35 / 92
本編前のエピソード
未来の将達 4 策に乗って
しおりを挟む
「オゥオゥオゥオゥ」
リュートは森の智慧者、マシマシの鳴き声を真似る。他の二人も同じように鳴き声を真似し、付近の草木を叩いて物音を立てる。
それを見たマクベは、少しだけだが三人の方へ体を傾ける。
「よし、食いついた」
ファトストの目つきが変わる。
マシマシは闖入者への威嚇と、仲間に危険を知らせるために鳴き声と共に木々を大きく揺らす。マクベはその習性を利用し木の実を地面へと落とさせ、それを食す。マクベにとって、三人がする行為は、そのまま食に直結するものなのだ。そのためマシマシを真似た警戒行動に、脳ではなく体が反応してしまったのだ。
あれだけ月日を経た個体であれば、それは体の隅々まで染み渡っているはずである。
ファトストは食に対する本能に揺さぶりをかけたのだ。
「ほらほら、口の中によだれが溜まり始めたんじゃないか?」
リュートは口調の変わったファトストを見つめる。
「おい、ファトスト。とうとう本気になったな。シップの皮を被ったロウのお出ましだ」
ハッと何かに気が付いた様子のファトストは、何度か首を振り下を向く。再び顔を上げた時には、先程までの生真面目そうな顔付きに戻っていた。
「ここには俺たちしかいないんだぜ。いいってそんな顔しなくても」
リュゼーは笑う。
「そうだぞファトスト、俺達の前でその顔は必要ない。お前はいつもこうやって回りくどいことをして、結果として自分のやりたいように事を進める。そんなやつなら、さっきの顔の方がお似合いだ」
リュートはペシペシと自分の顔を叩く。
「回りくどいってその言い方は失礼だろ。ただ単に万全を期しているって思えないのか?」
ファトストは眉根に皺が寄りそうなのを堪えているのか、おでこと眉がピクリと動く。
「リュートの言っている意味が分からないなら説明してやろうか?さっきお前は被害者面して俺がそそのかすなんて言ってたけれど、イノの話をし始めたのはお前だぜ。俺はお前のやりたいことを代わりに言ってやってるだけなんだよ」
「そうさ、自分の意思で動いているようで、実はお前に誘導されている。小さい頃から一緒にいるからこそ、みなが知らない本当のお前を俺達は知っている。虫も殺さぬ顔を貼り付けているのは、お前にとっての処世術なんだろうけどな」
「買い被りすぎだよ。俺はそれ程の玉じゃない」
ファトストは務めて冷静に返す。
「相手はイノじゃなくてマクベだ。慎重になるのも分かる。でも、あいつは俺らの大好きなオソ爺の仇だ。お前の腸が煮えくり返っているのなんてとっくにお見通しなんだぞ。周りを見てみろよ、ここには俺達しかいない。気持ちを滾らせたって変な目でお前を見るやつは誰一人としていないぞ」
「その通りだ、リュート。お前もたまにはいいこと言うじゃねえか」
ファトストはすぅっと息を吸うが、しばし間を置き鼻からゆっくりと息を吐く。
「だからそんなんじゃないって。本心を言うと今でも恐ろしくて逃げ出したいぐらいだ」
「どんな時でも感情的にならない。それはお前の良いところだ」
リュートはほくそ笑む。
「だからこそ、お前の策は面白い」
リュゼーは弓を手にする。「お前の思い描く通りになるように、そろそろあいつを揶揄いに行くとするよ」
リュゼーはさっきより大きな声でマシマシの鳴き真似をし、威嚇するように距離を詰める。あたかもマシマシの群れのボスがマクベにする、それと同じ様に。
「俺達はこのままでいいんだよな?」
「そうだ」
ファトストは頷く。「リュゼーがあいつをある程度引きつけたら森に逃げ込む。再び俺達に意識が向いた時にイノを移動させていれば、強欲なあいつは横取りしようとこっちにくるはずだ」
「それなら、しばらくはリュゼーのお手並みを拝見だな」
マクベは自分に近付いてくるリュゼーに向かって、独特の唸り声を上げる。リュゼーは臨界距離まで近づいたことを察するとその場に立ち止まり、威嚇の鳴き声を大きくする。
再びマクベが唸り声を上げると同時に、リュゼーは鳴き声を小さくし少し後退りをする。それによりマクベはリュゼーとの距離を詰めるためにゆっくりと動き出す。
「役者だねぇ。ああやって獣にすら通用するんだから、あいつにとって人間なんてちょろいもんなんだろうな」
リュートは感嘆する。
距離を保つようにリュゼーは後退し、マクベと己との間に弓を射る。
マクベは意に介さず、なおも距離を詰めてくる。
リュゼーが次の矢を番えようとすると、マクベは急に速度を上げる。慌てて射た矢はマクベの横を通り過ぎる。もう一度射かけるがマクベの硬い体に弾かれてしまう。
「演技なのか、それとも本気で外したのか、今のはどっちだ?」
緊迫した状況でも、リュートは冷やかすようにファトストに話しかける。
「うるさい、黙って見てろ」
「はいはい。そんなに怒るなよ」
お互いの距離からすると、これ以上の矢を射る時間は残されていない。
ここでファトストの指笛が鳴る。
十分にその役目を果たしたリュゼーは、身を翻し森の中へ逃げ込む。マクベは逃げ込んだ先を暫く見つめるが、音が森の奥へと消えていくとその身を二人の方に向ける。
「やっぱりあいつはすげえ。やつはすっかり騙されてやがる」
「でも、急に距離を詰めるなんて、狡賢いだけあって相手もなかなかやるな」
「確かにな」
リュートはイノを縛っている綱を握る。「次は俺の番だな」
マクベが二人に顔を向けたと同時に力任せにイノを引き摺り始めた。
