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本編前のエピソード
雲の行き先 21 外交の目的(上)
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「先ずはお前の認識を改めることからだな」
ドロフの声の質が変わる。馬車が走る音の中でも、しっかりとリュゼーの耳に届く。
「お願いします」
まだ不慣れだが、リュゼーも同じ声を使う。
「この外交についてどう思う?」
順序立てて事を進める性格通りに、ドロフはありきたりな質問する。
「国と国の友好を深める以外に思惑があるということには、何とか気が付きました」
外交とはそういうものだと言われて納得してしまったが、旅の先々に密偵を潜伏させている時点でおかしいと気が付くべきだった。
「その思惑は後からついてきたものだな。誰だって婚約者の家に挨拶は行くものだろ?その際に属している組織なり街の長に挨拶に行くのは、エルドレの習わしだ。この度は、婚約相手が位の高い他国の貴族であったため、その長に当たる女王の元にご挨拶することとなった」
この外交は婚約が正式に決まり国内外に公表されてから、時をおかずに各地に通達された。
女王の元に貴族の婚約者が、使者を遣わせて挨拶に来る。しかもその相手先はリチレーヌの力関係に影響を及ぼすほどの、エルドレでは知らぬ者がいないといわれる名家の次期当主。思惑などほっといてもついてくるのだろう。
リュゼーは理解を示すために頷く。
「他の二国についてはその国に入る前に詳しく説明するが、国として確かめたいことがある。祝い事のお裾分け故に、相手はこの外交を受け入れるしかない。祝い事として盛大にすればするほど、多くの者を付き従えて国の中に入ることができる。人数さえ変化させなければ、誰と誰が入れ替わったなど分かるはずがない」
「分かりました、それは後ほど伺うとします。この先大変な旅になりそうですね」
婚礼の話が出始めてから関係各所と調整するために、それなりの時間が経過した。それぞれの国や人など多くの思惑が交差する中で、エルドレも国として何かしらの謀は巡らすための時間は十分にあった。
しかし、それに付き合わされる身となったエルメウス家にとっては迷惑な話である。
「何を言っている。もう始まっているぞ」
「やはりそうですか」
この話を聞かされるとなった時点で、ある程度は覚悟をしていた。
「これから行われる晩餐会において、お前には一芝居打ってもらう」
当然として、こちらに断る権利などない。
「私は何をすればよろしいですか?」
「そう焦るな。何事も因果関係を理解をしていなければ、良い働きは出来ない。ただ言われたことをこなすだけでは、突発的な事象に対処出来ないからな」
「ごもっともです」
ドロフは指導者としてかなり優秀である。知識が深く機転が利く。能力からすれば、隊の後方でリュゼーと共に馬車に乗るほどの末席にいるような人ではない。地位などに頓着がなさそうなので、本人としてはこれぐらい気楽な方が居心地として良いのかもしれない。
「外交予定の三国とは比較的良好な関係が築かれているのは理解しているな。では、東に目を向けてみればどうだ?」
「帰属とまではいかないですが、それに準じた力関係になっていると思います」
東方には都市国家と言われるものが多数ある。さらに東に行くと強大な国があるが、文化的にエルドレとは大きな隔たりがある。そのことから、エルドレの影響下に置かれているのは都市国家までだ。とは言っても、国境を接するルエンターニュ地方には砦や強固な要塞があるため、リチレーヌとは違った友好関係が築かれている。
そして、何よりその国々がエルドレに求めるものは、強大な国に打ち勝つ軍事力だ。文化や信じるものが違う国から侵略を受ければ、悲惨な出来事により都市は焼き尽くされてしまうだろう。そのためにも我が国と仲良くしておくのは都合が良い。
「それでは近年では滅多になくなったが、我が軍が東方に援助に向かった際の敵と味方の判断基準についてはどうだ?」
