王国戦国物語

遠野 時松

文字の大きさ
上 下
8 / 113
とある王国の物語 プロローグ

感想戦 上

しおりを挟む
 名を呼ばれれば聞こえる距離ではあるが、焚き火を囲む賑やかな一団から少し距離を置いた位置にファトストは座っている。自ら話には入らないが、顔を綻ばせて皆の話を聞いている。
「ファトスト。横、いいか?」
「おお、リュート。そろそろ来る頃だと思っていたよ」
 ファトストは杯を持ち上げ、卓を自分の方へと引き寄せる。
「これ以上飲むと、物事が考えられなくなるからな」
 リュートは酒瓶をファトストに見せる。
「嘘をつくな、今いる中でレンゼスト様と飲み比べが出来るのはお前ぐらいだ。酒でそれぐらいになった方がごちゃごちゃ考えないで済むから、丁度良いってところだろ」
 その言葉に対してリュートは笑いながら、ファトストが手に持つ杯に酒を注いで瓶を卓に置いた。
「早速だが聞くぞ」
 時を惜しむ様に、横に座りながら尋ねる。
「どうぞ、結果論で良ければね」
 ファトストは口を湿らす程度に酒を口にし、杯を卓に置く。尻の下に敷いて柔らかくした乾燥肉を包みから出すと、一つをリュートに手渡した。
 幼い頃から変わらない友の好物に、リュートは懐かしさを覚える。
「それが結果論だとしても、結果が伴っていれば問題ない。それはいつものことだろ。それにお前がどう言われようが、俺には関係ない。だから気にするな」
 それを聞いたファトストは、苦笑いを浮かべる。
「お前ってさ、認められて隊を持たされたんじゃなくて、口が悪くてレンゼスト様の隊から追い出されたんだろ?」
「だとしても、そんなことはどうでもいいことだな。それこそ興味は無い」
 リュートは受け取った乾燥肉に齧り付く。
「おっ! 美味いなこれ」
「だろ? 最近考えた自信作なんだよ。香草を使ったタレに漬け込んだものを、東方より取り寄せたオウカという木を使って燻してみたら、格別だった」
「相変わらずだな」
 イノ肉の質も良い。これを作るために、わざわざ狩りに出た証拠だ。
「次の戦が終わるくらいが一番美味い」
 ファトストは肉を左右に回しながら、独り言の様に呟く。
「そっちも、相変わらずだな。素直に、次も楽しみにしているから来てねと言えば、済む話だろ。肉で人を釣ろうとするな」
 リュートは酒を口にする。
「酒に合う様にも作られてるのか」
 一頻り驚いた後、まじまじと肉を眺めるリュートを見て、ファトストは満足気に頷く。
「久しぶりに二人でゆっくり話すんだから、いつも三人で遊んでた頃みたいに話そうぜ」
 ファトストはリュートの肩に手を置く。
「取り敢えず、他の場所でどういった戦が繰り広げられたのかを教えろ」
 リュートはその手を振り払う。
「もっと大きな隊を率いるための勉強だからと言われたから教えるが、教わるって態度を少しは見せろよ」
「ごちゃごちゃとうるさい。そうやって減らず口ばかりたたくから、俺はあの頃のお前が嫌いだ。問答をしたいならリュゼーとしろ。俺は寧ろ、今のお前こそ好ましく思う」
「そんな俺と、友でいてくれてありがとう」
「先ずは平地での戦いについてだ」
 言葉を遮るためか、注いでやるから酒を飲めと、リュートは酒瓶をファトストの前で傾ける。
 観念したファトストの動きに合わせるように、リュートも杯に口を付ける。
「気になるところは?」
 リュートは、ファトストが飲んだ分だけ酒を注ぎ足し、空になった自分の杯へも酒を注ぐ。
「中央はお前の考えた通りになった。それはなぜだ?」
「中央を担った帝国兵の強みは、隙間無く長槍が並べられた時に発揮する。裏を返せば足並みを揃えなければいけない。それを利用したらやっぱり嵌った」
「それぐらいは分かっている。あんなにもふざけた拒馬の置き方をしたのに、敵の進軍はお前の言った通りに止まった。あり得ないと思っていたが、あり得てしまった。認めるしか無い。帝国兵とはそういうものなのだろう」
 リュートはファトストから視線を外し、少し離れた場所にいる兵に向かって瓶を振る。
「どの様に考えたら、あの様に敵が動くと考えたのかを教えろ」
「長くなるよ」
「初めからそのつもりだ」
 リュートは杯に口を付け、手酌で瓶を空にする。
「まず敵は、こちらの数を減らすのが狙いだろ?」
 ファトストは干し肉を齧る。
「レンゼスト様もそう言っていたな」
 リュートも干し肉を齧り、酒を飲む。
「それなのに無名の指揮官を選んだ。考えられることは二つ。こちらを侮っているか、敵の名だたる将が命令を聞く人物か」
「今回は後者だったわけか」
「結果としたらね。でも、ある程度は予想が付いていたけどね」
 ここで、新しい酒瓶を手に持った兵が、二人の前に現れる。リュートは片手を上げて礼を述べると、ファトストを指し示す。兵が酒瓶の注ぎ口を差し出すと、ファトストは「ありがとう」と、口を湿らす程度に酒を飲み、杯を近づける。兵は瓶を近付け、コチンと静かに音を立てる。
「なぜだ?」
 リュートは酒を口にし、兵に杯を差し出す。兵はそれに酒を注ぐ。
「そこから気になる?」
「先ほどの言いようなら、そこに何かあるのだろ?」
「まあ、そうだね。だとすると、何から話すか……」
「いつものように、色々あっての結果論だろ? こっちで解釈するから、思いついたままに話をしてくれ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「その前に少しいいか?」
 そう言うとリュートは、杯を呷ってから前へと差し出す。
「聞きたいんだったら、その辺の器を持ってきてくれ。これでは小さ過ぎて、何度も注ぐのが面倒だ」
「承知しました」
 兵はリュートから杯を受け取ると、直ぐ様その場から離れる。手頃な大きさの器を見繕うと、兵を何人か引き連れてリュートの元に戻ってくる。それぞれが、酒瓶と器を手に持っている。
 リュートは「お前達も好きだな」と笑った後に、それぞれの兵から酌をしてもらう。それが終わると端から兵達の器に酒を注いだ。注がれた順に兵達が酒を飲む中、初めから居た兵はリュートから受け取った杯をそのまま使って飲んでいる。
「待たせたな」
「全然」
 笑っては見せたが、兵達の視線に、ファトストはむず痒さを覚える。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...