敵の遊軍としては、動きやすくなる。
ハオス軍には敵の遊軍に備えるようにその都度、助言はしてある。極論を言えば、こちらがハオスの分まで遊軍を抑えておく道理は無い。
「悪くは無いかと」
外にいた者は中央へと向かってしまったので、敵遊軍の攻撃に対応するためには中から人が出てこなければならない。それにより敵陣の中に隙間も生まれるだろうから、良くできた策だと思われる。
「ライロス」
「はっ!」
「それならば、ロンビア様には手前で待機していただいた方がよろしいのでは?」
「それもだ」
「合わせて」
レンゼストはファトストを見る。
「次はどうする?」
「中央の後ろまで、隊を進めましょう」
「用意は周到に、ということだな」
「はい」
ファトストは肯く。
左翼のハオス兵は突然のことに陣を組まずにただぶつかって行っただけなのが影響して、中央は堅い敵軍に左へと押し込まれていく。侵入経路に蓋をされてしまうと、中に取り残された者は全滅の危機に晒されるので、ハオス兵が次々と敵陣地から出てくる。
当然のごとく、陣地内での攻防に影響が出てしまう。
「旗を立てろ」
レンゼストが言い放つ。
ライロスの合図により、軍旗と隊旗が色鮮やかに立てられていく。
レンゼスト隊の進軍が始まる。
兜に鳥の羽を付けた兵がレンゼストに近寄り、拳を胸に当てる。
「こちら左翼、堀を埋め終え敵陣地への攻撃を開始しました」
兵は手を下ろすと馬の元へと走って戻り、次の目的地へと山を下って行った。
エルドレは敵側からの攻撃が無い為、平地まで軍を下ろした。現地にて指揮をしたレンゼストは馬に跨り、山の裾野から新たに組んだ陣容を眺めている。
「ハオス側は予想より展開が早いですね。用心の為、そろそろ移動を開始いたしましょう」
レンゼストは、将の気紛れに気を揉むライロスに背を向けたまま、肘から先だけを挙げる。
「蛮勇なれど、それに見合うだけの訓練はされているか」
「その様ですね。組織だっていないと、この時間での攻撃は不可能です。」
レンゼストの横でロンビアが答える。
「これで敵の意識は嫌でも中に向けられる。いい機会だ、ショーセンを沼地より上げて足を乾かさせろ」
「その様に。突撃は、角から奥側に二番目の敵部隊が妥当だと思いますが?」
あそこが一番脆く、その横には手強い部隊がいる。狙うならばあそこが手頃となる。
「そうだな。助攻として、ケインとラーク辺りを裏手から襲わせろ」
手強い部隊を離してしまえば何てことは無い。先に弱いところを潰してから強い方を挟み込んでしまえば、あの場所は制圧できる。
「早速、取り掛かります」
ロンビアが頷くのを見ると、報を知らせるために兵が動く。
「あの隊を置いていく」レンゼストは、平地で待機をしている騎馬隊へ顎をしゃくる。「好きに使ってくれ」
「こちらの防衛に使用しても?」
「構わない、お前の好きに使ってくれ。特に馬の扱いが上手い奴らだ、使い勝手は良い」
だが、沼地より平地にこそ馬は相応しい。
「ありがたく」
部隊の長は、将の目を見て力強く笑う。
「お前も馬の扱いに長けているからな」
そこへ、乗っていた馬の手綱を兵に預けたファトストが、二人に近付く。
「よろしいですか?」
レンゼストが頷く。
「ショーセン様におかれましては、他が突撃している際に、手頃な橋を壊して回っていただきたいのですが」
ファトストは両手を胸の前で組み、頭を下げる。
「頼む」
「承知しました。他には?」
「何卒、兵に気を掛けていただき、兵糧、馬、家畜を重点に狙って下さい」
内々での策は変更され、敵兵を態と多く残し、兵糧に不安を残す状況を作ることを優先させることとなった。とはいっても、元からエルドレ軍の役割は、右側に位置し敵からの攻撃を防ぐという簡単なものだ。
軍議にてどれだけ無理を説いても、それならばハオス軍だけで攻め入るとのことで、意見が分かれたままハオスの戦にエルドレが付きあっている状況だ、こちらがどう攻めようが文句は言われない。
ファトストは軍議にて興奮するハオス側から、こちらの参戦の条件として戦場での自由を取り付け、総指揮のコーライには常に情報は流している。同じ敵を別々に攻め込むというおかしな戦にはなってしまっているが、レンゼストが一つの戦さとして上手くまとめている。
「ご心配なさらずに。必ずや、将の思惑通りに事を進めます」
ファトストはロンビアに笑顔を返す。その笑顔には将の気まぐれに付き合う者同士の、ある種の諦めが含まれているが、楽しみなのは隠さずに笑う。
「我は恵まれているな、気心の知れた者と戦えておる」
レンゼストもつられて笑う。
