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第2章 開かない箱

17 キシュヴァルドへ 1

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 次の休日。
 俺とエミル、そしてグラディスの三人は、小箱を造っている北東の街「キシュヴァルド」を訪ねて行くことになった。

 キシュヴァルドは城下町サンズベルクからは少し遠く、六時間は馬車に揺られなければいけない。
 日帰りは難しいからとのことで、キシュヴァルドに一泊することになった。行って帰ってくるだけならともかく、ジークさんの居場所を探さなきゃならないからね。

 手掛かりはあのからくり箱だけ。

 ちなみに、小箱はミシェルさんから預かってきた。この箱が、ジークさんを探す唯一の手がかりだし。ジークさんに会えたら、もちろん箱の開け方を教えてもらうつもりだ。

 問題はどうやってジークさんを見つけるのかなんだけど……。
 といっても、その辺はきっとエミルが考えているだろうから、俺はあまり心配していないんだけどね。

 俺たち三人を乗せた馬車は、やがて城下町を出た。
 城下町の中ほどの丘にそびえるサンズベルク城が、どんどん小さく遠くなってゆく。
 このまま街道をまっすぐ走っていくつかの街を経由すれば、キシュヴァルドに到着だ。

「わあー。いい風」

 グラディスが馬車の窓から外の景色を眺めると、グラディスの小麦色の前髪が風に揺れた。

 ちなみに今回グラディスが一緒なのは、魔物の出没に備えてのことだ。つまり、俺たちの用心棒というわけ。

 でもそれとは別に、エミルがグラディスを連れて来た理由があるらしいんだけど……。まあ、俺が詮索してもどうせ教えてくれないだろうから、放っておくことにする。

「見て見て。どう、この服」

 街を出て気持ちが落ち着いてきた頃、グラディスが着ている服を俺たちに見せびらかした。
 戦士が身につけるようなチュニックと、ベルト。丈夫そうなズボンに、ブーツ。そして剣。
 すでにいっぱしの戦士、って感じだ。

「よくお似合いですよ」
「でしょ? イルミナさんが古着の中から見立ててくれて、パメラが手直ししてくれたの」
「パメラが? メイドの仕事をやってると、いろんな事ができるようになるんだな」
「違うよ。パメラのお母さんは、パストーレの街で裁縫の仕事をしてるの。街でもかなり有名な仕立屋さんに勤めてるんだから」

 グラディスが、まるで自分のことみたいに自慢する。二人は本当に仲がいいんだな。

「へえ。じゃあ、パメラもいずれは仕立の仕事をするの?」
「う、うん。それは、どうかな……」

 グラディスは首をかたむけると、言葉を濁した。
 まあ、貴族のお屋敷で働き始めたばかりだろうし、そうそう簡単に辞めるわけにいかないもんな。
 それに、あれだけ大きなお屋敷ならお給金も良いだろうし。

 そういえば旅立つ直前、パメラが見送りに来てくれて、グラディスに「旅人の石」を渡していた。
 旅人の石は「月光石」といって、魔除けの効果があると言われている。旅人が持つお守りの定番だ。

『グラディス、くれぐれも無理しないでね。危なくなったら逃げるのよ』

 グラディスにお守りを渡すパメラは、まるでグラディスのお母さんみたいだった。俺やエミルに対してはまだキツい態度だけど、グラディスにはかなり甘いみたいだ。

 そしてパメラは俺たちにも「旅人の石」をくれた。グラディスに渡したものに比べたらかなーり、小さいものだったけど。

『グラディスだけってわけにもいかないもの。グラディスのこと、よろしくね』

 いやいや、パメラ。
 グラディスは俺たちの護衛なんだけど、それ忘れてない?

 
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