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第2章 開かない箱

16 イルミナの占い 4

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 イルミナさんにしては珍しいきりっとした声が道具屋に響き、見ている俺たちにも緊張感が走る。

 イルミナさんは小さな籠に入れてあった葉を一枚手に取ると、それを小箱に触れさせた。
 あれはパセリだ。
 食用でもおなじみだけど、昔から魔除けとして使われることの多い、ハーブの一種なんだ。

 イルミナさんは、パセリの葉をテーブルに置いてあった水を張った平たい皿に浮かべた。

 金属で造られた平たい皿は、広さは大人の頭二つ分くらいだけど、浅さは小指の先ほどしかない。その底には、なにやら星座が描かれた天体図のようなものが描かれている。

 水皿の上に浮かべたパセリの葉の上にイルミナさんが手をかざすと、小声で何かをつぶやき始めた。聞き取れないけど、何かの呪文みたいだ。

 すると、パセリの葉が少しずつ動き始めた。
 隣で、グラディスやパメラが息を呑んだ様子が伝わってくる。
 風も吹かないこの狭い道具屋の中で、パセリの葉が動くなんて……。

 パセリはしばらくの間、イルミナさんの手の下でゆらゆらと漂っていたんだけど、少しずつ進路を定め、それは水皿の右端、つまりミシェルさんが座っているのとは反対の北東の方角へと動き出し。

 突然、すっと水の中に沈んだ。

 えっ、嘘だろ?
 パセリの葉が、まるで何かに引っ張られるみたいに沈むなんて……。

 そのとき、ふう、とイルミナさんが息を吐いて、漂っていた緊張感が途切れた。

「どうやら、この小箱に染みついている念はミシェルさん、あなたではなく別の人のものみたいね」
「そうですか……」

 ミシェルさんが小さなため息とともに頭を垂れる。
 ということは、あの小箱にはやっぱりミシェルさんの友人・ジークさんの悲しみが染みついているってことだ。

 占いが終わったイルミナさんが、よいしょ、なんて言いながら立ち上がる。

「グラディスちゃん、悪いけど少し手を貸してくれる?」
「え、あ、はい!」

 グラディスがイルミナさんに駆け寄って、肩を貸す。パメラもその後をついて行った。

「大丈夫ですか? 店長さん」
「ええ、平気よ。それよりエミル、あとはお願いね」

 そう言ってイルミナさんは、グラディスたちに助けられながら、奥の部屋へと戻っていった。

「エミル、占いってあんなに消耗するものなの……?」
「まあ、今回は過去を視るという慣れないことをしたせいでしょう」
「申し訳ないことをしたかな」

 ミシェルさんが寄ってきて言う。

「気にしないでください。甘い物でも食べておけば、すぐに回復しますから」
「えぇ……。魔力ってそんなものなの?」
「案外そんなものですよ」

 魔力の素質がない俺にとっては、なんだか夢が壊れる話だなあ。

「悲しみの大元はジークさんだということがはっきりしましたし、僕たちは今後のことを相談しましょうか」

 そして俺とエミル、ミシェルさんはテーブルの上の占い道具をざっと片付けると、三人でテーブルに座り、話し合いを開始した。

 小箱に染みついている悲しみは、ミシェルさんの友人、ジークさんのもの。
 俺たちはノエルのために、ジークさんの悲しみを断ち切らないといけない。
 問題は赤の他人の俺たちが、どうやったらジークさんの悲しみを消し去れるかなんだよな……。
 


 
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