道具屋探偵ファンタジア ~古道具を売りに行ったら探偵の助手として雇われました~

荒久(あららく)

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第2章 開かない箱

20 魔物と魔力

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 しかも一匹だけじゃない、二、三……、全部で五体?

 護衛が剣を抜いて魔物に切りつける。
 魔物は意外と動きが鈍く、護衛の剣にあっさりと真っ二つにされた。

「やった!」

 なんだ、思っていたより全然弱いじゃないか。
 なんて思っていたのもつかの間、くずれて黒い泥みたいになった魔物が再び盛り上がって、元の野犬の形に戻ってしまった。

「な、なんで……?」

 切っても元の姿に戻るんじゃあ、倒せないじゃないか!
 そのとき、グラディスが馬車の前に出た。剣を大きく上段に構え、思い切りそれを魔物に叩きつける。

「だあぁあああ!」

 ぐしゃっと、魔物が黒い泥になって地面に崩れる。
 グラディスがその上からさらに剣を叩きつけたり足で踏みつけたりすると、魔物はようやく地面にすうっと溶けるようにして消えていった。

 えぇ……。
 魔物を倒す方法って、あんなふうにしつこく打撃攻撃をするしかないの……。
 思ってたイメージとだいぶ違うっていうか、かなり泥くさい戦いなんだな。

 でも打撃だけで倒せるなら、俺も行って、魔物をぶっ叩いたほうが良いのかもしれない。
 杖を握りしめながらそんなことを考えていたとき、馬車の扉が開く音がした。エミルが、馬車の外に出て行こうとしていた。

「エ、エミルも行くの!?」
「エドガーさんは馬車から出ないでください。馬車は結界の術を施してあるので、魔物は中に入って来れませんから」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 俺が止めるのも聞かずにエミルが馬車の外に出て行く。
 エミルは赤い魔石がはめ込まれた杖を高く掲げるといつもの冷静な顔で「イル・フィオス」と解除の呪文を唱えた。
 同時に、巨大な炎が杖の先端から吹き出して、俺は思わず腕を目の前にかざした。

「うわっ」

 エミルらしくない、驚いた声が聞こえてくる。
 炎のまぶしさから俺がようやく目を開けると、街道の脇のハイデの茂みは広い範囲が焼き払われていた。
 すごい、これが魔術なんだ……。

「エミル、大丈夫?」

 馬車の窓からエミルに呼びかけると、エミルはケホケホと咳き込みながら馬車に近寄ってきた。

 魔石から吹き出した炎があまりに巨大だったせいで、エミルの前髪が少し焦げている。
 エミル、魔力強そうだとは思っていたけど、こんなにすごいなんて……。

「すごいな、君の魔力……」
「違いますよ、イルミナ姉さんの調整ミスです。魔石の」
「あ、そうなの?」

 なんだ。だから珍しく前髪を焦がすなんて失敗をしたのか。エミルらしくないと思ったんだよな。

 でも、調整ミスじゃなくて、普通より大きめの炎が出るようにわざと調整したんじゃないかな、イルミナさんは。
 エミルのことが心配だろうし。多少の魔力でも、間違いなく炎が出るようにしたかったのかもしれない。

 その時、俺の背後でガタガタと音がした。
 すっかり安心していた俺が何気なく振り向くと、犬の前足らしき真っ黒い何かが、馬車の窓枠を引っかいていた。

「うわっ、ま、まもっ」

 魔物ーっ!!
 俺は握りしめていた杖を目の前に振りかざした。
 なんだっけ呪文、いる、いる、いる……!

「イル・ライツ!!」

 ……。
 …………。
 何も出ないじゃないかあ!
 こんなことだろうと思ったんだ。俺、間が悪い男だし!
 運もないし!!
 もう嫌だああ!
 俺が半泣きになっていると、扉に取り付いていた魔物が剣で叩き落とされた。

「エドガー、大丈夫?」
「グラディス!」

 グラディスがそのまま魔物を剣で叩き切り、魔物は土の中へと消えていった。
 それが最後の一体だったようだ。
 俺は緊張の糸が切れて、ひとり、馬車の中でへたり込んでいた。

「もうやだ……」

 サンズベルクを出てまだ一時間たらずだというのに。
 俺たち、無事に目的地へとたどり着けるんだろうか……。
 
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