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第2章 開かない箱
18 キシュヴァルドへ 2
しおりを挟むちなみに馬車に乗っているのは、俺とエミルとグラディス、そして御者と、馬車の護衛の計五人。
最近は魔物が昼間も出没するようになったから、人気の無い街道を走る馬車には必ず護衛が同乗することになっているのだそうだ。
「物騒な世の中になったなあ。俺たちの村じゃ、まだ魔物が出たなんて話は聞かないけど」
ふつう街や村には結界が張られていて、魔物が街に入って来られないようになっている。
結界を張るのは、魔術師や教会の司祭の仕事だ。
俺の村は教会の司祭様、つまり俺の親友イーデンの父親が中心になって術を施している。イーデンもいつかはそうやって、村を守ることになるんだろうなあ。
「私たちの街も、まだ魔物が出たって話は聞かないよ」
「魔物が出る地域も、ばらつきがあるようですね」
どうやらサンズベルクの城より南側は、魔物の出没はそれほどでもないらしい。
でも、今向かっているのは北東で、いつ魔物に襲われてもおかしくないわけで……。
そういうわけで、サンズベルクを出てからというもの、俺は内心どきどきしていた。
「魔物って動物にとりつくんだろ? 俺、魔物見たことないんだけど、普通の動物とどうやって見分けるの?」
「ひと目見れば分かりますよ。動物とは全然違いますから」
「へえ、そうなんだ」
魔物はふつう、夜に潜む。
そして野犬やオオカミ、時には熊なんかの、森林にいる動物に取り付くことがほとんどだ。
まだまだ謎が多い存在で、昔から研究は続けられているけど、いまだに魔物の正体は明らかになっていない。
通説によると、天災――干ばつや大雨、流行り病などで国が荒れたり、戦争が起きて国が不安定になると、魔物が多く出没すると言われている。
サンズベルクは数年前に王が崩御して、現在は王妃が女王の座についている。
最近じゃ、魔物が多く出没するのは女王の政治力が弱くて国力が下がっているせいだ……なんていう噂もまことしやかに流れているくらいだ。
「魔物は真っ黒な色をしてるから、野犬やオオカミとは全然違うよ」
「へえ、グラディスは見たことあるの?」
「うん。この間、授業で遠征に行ったでしょ。そのときにね」
「えっ、た、倒したの?」
「先輩が倒すのを見てただけ。倒してみたかったんだけどねー。でも、そんなに怖がるほど強くないから。野犬やオオカミに集団で襲われたほうがヤバいかな」
正直なところ、実戦経験のないグラディスについて来てもらっても意味がないんじゃないかと思ってんだけど、こうして話を聞いているとすごく心強い。
それに馬車専用の護衛はついているし、おまけにエミルは魔石の杖を何本か持ってきていた。
杖の先端に魔石がはめ込まれた、魔術が使える杖だ。多少の魔力があれば誰でも、この杖で魔物を撃退することができるんだそうだ。
エミルは見るからに魔力がありそうだもんな。俺なんか、高等科の健康診断の時、魔力の素質ゼロって言われてがっかりしたもんだけど。
「グラディスもいてくれるし、エミルの魔石もあるし、無事にキシュヴァルドにたどり着けそうでよかったよ」
すると、エミルが杖を一本つかんで俺のほうへ差し出してきた。
「エドガーさんも使ってみますか? 僕はエドガーさんには素質があると思ってます」
「い、いやでも、俺、高等科で魔力の素質ゼロって言われたし」
「今はゼロでも、魔力なんて努力しだいで引き出せますよ」
そう言って、エミルは俺に杖のひとつを手渡した。
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