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第2章 開かない箱
21 ジークを探せ 1
しおりを挟む「ありがとうございました」
御者と護衛の方にお礼を言って馬車を降りると、俺は大きく伸びをした。
「やっと着いたぁ……!」
サンズベルクの城下町を出てから三つの街を経由して、六時間。
俺たちはやっと小箱の生産地「キシュヴァルト」へたどり着いていた。
魔物はあれきり出没することはなかったし、無事目的地に到着できて本当に良かった。
「いてて、腰が痛くなっちゃったよ……」
俺が杖をついて腰を叩いていると、案の定エミルが茶々を入れてきた。
「大丈夫ですか? お年寄りみたいになってますよ」
「子どもは元気でいいよなあ……」
「私も元気だよ。ほら」
グラディスは普段から訓練していることもあって、さすがにピンピンしている。
俺も少し運動したほうがいいかな。町内一周歩いてみるとか。
街道から一本奥にある大通りに向かうと、通りは市場でにぎわっていた。
キシュバルドはサンズベルクの北東に位置していて、街の向こう側は高い山が幾重にも連なっている。あの山を越えたら隣国だ。
そのせいか俺たちとは服装も若干違うし、時々聞きなれない言葉が聞こえてきたりもする。
「すごい店の数だなあ。賑わってるね」
「国境の近くですからね。様々な人や物が行き交っているんでしょう」
時間的にちょうどお昼ということで、俺たちはまずは昼食を取ることになった。
といっても、市場に食堂らしきものはない。
市場でそれぞれ食べたいものを買って、路上に置いてあるテーブルで食べるみたいだ。
とその時、ある物が俺の目に留まった。
「あっ、珍しい薬草……」
ふらふらと歩いて行こうとした時、背後からぐっと服をつかまれた。
「そんなの後でいくらでも見れるでしょう。とりあえず腹ごしらえですよ」
「ああ、俺の薬草~……」
市場は、棚にびっしり野菜を置いてある店や、肉料理を売っている店。異国情緒あふれる服を置いてある店など、いろいろな店が道の両脇を埋め尽くしていた。
「わあー、美味しそうなシチュー」
「グラディス、何選んでもいいけど、お財布と相談してよね」
「わかってるってば。ねえエミル、ドーナツもあるよ、ほら。砂糖まぶしてあって美味しそう」
「……ほう。いいですね」
エミル、君、お菓子好きなところだけは年相応だな。
予算内で市場を見て回りながら、好きな食べ物を皿に盛ると、俺たちは空いているテーブルに座った。
なんだか見ているだけで飽きない市場だ。
「エドガーは何? 野菜の煮物に野菜の炒め物? 野菜ばっかり。おじいちゃんみたい」
「パンもあるよ。魚も少し。ほら」
俺の田舎ではあまり見かけない野菜が多くて、つい野菜料理ばかり買いこんでしまったのだ。うーん、百姓の性かな。
「そんなだから、馬車に揺られたくらいで疲れ果ててしまうんですよ」
「そうそう。ちゃんとバランスよく食べないとね」
そう言ってグラディスとエミルが俺の皿にそれぞれ肉を一切れとソーセージを乗せてくれた。
「あ、ありがと……」
いやでも俺、医学科なんだけど。
君らよりずっと食事バランスとか詳しいんだけど、もしかして忘れられてるんじゃないだろうか。
まあ、俺だけ貰ってばっかりもなんだし、と俺は自分の皿を二人に差し出した。
「あ、じゃあ、俺の野菜あげ……」
「いらなーい」
「僕、野菜は嫌いです」
おまえらさあ……。
昼食をあらかた食べ終わると、俺は気になっていた今後のことをエミルに訊ねてみた。
「で、ジークさんをどうやって見つけるの。エミルは何か考えがあるんだろ?」
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