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第2章 開かない箱

15 イルミナの占い 3

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「ええ。体調がすぐれなくて、奥で休んでます」
「そうなんだー。今日は会えると思ったのにな」

 がっかりした様子でグラディスが頭を垂れる。俺は少し驚いていた。

「あれ、グラディスはノエルに会ったことなかったっけ?」
「うん。それが、まだなんだよね」

 グラディスは磨き布の事件が終わってから、結構頻繁に道具屋に顔を出しているはずだけど、まだノエルと顔を合わせたことがなかったのか、意外だな。

 まあ、ほぼ毎日のように道具屋に来ているバイトの俺ですら、滅多に顔を合わせないから、そんなものなのかもしれない。

 そのとき、ガチャリと音がしてカウンター奥の扉が開いた。
 まず姿を現したのはミシェルさん。質素な普段着を身につけているけど、それでも洒落た感じに見えてしまうのは、さすが芸人だ。

 そしてミシェルさんの後からイルミナさんが姿を現す。
 俺がどきどきしながらミシェルさんの陰に隠れたイルミナさんを覗き込んだ時。

 グラディスから「わあ」とため息交じりの声が上がった。

「綺麗……」

 と、これはパメラ。
 俺は、文字通り言葉を失っていた。

 衣装はすごくシンプルだった。
 白い麻の生地の、なんの飾り気もないドレス。
 いや、ドレスですらない。
 なんか、雑に縫い合わせたただの布って感じの。
 教会で司祭が何かの儀式をするときのような、なんか色々とそぎ落としすぎたって感じの……。

「エドガーさん、なんだか不服そうな顔をしてますが」
「べつに」

 エミル、お願いだから放っておいてくれないか……。

「もっと色っぽい格好を予想してたんじゃないんですか? 妖しげなローブを着込んでいるとか、ショールで頭を覆っているとか、口元を隠す薄いマスクを身につけているとか、宝石や貴金属類じゃらじゃらさせているとか」

 ……くっそ、全部言われた。

「だから期待値を上げないほうがいいと言ったのに」

 エミルがやれやれとため息をつく。俺は反論する気力さえ失っていた。
 だって! だってあれじゃあ、ただの貫頭衣と変わらないじゃん!

「えー、そうなの? エドガー」
「だから別に、そんなんじゃ……」

 グラディスが俺の顔を覗き込んできたのでぞんざいに答えていると、

「男って最低」

 隣にいたパメラが氷のように冷たい口調で呟いた。ああ、この子、男嫌いなんだっけ……。

「ああでも、おとぎ話に出てくる魔女みたいな衣装のイルミナさんも、見てみたかったかも……」

 グラディスがほぅ……とため息混じりでつぶやく。
 うん、もうどうでもいいや。
 俺が投げやりな気持ちになっていると、イルミナさんのんびりした口調が俺たちに向けられた。

「ほらそこ。静かにしてちょうだいね。気が散るから」
「はぁーい」

 
 そしてようやく占いは始まった。

 用意したアンティークテーブルにイルミナさんとミシェルさんが向き合って座る。
 テーブルはイルミナさんが北を向いて座るように設置されていた。

 対面にミシェルさんが座っているんだけど、イルミナさんの真正面じゃなくて、イルミナさんから見て左端、つまり北西の方向に座っている。

 そしてミシェルさんとは反対の机の右端――つまり北東の方向には、あの小箱が置かれていた。

 イルミナファンクラブのおじさんたちにからくり箱のことを聞いたら、箱はここサンズベルクからは北東の方向に位置する「キシュヴァルド」という街の物産品だという事が分かったのだ。

「では始めます」

 
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