37 / 110
本編前のエピソード
未来の将達 3 策
しおりを挟む
「なんでそうなる?」
「なぜっていつものことだろ?なあ、リュゼー」
「おうよ、リュート。いつものこと、いつものこと。お前が策を考えて俺たちがそれを実行する。さっきお前が言った通り、いつものことをするまでさ」
宝探しにでも行くようなワクワクが抑えられない雰囲気のリュートに、これからみんなで散策がてらの散歩でもしそうなリュゼー。
あれほどまでのマクベを前にしても動じない二人に、ファトストは頭をガシガシと搔く。
「ふざけんなよ、お前達」
「ふざけてねえよ。ほら、さっさと策を出せよ。もう考えついてんだろ?」
「そうだそうだ、もったいぶらないで早く出せ。こんなのサクッと終わらせようぜ」
厳格なことで知られるセイ僧の庭に生えているイチジーの実を、度胸試しで頂戴した時と同じような口調で話す。
ファトストはあの時も二人の誘いに乗り、酷い目にあったのを思い出す。
「何なんだよ、お前達」
ファトストは頭を掻くのをやめ、両の手を腿に打ちつける。「今回だってそうだ。オソ爺に元気だしてもらうために大好物のイノ鍋ご馳走しようって言っていたが、本当はお前達が食べたいからだろ」
ファトストは腰にぶら下げてある、先が二股に分かれている笛を咥える。ピビィーーーーーと、高音と低音が重なり合う音色が山々を駆け巡り、遠くまで響き渡る。
ファトストはマクベの動向を探る。しかしマクベはその音に警戒こそ示すが、その場から動こうとはしない。
「ダメか」
ファトストから悲哀のこもった声が漏れる。
「残念、無理みたいだな」
リュゼーはケラケラと笑う。
「もう、腹を括れって。危機を知らせる笛を鳴らしたってマクベはその意味を知らねえんだから、こうなるだけだろ」
「さっきリュートが言った通りにあいつは俺達のことを下に見てるんだから、大きな音出したって逃げねえだろ」
「そんなことは俺だって分かってる」
ファトストは笛を地面に投げ捨てて、再び頭を掻きむしる。
「そうか、お前の策は始まってたんだな。戦う前に相手を引かせる。教科書通りの作戦ってことだろ?」
「うるさいリュート。お前は矛や弓の訓練ばっかりしてないで策についてもう少し勉強しろ」
リュートはリュゼーの顔を見る。俺の後押しをしろと、その目が語っている。
「でもよ」
リュゼーはリュートの視線を受けて話し始めたが、ファトストの気を引くかのように少し間を空ける。「オソ爺のためにイノを狩りに来たらその仇が現れるなんて、何だか運命めいたものを感じるな。これって偶然じゃなくて必然ってやつじゃないのか?」
「うるさいリュゼー。リュートの思い付きに乗っかって、いつも俺のことをそそのかしやがって」
ファトストは掻いていた手を胸の前に持ってきて、ギュッと拳を握る。そしてパンっと両手を顔に打ち付ける。
「よし、分かった」
「おっ!?」
「そうこなくっちゃ」
リュートとリュセーはファトストに顔を近づける。
「で、どうするよ?」
リュートはワクワクを抑えきれない顔で尋ねる。
「戦況は三対一だ。数の利を活かして一人が中央から攻め立てて残りの…」
「却下」
リュートは白けた目をする。
「何でだよ?まだ策の途中だぞ」
「お前さぁ、さっき笛を吹いた時にあいつが警戒したのを見て、三人で襲い掛かれば逃げ出すと踏んでんだろ?逃げ出さなくても短弓が効かないと分かったら、俺たちが諦めるとでも思ってんじゃねえのか。違うか?」
「ち、違う」
ファトストは動揺を隠すように首を振る。
「違うっていうなら中央はファトスト、お前がやれよ」
「中央は最も武があるお前の役目だろ?」
「中央を囮にして、俺達が両側から射かければいいじゃねえか」
何も言えなくなったファトストに向けてリュートは言葉を続ける。「お前自身さえ気乗りのしない、そんな策を俺達にやらせるつもりか?」
ぐうの音も出ない。ファトストの顔が物語っている。
「俺もその策には反対。イノの時みたいに面白いのがいい」
リュゼーは口を尖らせて、己の不満をファトストに示す。
「……何でこいつらはこんなに勘がいいんだ?」
「おい、何を言ってるのかきこえないぞ。腰が抜けて声が出せなくなったか?」
リュートは笑いながら手の平を自分の方に何度か振り、次の策を催促する。
ファトストはゆっくり深く息を吐きだす。
「それならお前達が満足する策を示してやる」
ファトストは少し前屈みになり、それぞれと目を合わせる。
それから地面に視線を落とし、指で丸を描く。
「相手はイノじゃなくマクベだ。この場から弓を射たところで倒せるとは思えない。威力を上げるために距離を詰めなければならないが、リュートの指摘通り無闇に突っ込んでいっても逃す可能性が高い。それなら警戒心の強いあいつ自らこっちに来させる」
リュートはニヤリと笑いリュゼーと目を合わせる。リュゼーもニヤリと笑い返しこくりと頷き返す。
二人も描かれた丸に視線を落とす。
「そのためにすべき事は二つ。まず初めに、俺達の実力を相手に見縊らせる。大人がいる時は隠れているのに俺達の前には現れた、最初からあいつは俺達の事を下に見ている。俺達が弱いと分かればさらにあいつの警戒心も緩む」
ファトストは先程描いた丸から線を引き、線の端に符丁を記す。「それができたら、次はイノを使う。あいつの狙いは俺達じゃなくこのイノだ。そこまでいけばマクベにとってこのイノは、自分のものだと勘違いするだろう」
ファトストは先ほどの丸から間を開けて、もう一つまるを描く。
「策だと分かっても何だか腹立つな」
リュートは手の平に拳をぶつける。リュゼーも顔を顰めて頷く。
「俺達がイノを移動させようとしたら、執着心の強いマクベはそれを妨害してくるはずだ」
ファトストはマクベを示す丸からイノを示す丸まで矢印を伸ばし、「そこを討つ」という言葉と同時に二本の線を斜めに交差させる。
「いいねそれ」
リュゼーは楽しそうに声を上げる。
「やらばできるじゃねえか」
リュートは満足気にファトストの肩に手を置く。ファトストは鬱陶しそうにその手を払いのける。
「じゃあ俺が陽動だな」
「ああ、リュートにそんな器用な真似はできないからな」
ファトストは揶揄うように先程の意趣返しをする。
「まぁ、止めを刺すのは俺の仕事だろうな」
リュートは笑いながらファトストの肩を小突く。
阿吽の呼吸で配置が決まると、ファトストは二人に向かって策の詳細について説明する。
「なぜっていつものことだろ?なあ、リュゼー」
「おうよ、リュート。いつものこと、いつものこと。お前が策を考えて俺たちがそれを実行する。さっきお前が言った通り、いつものことをするまでさ」
宝探しにでも行くようなワクワクが抑えられない雰囲気のリュートに、これからみんなで散策がてらの散歩でもしそうなリュゼー。
あれほどまでのマクベを前にしても動じない二人に、ファトストは頭をガシガシと搔く。
「ふざけんなよ、お前達」
「ふざけてねえよ。ほら、さっさと策を出せよ。もう考えついてんだろ?」
「そうだそうだ、もったいぶらないで早く出せ。こんなのサクッと終わらせようぜ」
厳格なことで知られるセイ僧の庭に生えているイチジーの実を、度胸試しで頂戴した時と同じような口調で話す。
ファトストはあの時も二人の誘いに乗り、酷い目にあったのを思い出す。
「何なんだよ、お前達」
ファトストは頭を掻くのをやめ、両の手を腿に打ちつける。「今回だってそうだ。オソ爺に元気だしてもらうために大好物のイノ鍋ご馳走しようって言っていたが、本当はお前達が食べたいからだろ」
ファトストは腰にぶら下げてある、先が二股に分かれている笛を咥える。ピビィーーーーーと、高音と低音が重なり合う音色が山々を駆け巡り、遠くまで響き渡る。
ファトストはマクベの動向を探る。しかしマクベはその音に警戒こそ示すが、その場から動こうとはしない。
「ダメか」
ファトストから悲哀のこもった声が漏れる。
「残念、無理みたいだな」
リュゼーはケラケラと笑う。
「もう、腹を括れって。危機を知らせる笛を鳴らしたってマクベはその意味を知らねえんだから、こうなるだけだろ」
「さっきリュートが言った通りにあいつは俺達のことを下に見てるんだから、大きな音出したって逃げねえだろ」
「そんなことは俺だって分かってる」
ファトストは笛を地面に投げ捨てて、再び頭を掻きむしる。
「そうか、お前の策は始まってたんだな。戦う前に相手を引かせる。教科書通りの作戦ってことだろ?」
「うるさいリュート。お前は矛や弓の訓練ばっかりしてないで策についてもう少し勉強しろ」
リュートはリュゼーの顔を見る。俺の後押しをしろと、その目が語っている。
「でもよ」
リュゼーはリュートの視線を受けて話し始めたが、ファトストの気を引くかのように少し間を空ける。「オソ爺のためにイノを狩りに来たらその仇が現れるなんて、何だか運命めいたものを感じるな。これって偶然じゃなくて必然ってやつじゃないのか?」
「うるさいリュゼー。リュートの思い付きに乗っかって、いつも俺のことをそそのかしやがって」
ファトストは掻いていた手を胸の前に持ってきて、ギュッと拳を握る。そしてパンっと両手を顔に打ち付ける。
「よし、分かった」
「おっ!?」
「そうこなくっちゃ」
リュートとリュセーはファトストに顔を近づける。
「で、どうするよ?」
リュートはワクワクを抑えきれない顔で尋ねる。
「戦況は三対一だ。数の利を活かして一人が中央から攻め立てて残りの…」
「却下」
リュートは白けた目をする。
「何でだよ?まだ策の途中だぞ」
「お前さぁ、さっき笛を吹いた時にあいつが警戒したのを見て、三人で襲い掛かれば逃げ出すと踏んでんだろ?逃げ出さなくても短弓が効かないと分かったら、俺たちが諦めるとでも思ってんじゃねえのか。違うか?」
「ち、違う」
ファトストは動揺を隠すように首を振る。
「違うっていうなら中央はファトスト、お前がやれよ」
「中央は最も武があるお前の役目だろ?」
「中央を囮にして、俺達が両側から射かければいいじゃねえか」
何も言えなくなったファトストに向けてリュートは言葉を続ける。「お前自身さえ気乗りのしない、そんな策を俺達にやらせるつもりか?」
ぐうの音も出ない。ファトストの顔が物語っている。
「俺もその策には反対。イノの時みたいに面白いのがいい」
リュゼーは口を尖らせて、己の不満をファトストに示す。
「……何でこいつらはこんなに勘がいいんだ?」
「おい、何を言ってるのかきこえないぞ。腰が抜けて声が出せなくなったか?」
リュートは笑いながら手の平を自分の方に何度か振り、次の策を催促する。
ファトストはゆっくり深く息を吐きだす。
「それならお前達が満足する策を示してやる」
ファトストは少し前屈みになり、それぞれと目を合わせる。
それから地面に視線を落とし、指で丸を描く。
「相手はイノじゃなくマクベだ。この場から弓を射たところで倒せるとは思えない。威力を上げるために距離を詰めなければならないが、リュートの指摘通り無闇に突っ込んでいっても逃す可能性が高い。それなら警戒心の強いあいつ自らこっちに来させる」
リュートはニヤリと笑いリュゼーと目を合わせる。リュゼーもニヤリと笑い返しこくりと頷き返す。
二人も描かれた丸に視線を落とす。
「そのためにすべき事は二つ。まず初めに、俺達の実力を相手に見縊らせる。大人がいる時は隠れているのに俺達の前には現れた、最初からあいつは俺達の事を下に見ている。俺達が弱いと分かればさらにあいつの警戒心も緩む」
ファトストは先程描いた丸から線を引き、線の端に符丁を記す。「それができたら、次はイノを使う。あいつの狙いは俺達じゃなくこのイノだ。そこまでいけばマクベにとってこのイノは、自分のものだと勘違いするだろう」
ファトストは先ほどの丸から間を開けて、もう一つまるを描く。
「策だと分かっても何だか腹立つな」
リュートは手の平に拳をぶつける。リュゼーも顔を顰めて頷く。
「俺達がイノを移動させようとしたら、執着心の強いマクベはそれを妨害してくるはずだ」
ファトストはマクベを示す丸からイノを示す丸まで矢印を伸ばし、「そこを討つ」という言葉と同時に二本の線を斜めに交差させる。
「いいねそれ」
リュゼーは楽しそうに声を上げる。
「やらばできるじゃねえか」
リュートは満足気にファトストの肩に手を置く。ファトストは鬱陶しそうにその手を払いのける。
「じゃあ俺が陽動だな」
「ああ、リュートにそんな器用な真似はできないからな」
ファトストは揶揄うように先程の意趣返しをする。
「まぁ、止めを刺すのは俺の仕事だろうな」
リュートは笑いながらファトストの肩を小突く。
阿吽の呼吸で配置が決まると、ファトストは二人に向かって策の詳細について説明する。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる