道具屋探偵ファンタジア ~古道具を売りに行ったら探偵の助手として雇われました~

荒久(あららく)

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第2章 開かない箱

06 マルヴォー一座 1

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 次の日。
 俺は大学の授業を終えると、エミルと一緒に旅の一座「マルヴォー」が宿泊している宿屋へと向かうことになった。

「グラディスの情報だと、街外れの宿屋に泊まってるっていう話だけど」
「旅の一座といえば大所帯ですからね。馬車を何台も置けるような宿屋を探そうとすると、必然的に街外れの宿になるんでしょう」

 大学があるのは城下町の真ん中あたりだし、下宿先も大学の近くだから、実は街の外れの方にはあまり来たことがない。

 石畳の道を進むたびに人気ひとけは少なくなり、店屋はまばらになっていく。民家も心なしか貧しさが増していくしで、宿の付近に近づく頃にはすっかりうら寂しくなった景色が目の前に広がっていた。 

「エドガーさん、もしかして怖いんですか?」

 エミルの相変わらずの察しの良さに、俺は苦笑した。

「街外れがこんなに寂れてるとは思わなかったんだよ。エミルは怖くないの?」
「大人が一緒なので、特には」

 一瞬、その『大人』が誰だか思い浮かばなかった。
 俺のことか。

「頼りにしてますよ、エドガーさん」

 エミルが俺を見上げて、それはいい笑顔でにこっと笑う。
 いやー、君のほうがずっとしっかりしてると思うけどなあ。

 そういえば、一座の情報を教えてくれたグラディスはすっかり一座の、というよりミシェルさんの大ファンになっていた。

 グラディスもついて行きたいと言ってたんだけど、どうしても抜けられない授業があるからとかで来られなかった。まあ、グラディスを連れて来てもきゃあきゃあ騒いで失礼になるだけだし、ちょうど良かったかもしれない。

「でも、何が入ってるんだろう、あの箱」

 この間、少しだけ触らせてもらったんだけど、箱はすごく軽かった。斜めに傾けても何の音もしなかったから、もしかしたら何も入っていないんじゃないかと思ったくらいだ。

 でも何も入っていないなら、開ける必要もないよな……。

「エミルはどう思う? あの箱、空っぽなんじゃないかってくらいに軽かったんだよ。ミシェルさんは友人から貰ったって言ってたけど、わざわざ魔法で封印するほどだから、よほど大事な物が入ってるんじゃないかと思ったんだけど」
「すごく軽いものが入っているのかもしれませんよ。アクセサリーとか宝石とか。空いた隙間は真綿を詰めておけば重さはないに等しいですし」
「宝石か。なるほどな」

 確かに宝石なら、厳重に鍵をかけるのも分かるな。綿が詰まってるなら、カラカラ音もしないだろうし。

「でもフタを開けられないのに、高価な物を贈っても意味なくない? 二重に鍵を掛けてるんだろ?」
「そうですね」

 エミルはふむ、と両腕を組んだ。エミルが考えるときに見せる仕草なんだけど、子どもらしい外見に似合わない大人びた仕草で、俺は見るたびに笑いたくなってしまう。

「……何をにやけているんですか、エドガーさん」
「うん? 別に?」
「気持ち悪いなあ。子供をそんな目で見てると、変質者に間違われますよ。レイツェルの評判を落とさないでくださいね?」
「はいはい、わかってるよ」

 俺はエミルの毒舌をやり過ごした。最近はエミルの毒舌にも慣れてきたからね。
 エミルはへらへらしている俺をじろりと一瞥すると、再び考え事に戻った

「ミシェルさんの友人がどうして開けられない箱をわざわざ贈ったのか。それも気になりますが、もうひとつ」
「なに?」
「ミシェルさんですよ。なぜその箱を今まで開けようと思わなかったんでしょう」
「それは、他の道具屋に聞いても、ひみつ箱のカラクリがわからなかったんじゃないの?」
「でも箱に魔法が施されていることを、今回初めて知ったんでしょう?」
「あ、そうか。他の道具屋に持ち込んでいれば、封印魔法の情報くらいは耳にするもんな。っていうことは、レイツェルに持ち込んだのが初ってことか……」

 俺とエミルがあれこれ詮索しているうちに、マルヴォー一座が宿泊しているらしい宿屋にたどり着いていた。
 確かに古びた宿屋の奥の空き地には、大きな馬車が何台も止まっている。
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