「はい、我が国と友好関係の深い都市は庇護し、反乱であっても相手が東方の国と関係が深い都市ならば反乱軍と共に攻め落としました」
「東方の大国が領土を拡大しようとした際は?」
「徹底的に打ち負かし、逆に領土を削り取って新たな都市国家を作りました」
「それにより我が国は緩衝地帯を広げることに成功したわけだが、その土地の統治が上手くいった理由は何だ?」
「略奪をしなかったのと、敵より攻め込まれた都市国家内で活躍した将に奪い取った地を統治させたからだと聞いています」
「その通りだ。東の要、ルエンターニュ地方出身ということもあってその辺の知識は備えているな」
「この類の話は幼い頃より聞かされていました」
その甲斐あってか、国を守るという意識は他の地方より高いと思う。そのため、リチレーヌの国防に関する意識の違いに驚かされてしまった。
「後々、統治をしやすい様に略奪をしなかったのは理解できるな。では、略奪をしなくても良かった理由は何だ?」
大軍を動かすには莫大な金がいる。エルドレの国力ならば用意するのは容易いだろうが、近隣の都市国家からも徴収しただろう。
山が多い土地柄、林野の開拓や治水工事の他に、狩猟が盛んに行われるため腕の良い鍛冶屋は多数いる。それに、あのヘヒュニですら認めるほどの工芸品を作り上げる職人も揃っている。武具に関しても問題はない。
人が生きる上でなくてはならないものが、この国で大量に作られている。
「リチレーヌからもたらされる潤沢な兵糧があるが故に、その必要はなかったということですね」
リュゼーは深く考えずとも、その答えに直ぐに辿り着いた。
「正解だ。戦時下において、金より食料を集めることの方が遥に難しい。それに食うに困らなければ、心的不安も軽減されて色々な戦いに対応できる。毎年外交で送られる品は違う。なぜ今回エルメウス家が塩を運んだのか。ここまで来ればその意味は分かるだろ?」
「はい、そのためにお互いにとって良き関係を築かなければならないという訳ですね」
「それだけでは足りぬな」
ドロフは首を横に振った。
ドロフの声の質が変わる。馬車が走る音の中でも、しっかりとリュゼーの耳に届く。
「お願いします」
まだ不慣れだが、リュゼーも同じ声を使う。
「この外交についてどう思う?」
順序立てて事を進める性格通りに、ドロフはありきたりな質問する。
「国と国の友好を深める以外に思惑があるということには、何とか気が付きました」
外交とはそういうものだと言われて納得してしまったが、旅の先々に密偵を潜伏させている時点でおかしいと気が付くべきだった。
「その思惑は後からついてきたものだな。誰だって婚約者の家に挨拶は行くものだろ?その際に属している組織なり街の長に挨拶に行くのは、エルドレの習わしだ。この度は、婚約相手が位の高い他国の貴族であったため、その長に当たる女王の元にご挨拶することとなった」
この外交は婚約が正式に決まり国内外に公表されてから、時をおかずに各地に通達された。
女王の元に貴族の婚約者が、使者を遣わせて挨拶に来る。しかもその相手先はリチレーヌの力関係に影響を及ぼすほどの、エルドレでは知らぬ者がいないといわれる名家の次期当主。思惑などほっといてもついてくるのだろう。
リュゼーは理解を示すために頷く。
「他の二国についてはその国に入る前に詳しく説明するが、国として確かめたいことがある。祝い事のお裾分け故に、相手はこの外交を受け入れるしかない。祝い事として盛大にすればするほど、多くの者を付き従えて国の中に入ることができる。人数さえ変化させなければ、誰と誰が入れ替わったなど分かるはずがない」
「分かりました、それは後ほど伺うとします。この先大変な旅になりそうですね」
婚礼の話が出始めてから関係各所と調整するために、それなりの時間が経過した。それぞれの国や人など多くの思惑が交差する中で、エルドレも国として何かしらの謀は巡らすための時間は十分にあった。
