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本編前のエピソード
兵の道
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猫の手が人の手ぐらいになると、俺は陸に上げられた。人の配置替えを行うためだ。
フビットみたいなやつは、塩の期間中ずっと船の上にいることになる。塩の取引が最盛期となり猫の手が必要なぐらいに忙しくなると、また船に乗る。
今の俺に与えられた任務は歩くことだ。
決められた順路をひたすら歩く。家から用事を言い付けられることもあるが、街から街へひたすらに歩く。立ち寄った集落で頼まれ事をこなし、また歩き始める。荷を引く馬に負けない足腰となるまで、次の段階へはいけない。
給金を貰うが食費程度で、旅の資金は風を出している家が受け持つ。俺でいえばホロイ家だ。治安維持を含めた地域貢献の他に、若いものに経験を積ませる意味合いから頻繁に行われる。
そんなわけで…、
見て分かるように、俺は刈った草で畑の中に身を隠す場所を作っている。少し離れた背の高い木には袋を仕掛け済みだ。
この村に立ち寄ると隣町まで荷を運ぶ、違う家の風に話しかけられた。胸に付いている木でできた紋を見ると、自分が荷を届けて帰ってくるまでこの地に留まることを告げられる。
それまでにやるべきことが、これで終わる。
海に人が集まるこの時期は、どこも人手が足りなくなるので頼み事はよくある。普段は一人でこなせるものみを行い、それ以外のものはホロイ家に手紙を書く。
たまに、このように村の仕事を手伝うことがある。風にとっては儲けにならない話だが、違うものを手に入れるために、都合が合えば頻繁に請け負う。
これを済ませてしまえば暇になるので、剣でも振っていようと思っている。
どの村にも風ならば誰でも使える一画があり、そこに一人用の幕を張っている。面白がった風の人が稽古をつけてくれることもある。
ただ歩いているだけの生活が続くと、こういった出来事は良い刺激になる。
リュートは草の中に身を潜り込ませ、出来栄えを確かめる。
その夜、風の人と共に畑近くの館に招かれた。
「お招きいただきありがとうございます」
「さあさあ、どうぞ中へ」
気前よく家の主人は中へ招いてくれた。
「リュートです。ありがとうございます」
「おやおや、それはどうも」
通された部屋には食事が用意されていて、村長を家の主人と共に村の人と囲んで夕飯を共にした。
今はこれが一番ありがたい。
初めは物珍しさに保存食を好んで食べた。それに飽きると料理をし始めたのだが、とにかく面倒くさい。幕を張り、食べ始める頃には夜も深くなっている。近くに風の人がいれば火を起こすが、一人の時はどうしても保存食に手が伸びてしまう。
温かいスープに心が救われる。
「最近マシマシが畑に出始めましてね」
村長が話し始める。
机の上は片付けられており、代わりに各々の飲み物が置かれている。
「今年は早いですね」
「そうなんですよ。それで困ってしまい、お願いしました」
家の主人は申し訳ないと頭を下げた。
村の近くにはマシマシの繁殖地がある。新しい縄張りを求めたマシマシが、畑にいたずらを
しているらしい。
「早めに対処しないと後々大変ですからね」
「こんな頼みで申し訳ないのですが、弓を使える者が出てしまっているので、皆さんにお声を掛けさせていただきました。お引き受けしていただいてありがとうございます」
「いえいえ、これも風の縁です。気を遣わないでいただきたい」
主人は恐縮しつつ頭を下げる。
「もちろん、それぞれの家には手紙を送らせていただきます」
「私の方は結構です。ホロイ家にのみお送りください」
「いやいや、これは全く」
風の人は馬に乗っていた。
荷は馬車で運ぶような大きのものではない。一般的な手紙や小さいものは馬車に詰め込まれて運ばれる。運ぶ荷の大切さは運ぶ者の格式からも分かる。
このような手柄などいらないと断られた村長は、苦笑いを浮かべて頭を掻く。しかし、このような人を食事代で雇えるので、村としては大助かりである。
軽い懇談会が終わると、机をそのまま使わせてもらい明日の打ち合わせをした。
マシマシの群れは若い個体が多く、縄張りを追い立てられた群れではなく新しくできた群れではないかということ。ボスがしっかりとしているので危険を察知するのが上手く、畑を餌場にされると大変なことになる。と主人が事の重大さを語る。
この村の畑はどれも比較的広い。林もよく手入れされている。塀を築かずとも畑と林の距離を十分確保するだけで獣害の対策となる。そんな畑はマシマシに弱い。
木から降りると素早く畑まで渡って、野菜を盗み食いをする。すぐに逃げるため一回の被害は少なくできるが、そのための労力は大きくなる。それに収穫前の大事な野菜をマシマシにくれてやる筋合いはない。
村の人は言葉を選びながら、それぞれ同じようなことを言う。
一箇所だけ畑と林を結ぶ橋がある。マシマシなら通れる程度に間隔を空けて木が植えてある。
ボスは畑の際に立つ一番大きな木から周りを警戒しているらしい。必ず村人の姿が見えると群れは森へと戻っていく。
村人との手順の確認が終わると、二人はさらに打ち合わせをする。