「旗を何本か置いていく」
「はっ!」
「騎兵には器用な者を多数入れておいた。敵兵を狩る時は苛烈に攻め込み、時を見て投降を促してくれ」
「はっ!」
レンゼストは、近くまで歩いてきたファトストを馬上から見下ろす。
「奇手を多用するが卑怯者とは思われたく無いと、こいつが申しているのでな」
ロンビアがファトストに顔を向ける。
「相手が拒否してきた場合は?」
「その時は致し方なく」
ロンビアはそれを聞いて意外そうに笑う。
「遠慮はいらん、派手にやれ」
「レンゼスト様、ファトスト殿は策で勝ちを拾っていると思われるのが嫌なのですね」
「そうらしい。ハオス軍に合わせて策を練ったのに、軍議の場で我の武を疑うとは何事かと怒っている」
「ハオスも訓練された兵ゆえに、こちらの方が灸としては効きそうですな」
ロンビアは、二人の間に入ってきたファトストに顔を向ける。
「それでは、山を下るとするか」
レンゼストは馬首を麓にめぐらす。
「はい」
ライロスは麓で待機する隊に合図を送る。
ロンビアとファトストに見送られながら麓に下りたレンゼストは、自らの隊を率いると、敵への挨拶とばかりに後方の敵遊軍と矛を交え、充分に武を相手に見せつけてから悠々と旗を風に靡かせてエルドレ軍を一巡した。
行く先々で上がる歓声に対し、敵兵は肩を竦めて武器を構える。
戦場は左へと移る。
ハオス軍は士気の高さから敵の防御柵も壊し終え、陣地内へと攻撃の場を移していた。
中央に配置された弓兵とクロスボウ兵との相性は良く、お互いの欠点を補って左翼の攻撃を大いに助けた。しかし、内部に仕掛けられた堀や馬車を巧みに使った妨害により、流入する人の数と侵攻速度にずれが生じ始め、次第に停滞していく。
この状況で後ろに控えた敵の遊軍に挟撃されると一溜まりも無いが、ショーセンを始めケインとラークによる牽制で敵は動けないでいる。
レンゼストたちは中央の右後方に位置しながら、戦況を見つめている。
「やはり出てきたな」
敵中央が打って出てきたのを見ながら、レンゼストは言う。
「はい」
ファトストが答える。
中央は予定通りに、弓兵たちと場所を入れ替えたハオス軍が守りを固め始める。指揮を取るのはエルドレの部隊長だ。
左翼にハオスの将が集まった結果、中央の指揮官が不足し、それを補うかたちであの部隊を率いている。
「動かれますか?」
ライロスが訊ねる。
「もう少しだけ待とうか、のう。右に合わせた方が効果が上がる」
騎兵を率いて、ロンビアがこちらに向かっているとの報が入っている。
「それよりも左翼は持ち堪えそうか?」
「中に入れずに外にいた者たちが、そのまま防衛を始めたとのことです」
「そうか」
レンゼストはその場で戦場をぐるりと見渡し、人の声や気の流れを感じる。
「ファトストよ」
「はい」
ファトストが馬を近付ける。
「ケインとラークの助攻を、まず初めにぶつけてしまうのはどうだ」
ファトストは一考する。
「敵の遊軍を、左翼に向かわせますか?」
ショーセン隊だけでは、敵の遊軍全てを抑えることは難しくなる。
「その方が、こちらが動く理由付けができる」
敵は中央の攻撃に合わせて攻めて来たと思うだろう。敵の遊軍としては、動きやすくなる。
ハオス軍には敵の遊軍に備えるようにその都度、助言はしてある。極論を言えば、こちらがハオスの分まで遊軍を抑えておく道理は無い。
「悪くは無いかと」
外にいた者は中央へと向かってしまったので、敵遊軍の攻撃に対応するためには中から人が出てこなければならない。それにより敵陣の中に隙間も生まれるだろうから、良くできた策だと思われる。
「ライロス」
「はっ!」
「それならば、ロンビア様には手前で待機していただいた方がよろしいのでは?」
「それもだ」
「合わせて」
レンゼストはファトストを見る。
「次はどうする?」
「中央の後ろまで、隊を進めましょう」
「用意は周到に、ということだな」
「はい」
ファトストは肯く。
左翼のハオス兵は突然のことに陣を組まずにただぶつかって行っただけなのが影響して、中央は堅い敵軍に左へと押し込まれていく。侵入経路に蓋をされてしまうと、中に取り残された者は全滅の危機に晒されるので、ハオス兵が次々と敵陣地から出てくる。
当然のごとく、陣地内での攻防に影響が出てしまう。
「旗を立てろ」
レンゼストが言い放つ。
ライロスの合図により、軍旗と隊旗が色鮮やかに立てられていく。
レンゼスト隊の進軍が始まる。
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