しかし、それに付き合わされる身となったエルメウス家にとっては迷惑な話である。
「何を言っている。もう始まっているぞ」
「やはりそうですか」
この話を聞かされるとなった時点で、ある程度は覚悟をしていた。
「これから行われる晩餐会において、お前には一芝居打ってもらう」
当然として、こちらに断る権利などない。
「私は何をすればよろしいですか?」
「そう焦るな。何事も因果関係を理解をしていなければ、良い働きは出来ない。ただ言われたことをこなすだけでは、突発的な事象に対処出来ないからな」
「ごもっともです」
ドロフは指導者としてかなり優秀である。知識が深く機転が利く。能力からすれば、隊の後方でリュゼーと共に馬車に乗るほどの末席にいるような人ではない。地位などに頓着がなさそうなので、本人としてはこれぐらい気楽な方が居心地として良いのかもしれない。
「外交予定の三国とは比較的良好な関係が築かれているのは理解しているな。では、東に目を向けてみればどうだ?」
「帰属とまではいかないですが、それに準じた力関係になっていると思います」
東方には都市国家と言われるものが多数ある。さらに東に行くと強大な国があるが、文化的にエルドレとは大きな隔たりがある。そのことから、エルドレの影響下に置かれているのは都市国家までだ。とは言っても、国境を接するルエンターニュ地方には砦や強固な要塞があるため、リチレーヌとは違った友好関係が築かれている。
そして、何よりその国々がエルドレに求めるものは、強大な国に打ち勝つ軍事力だ。文化や信じるものが違う国から侵略を受ければ、悲惨な出来事により都市は焼き尽くされてしまうだろう。そのためにも我が国と仲良くしておくのは都合が良い。
「それでは近年では滅多になくなったが、我が軍が東方に援助に向かった際の敵と味方の判断基準についてはどうだ?」
「はい、我が国と友好関係の深い都市は庇護し、反乱であっても相手が東方の国と関係が深い都市ならば反乱軍と共に攻め落としました」
「東方の大国が領土を拡大しようとした際は?」
「徹底的に打ち負かし、逆に領土を削り取って新たな都市国家を作りました」
「それにより我が国は緩衝地帯を広げることに成功したわけだが、その土地の統治が上手くいった理由は何だ?」
「略奪をしなかったのと、敵より攻め込まれた都市国家内で活躍した将に奪い取った地を統治させたからだと聞いています」
「その通りだ。東の要、ルエンターニュ地方出身ということもあってその辺の知識は備えているな」
「この類の話は幼い頃より聞かされていました」
その甲斐あってか、国を守るという意識は他の地方より高いと思う。そのため、リチレーヌの国防に関する意識の違いに驚かされてしまった。
「後々、統治をしやすい様に略奪をしなかったのは理解できるな。では、略奪をしなくても良かった理由は何だ?」
大軍を動かすには莫大な金がいる。エルドレの国力ならば用意するのは容易いだろうが、近隣の都市国家からも徴収しただろう。
山が多い土地柄、林野の開拓や治水工事の他に、狩猟が盛んに行われるため腕の良い鍛冶屋は多数いる。それに、あのヘヒュニですら認めるほどの工芸品を作り上げる職人も揃っている。武具に関しても問題はない。
人が生きる上でなくてはならないものが、この国で大量に作られている。
「リチレーヌからもたらされる潤沢な兵糧があるが故に、その必要はなかったということですね」
リュゼーは深く考えずとも、その答えに直ぐに辿り着いた。
「正解だ。戦時下において、金より食料を集めることの方が遥に難しい。それに食うに困らなければ、心的不安も軽減されて色々な戦いに対応できる。毎年外交で送られる品は違う。なぜ今回エルメウス家が塩を運んだのか。ここまで来ればその意味は分かるだろ?」
「はい、そのためにお互いにとって良き関係を築かなければならないという訳ですね」
「それだけでは足りぬな」
ドロフは首を横に振った。
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