村が寝静まると、二つの影が物音を立てずに動き出す。
闇夜でも器用に歩く風の後を、もう一つの影がついていった。
フビットみたいなやつは、塩の期間中ずっと船の上にいることになる。塩の取引が最盛期となり猫の手が必要なぐらいに忙しくなると、また船に乗る。
今の俺に与えられた任務は歩くことだ。
決められた順路をひたすら歩く。家から用事を言い付けられることもあるが、街から街へひたすらに歩く。立ち寄った集落で頼まれ事をこなし、また歩き始める。荷を引く馬に負けない足腰となるまで、次の段階へはいけない。
給金を貰うが食費程度で、旅の資金は風を出している家が受け持つ。俺でいえばホロイ家だ。治安維持を含めた地域貢献の他に、若いものに経験を積ませる意味合いから頻繁に行われる。
そんなわけで…、
見て分かるように、俺は刈った草で畑の中に身を隠す場所を作っている。少し離れた背の高い木には袋を仕掛け済みだ。
この村に立ち寄ると隣町まで荷を運ぶ、違う家の風に話しかけられた。胸に付いている木でできた紋を見ると、自分が荷を届けて帰ってくるまでこの地に留まることを告げられる。
それまでにやるべきことが、これで終わる。
海に人が集まるこの時期は、どこも人手が足りなくなるので頼み事はよくある。普段は一人でこなせるものみを行い、それ以外のものはホロイ家に手紙を書く。
たまに、このように村の仕事を手伝うことがある。風にとっては儲けにならない話だが、違うものを手に入れるために、都合が合えば頻繁に請け負う。
これを済ませてしまえば暇になるので、剣でも振っていようと思っている。
どの村にも風ならば誰でも使える一画があり、そこに一人用の幕を張っている。面白がった風の人が稽古をつけてくれることもある。
ただ歩いているだけの生活が続くと、こういった出来事は良い刺激になる。
リュートは草の中に身を潜り込ませ、出来栄えを確かめる。
その夜、風の人と共に畑近くの館に招かれた。
「お招きいただきありがとうございます」
「さあさあ、どうぞ中へ」
気前よく家の主人は中へ招いてくれた。
「リュートです。ありがとうございます」
「おやおや、それはどうも」
通された部屋には食事が用意されていて、村長を家の主人と共に村の人と囲んで夕飯を共にした。
今はこれが一番ありがたい。
初めは物珍しさに保存食を好んで食べた。それに飽きると料理をし始めたのだが、とにかく面倒くさい。幕を張り、食べ始める頃には夜も深くなっている。近くに風の人がいれば火を起こすが、一人の時はどうしても保存食に手が伸びてしまう。
温かいスープに心が救われる。
「最近マシマシが畑に出始めましてね」
村長が話し始める。
机の上は片付けられており、代わりに各々の飲み物が置かれている。
「今年は早いですね」
「そうなんですよ。それで困ってしまい、お願いしました」
家の主人は申し訳ないと頭を下げた。
村の近くにはマシマシの繁殖地がある。新しい縄張りを求めたマシマシが、畑にいたずらを
しているらしい。
「早めに対処しないと後々大変ですからね」
「こんな頼みで申し訳ないのですが、弓を使える者が出てしまっているので、皆さんにお声を掛けさせていただきました。お引き受けしていただいてありがとうございます」
「いえいえ、これも風の縁です。気を遣わないでいただきたい」
主人は恐縮しつつ頭を下げる。
「もちろん、それぞれの家には手紙を送らせていただきます」
「私の方は結構です。ホロイ家にのみお送りください」
「いやいや、これは全く」
風の人は馬に乗っていた。
荷は馬車で運ぶような大きのものではない。一般的な手紙や小さいものは馬車に詰め込まれて運ばれる。運ぶ荷の大切さは運ぶ者の格式からも分かる。
このような手柄などいらないと断られた村長は、苦笑いを浮かべて頭を掻く。しかし、このような人を食事代で雇えるので、村としては大助かりである。
軽い懇談会が終わると、机をそのまま使わせてもらい明日の打ち合わせをした。
マシマシの群れは若い個体が多く、縄張りを追い立てられた群れではなく新しくできた群れではないかということ。ボスがしっかりとしているので危険を察知するのが上手く、畑を餌場にされると大変なことになる。と主人が事の重大さを語る。
この村の畑はどれも比較的広い。林もよく手入れされている。塀を築かずとも畑と林の距離を十分確保するだけで獣害の対策となる。そんな畑はマシマシに弱い。
木から降りると素早く畑まで渡って、野菜を盗み食いをする。すぐに逃げるため一回の被害は少なくできるが、そのための労力は大きくなる。それに収穫前の大事な野菜をマシマシにくれてやる筋合いはない。
村の人は言葉を選びながら、それぞれ同じようなことを言う。
一箇所だけ畑と林を結ぶ橋がある。マシマシなら通れる程度に間隔を空けて木が植えてある。
ボスは畑の際に立つ一番大きな木から周りを警戒しているらしい。必ず村人の姿が見えると群れは森へと戻っていく。
村人との手順の確認が終わると、二人はさらに打ち合わせをする。
村が寝静まると、二つの影が物音を立てずに動き出す。
闇夜でも器用に歩く風の後を、もう一つの影がついていった。
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