道具屋探偵ファンタジア ~古道具を売りに行ったら探偵の助手として雇われました~

荒久(あららく)

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第2章 開かない箱

13 イルミナの占い 1

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 道具屋へ戻ってすぐに、俺たちはイルミナさんにミシェルさんの事情を話した。

「占い師に過去を視ろっていうの? 専門外なんだけどなぁ~」

 そう言ってイルミナさんは困ったように笑っていたけど、断るつもりは最初からないみたいだった。
 イルミナさんにとっては、可愛い甥っ子と姪っ子だもんね。

 そしてその話はミシェルさんに伝えられ、一座の次の休演の日、ミシェルさんは小箱と共に、再び道具屋レイツェルにやってきたのだった。

 臨時休業の札が掛けられた道具屋は、いつもとは違う雰囲気に改造されていた。
 薬草や道具を陳列している棚を隅に寄せて真ん中に狭いスペースを作り、そこに売り物のアンティークテーブルを置いた。イルミナさんとミシェルさんが座る、即席占いテーブルだ。

 テーブルの上にはすでに、なにやら占いの道具が細々と置いてある。
 こんなふうに、いつもとは違う道具屋の雰囲気に、俺はなんだかどきどきしていた。

 ちなみにイルミナさんとミシェルさんはカウンターの奥、道具屋の事務所で話をしている。
 なんでも、占う相手の細かな事情を聞き取りをする必要があるんだそうだ。立ち入ったプライベートな話を、俺たちが聞くわけにいかないもんな。

 そして今、道具屋には俺とエミルだけ――のはずだったんだけど、なぜかグラディスとパメラがちゃっかりと占いの見物に来ていた。

 どうやらグラディスはエミルに今日のことを聞いて、パメラにまで声を掛けたらしい。
 グラディス曰く、
 
「だって、あのミシェル・ギルマンに生で会えるんだよ? 誘わないわけにいかないじゃない!」

 ちなみに、グラディスとパメラは二人でマルヴォー一座の公演を、もう二度も観に行ったそうだ。
 働いているパメラはともかく、学生のグラディスはよく二度も行けたなあ。実家が裕福なのかな。ちょっと、羨ましい。

 でも俺も、公演が終わるまでに一度行ってみるつもりだ。ミシェルさんの歌を聴いてみたいし。それに道具屋のバイト代をはずんでもらってるお陰で、今は生活費にも少し余裕があるしね。

 パメラは道具屋が物珍しいのか、店の中をきょろきょろと見回している。
 これまでは黒のメイド服しか見たことがなかったから、今日の私服姿はなんだか新鮮だ。

 ちなみにグラディスはいつも着ているような普段着のドレスじゃなくて少しお洒落めのドレスで、髪も綺麗にしている。
 ミシェルさんに会えるからなんだろうけど、相変わらずわかりやすい子だなあ。

 そしてエミルは――。
 あの日、ミシェルさんの話を聞いた帰り道。
 ノエルの話をした後、すっかり寡黙になってしまったんだけど、道具屋へ戻ると何事もなかったかのように、いつもの饒舌なエミルに戻っていた。

 きっと、ノエルのことはあれこれ詮索しないほうがいいんだろうな。過敏な子だと言っていたし。今日も具合が悪いから、奥の部屋で寝ているそうだ。


 イルミナさんとミシェルさんの話は長引いているのか、事務所からなかなか出て来なかった。
 ただ待っているのも暇だからと、薬草棚の整理を始めた時、パメラが話しかけてきた。

「ねえ、この間の薬用バームなんだけど」
「う、うん。効き目、どうだった?」

 この間、きちんと謝罪して許してもらったわけだけど、まだ少し緊張してしまう。それにこの勝ち気な雰囲気が、実はちょっと怖かったりする。

「この道具屋で売ってないの?」

 ああ、それでさっきから、店内をきょろきょろ見ていたんだ。

「ああ、うん。あのバームはあの時初めて作ったものだったから売り物じゃないんだ。もしかしてもう無くなったの?」
 
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