リュートは森の智慧者、マシマシの鳴き声を真似る。他の二人も同じように鳴き声を真似し、付近の草木を叩いて物音を立てる。
それを見たマクベは、少しだけだが三人の方へ体を傾ける。
「よし、食いついた」
ファトストの目つきが変わる。
マシマシは闖入者への威嚇と、仲間に危険を知らせるために鳴き声と共に木々を大きく揺らす。マクベはその習性を利用し木の実を地面へと落とさせ、それを食す。マクベにとって、三人がする行為は、そのまま食に直結するものなのだ。そのためマシマシを真似た警戒行動に、脳ではなく体が反応してしまったのだ。
あれだけ月日を経た個体であれば、それは体の隅々まで染み渡っているはずである。
ファトストは食に対する本能に揺さぶりをかけたのだ。
「ほらほら、口の中によだれが溜まり始めたんじゃないか?」
リュートは口調の変わったファトストを見つめる。
「おい、ファトスト。とうとう本気になったな。シップの皮を被ったロウのお出ましだ」
ハッと何かに気が付いた様子のファトストは、何度か首を振り下を向く。再び顔を上げた時には、先程までの生真面目そうな顔付きに戻っていた。
「ここには俺たちしかいないんだぜ。いいってそんな顔しなくても」
リュゼーは笑う。
「そうだぞファトスト、俺達の前でその顔は必要ない。お前はいつもこうやって回りくどいことをして、結果として自分のやりたいように事を進める。そんなやつなら、さっきの顔の方がお似合いだ」
リュートはペシペシと自分の顔を叩く。
「回りくどいってその言い方は失礼だろ。ただ単に万全を期しているって思えないのか?」
ファトストは眉根に皺が寄りそうなのを堪えているのか、おでこと眉がピクリと動く。
「リュートの言っている意味が分からないなら説明してやろうか?さっきお前は被害者面して俺がそそのかすなんて言ってたけれど、イノの話をし始めたのはお前だぜ。俺はお前のやりたいことを代わりに言ってやってるだけなんだよ」
「そうさ、自分の意思で動いているようで、実はお前に誘導されている。小さい頃から一緒にいるからこそ、みなが知らない本当のお前を俺達は知っている。虫も殺さぬ顔を貼り付けているのは、お前にとっての処世術なんだろうけどな」
「買い被りすぎだよ。俺はそれ程の玉じゃない」
ファトストは務めて冷静に返す。
「相手はイノじゃなくてマクベだ。慎重になるのも分かる。でも、あいつは俺らの大好きなオソ爺の仇だ。お前の腸が煮えくり返っているのなんてとっくにお見通しなんだぞ。周りを見てみろよ、ここには俺達しかいない。気持ちを滾らせたって変な目でお前を見るやつは誰一人としていないぞ」
「その通りだ、リュート。お前もたまにはいいこと言うじゃねえか」
ファトストはすぅっと息を吸うが、しばし間を置き鼻からゆっくりと息を吐く。
「だからそんなんじゃないって。本心を言うと今でも恐ろしくて逃げ出したいぐらいだ」
「どんな時でも感情的にならない。それはお前の良いところだ」
リュートはほくそ笑む。
「だからこそ、お前の策は面白い」
リュゼーは弓を手にする。「お前の思い描く通りになるように、そろそろあいつを揶揄いに行くとするよ」
リュゼーはさっきより大きな声でマシマシの鳴き真似をし、威嚇するように距離を詰める。あたかもマシマシの群れのボスがマクベにする、それと同じ様に。
「俺達はこのままでいいんだよな?」
「そうだ」
ファトストは頷く。「リュゼーがあいつをある程度引きつけたら森に逃げ込む。再び俺達に意識が向いた時にイノを移動させていれば、強欲なあいつは横取りしようとこっちにくるはずだ」
「それなら、しばらくはリュゼーのお手並みを拝見だな」
マクベは自分に近付いてくるリュゼーに向かって、独特の唸り声を上げる。リュゼーは臨界距離まで近づいたことを察するとその場に立ち止まり、威嚇の鳴き声を大きくする。
再びマクベが唸り声を上げると同時に、リュゼーは鳴き声を小さくし少し後退りをする。それによりマクベはリュゼーとの距離を詰めるためにゆっくりと動き出す。
「役者だねぇ。ああやって獣にすら通用するんだから、あいつにとって人間なんてちょろいもんなんだろうな」
リュートは感嘆する。
距離を保つようにリュゼーは後退し、マクベと己との間に弓を射る。
マクベは意に介さず、なおも距離を詰めてくる。
リュゼーが次の矢を番えようとすると、マクベは急に速度を上げる。慌てて射た矢はマクベの横を通り過ぎる。もう一度射かけるがマクベの硬い体に弾かれてしまう。
「演技なのか、それとも本気で外したのか、今のはどっちだ?」
緊迫した状況でも、リュートは冷やかすようにファトストに話しかける。
「うるさい、黙って見てろ」
「はいはい。そんなに怒るなよ」
お互いの距離からすると、これ以上の矢を射る時間は残されていない。
ここでファトストの指笛が鳴る。
十分にその役目を果たしたリュゼーは、身を翻し森の中へ逃げ込む。マクベは逃げ込んだ先を暫く見つめるが、音が森の奥へと消えていくとその身を二人の方に向ける。
「やっぱりあいつはすげえ。やつはすっかり騙されてやがる」
「でも、急に距離を詰めるなんて、狡賢いだけあって相手もなかなかやるな」
「確かにな」
リュートはイノを縛っている綱を握る。「次は俺の番だな」
マクベが二人に顔を向けたと同時に力任せにイノを引き摺り始めた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる