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第2章 開かない箱
23 ジークを探せ 3
しおりを挟む俺は小間物屋のおじさんにミシェルさんのからくり箱を見せ、どの村で造られているかを聞いてみた。
おじさんはひと目見るなり「ほう、これは」と声を上げた。
お。さっそくいい感触だ。っていうか、ひと目見ただけで違いがわかるって凄いな。
おじさんは箱に手を掛けると「ん?」と、眉をしかめた。
「なんだ、開かないじゃないか」
「それが、開かないように封印の魔術が掛けられているみたいなんです」
「ふん、なるほど」
小間物屋のおじさんは箱をためすつがめす眺めると、箱の外側の部品を引いたり押したりした。
部品はかたかたと音を立ててわずかに動くだけで、エミルが俺たちにやって見せたように、引っ込んだり外れたりすることはなかった。
「こいつぁ、土産物として売ってるものではないねえ。客に箱の開け方を教えなきゃならねぇから、この箱を売ってる店主は開け方をひととおり知ってるんだが、こいつは……。見たことのねえ仕組みだな」
「やっぱり複雑な仕組みなんですか?」
おじさんは唸ると、指であごひげをなでた。
「普通の箱は五回くらいの手順で開けられるんだが、こいつは五回じゃ開かねえかもしれねぇなあ」
「じゃあ、そういう複雑なからくり箱を造れる職人さんを知りませんか?」
おじさんから返ってきたのは、「知らねえなあ」という言葉だった。
俺は礼を言って、小間物屋を離れた。
「ま、いきなり手がかりが掴めるわけないしな」
それにしても、普通のからくり箱だって充分複雑な仕組みになのに、ミシェルさんの箱はそれ以上に複雑だなんて……。
でも、この複雑さがきっと手掛かりになるはずだ。俺は気持ちを切り替えると、二つ目の小間物屋を訪れた。
ひげを長く伸ばした店主のおじいさんに箱を見せると、
「ほうほう、これはいい出来じゃのう」
うなづきながら、かしゃかしゃと箱の部品に手を掛ける。そしてひととおり箱をいじり終わると顔を上げた。
「この癖は、テンプトン村だな」
「癖なんかあるんですか?」
具体的な村の名前が出て来て、心臓がどきりとする。
「からくり箱ってのは、どの村も仕組みは共通しておるんじゃよ。だが、部品の大きさや形、塗りなんかにそれぞれの特徴が出る。これは間違いなく、テンプトン村で造られた箱じゃな」
「テ、テンプトン村……。よく見ただけでわかりますね」
おじいさんは「年の功じゃ!」と言ってほがらかに笑った。
開かない箱が造られたのはテンプトン村。
これは大きな収穫だ。もしかしたら、その村にジークさんはいるかもしれない。
すると、まだ箱を調べていた店主のおじいさんがつぶやいた。
「しかしまあ、こりゃあ、造った本人じゃないと開けられないかもしれんぞ」
俺は礼を言って店から離れた。
おじいさんが最後につぶやいたひと言が、耳に残って離れなかった。
「造った本人じゃないと開けられないって、言ったよな……」
ジークさんがミシェルさんに開かない箱を渡したのはミシェルさんが夢を諦めないようにっていう、ジークさんなりの応援の仕方だと思っていた。
だけど、それならこの複雑なからくり箱か、封印の術、どっちかひとつでよかったんじゃないか。
からくり箱だって、別に普通に売っている土産物の箱でも構わないはずなんだ。手順書がなければ、開けられないんだから……。
「本当に、ミシェルさんの夢を応援したいだけだったのかな……」
ふいに、以前交わしたエミルの言葉が脳裏をかすめた。
――開かない箱の真の理由はジークさんにしかわかりませんよ。
俺は、ジークさんのミシェルさんへの友情だと信じて疑わずに来た。
でも箱のことを知れば知るほど、俺の中でもやもやした疑問が少しずつ大きくなっていったんだ。
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