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第2章 開かない箱
22 ジークを探せ 2
しおりを挟む手がかりはジーク・ベナークっていう名前と、たぶん現在は医者をしているということ。それからあの「開かないからくり箱」だけ。
「ええ、とっておきの方法があります。それは」
「それは……?」
俺は身を乗り出した。
やっぱりエミルはジークさんの捜索方法、ちゃんと考えていたんだな。
「人海戦術です」
「……どこがとっておきの作戦なんだよ……」
俺はがっくりと肩を落とした。
人海戦術ってことはつまり、しらみつぶしに店を当たるってことだろ?
効率悪いんじゃないか? 時間だって限られてるし。
すると俺のうんざりを、エミルが察したみたいだった。
「まあ、そんな顔しないで。話は最後まで聞いてください」
エミルは肩掛けのカバンから、あの小箱を取り出した。
「それが例の開かない箱なの?」
グラディスが聞いてくる。そっか、グラディスは見るの初めてだっけ。
あれ、でも。小箱は俺が預かってきたはずだけど……。
「これは普通の土産物ですよ。今、昼食を買いながらついでに買いました」
言いながら、エミルが小箱の側面の部品を引っ張る。そして今度は別の部品を外すと、小さな隙間から鍵がこぼれ出た。
グラディスから「わあ、おもしろーい」と歓声が上がる。
エミルがさっき引っ張った部品を今度はぐっと押し込めて、また別の部品を取ると今度は鍵穴が……。
すごい。見た目はただのお洒落な木箱なのに。これじゃあ、手順書なしには開けられそうにないよ。
「市場をざっと見てみましたが、土産物を扱っている店はそれほど多くないようです」
「そっか。じゃあ、三人いれば、全部の店を回れそうだね」
エミルがうなづく。
「ええ。それに全部の店を回る必要はありません」
「え? どういうこと?」
「野菜や食料を売るついでに土産物を置いてあるような店は省いていいでしょう。土産物や物産品をメインで売っている店だけで充分です。からくり箱をまとめて仕入れているのはそれらの店でしょうから」
エミルは買ったばかりのからくり箱をグラディスに手渡した。
「じゃあ、このからくり箱をお店の人に見せながら、ジークさんのことを聞いて回ればいいんだね」
「そのとおりですよ、グラディスさん。まあ、案外簡単に見つかるんじゃないでしょうか。イルミナファンクラブのおじさんによると、かなり凝った造りのようですから」
俺は、自分のカバンから預かってきたミシェルさんの小箱を取り出した。見た感じはエミルが買った箱と変わらないように見えるけど……。
「凝った造りってことは、普通のお土産とは仕組みが違うってこと? もしかしてジークさんが作ったのかな」
「さあ、そこまではわかりませんが……」
エミルはふむ、と腕組みをした。
「この箱を作っているのは、ミース村、ペンス村、テンプトン村の三つだそうです。土産物よりも複雑な仕組みのからくり箱が作れる腕の良い職人に心当たりはあるか、聞いてみてください」
そしてエミルは各村の名前を書いた小さなメモを俺とグラディスに手渡した。さすが用意がいいや。村の名前、覚えきれないと思ってたところだったんだ。
「ジークさんの名前を出してもいいんだろ?」
「もちろんですよ。そういう名前の医者を知っているか、合わせて聞いてみてください」
「わ、わかった」
「りょーかーい」
※
俺たちはとりあえず今日泊まる宿屋で予約を済ませ、そこからそれぞれ聞き込みを開始することにした。
ちなみにこの宿屋はイルミナさんが教えてくれた。料金も安くて市場からも近い、良さげな宿だ。
「じゃあ一時間たったら一度、宿屋の前に集合ってことでいい?」
「いいよー」
「異論ありません」
そして俺たちは市場で三手に分かれた。グラディスは市場の手前から、エミルは真ん中あたり、俺は市場の奥から聞き込み開始だ。
俺は最初の小間物屋をのぞいてみた。
棚の上には木製の食器や、革ベルト、たばこ、服や毛織り物に混じって、あのからくり箱が置いてあった。
「すいませーん」
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