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第2章 開かない箱
05 謎めいた客 5
しおりを挟むエミルは驚く俺をスルーして、グラディスに声を掛けた。
「グラディスさん、こんにちは」
「はーい、エミル。元気そうね」
「ええ。グラディスさんも相変わらずお元気そうでなによりです」
「もう元気が有り余っちゃって。この間なんか、授業の遠征で国境近くまで行ったんだから。すごいでしょ」
「それは凄い。着実に剣士の夢に近づいているようですね」
グラディスは、俺とエミルが関わった事件の最初の依頼者なんだけど、最近はこの道具屋レイツェルにもよく顔を出すようになった。そんなわけでこのとおり、エミルとグラディスはすっかり仲良しだ。
というより、このタイミングでエミルが出てきたってことは、すごく嫌な予感しかしないんだけど……。
すると、俺のそんな気配を察したのか、エミルがくるりと俺の方を振り向いた。
「ノエルが急にぐずり出しましてね。さっきの小箱、どうやら泣いているようです」
「またかよ!?」
「エドガーさん、もちろん協力してくれますよね?」
「嫌だって言っても、巻き込むつもりだろ」
「もちろんですよ。僕らの子守りはバイト代に含まれているはずですから。ね、イルミナ姉さん?」
「そういえばそうだったわねぇ」
そうなのだ。
エミルとノエルの子守り代として、道具屋のバイト代にほんの少し上乗せしてもらっていたのだ。また何か事件があったらエミルを手伝ってあげてね、と言われて。
「エドガーくん、ごめんねぇ。エミルにまた付き合ってやってくれる?」
「はあ……。まあ、仕事なんで……」
イルミナさんが優しく声を掛けてくれたけど、俺は引きつった笑いを浮かべることしか出来なかった。
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