道具屋探偵ファンタジア ~古道具を売りに行ったら探偵の助手として雇われました~

荒久(あららく)

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第2章 開かない箱

04 謎めいた客 4

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 そして優しげに微笑むと、再びフードを被り直して俺たちに背を向けて扉のほうへと歩き出した。

 俺はなんだか申し訳ない気持ちになっていた。確かにここはただの道具屋で、魔術を専門に扱う店じゃない。俺やイルミナさんが、術の掛けられた小箱をどうにかしてあげることなんて出来やしない。

 だけど、この人はわざわざこの道具屋を選んで訪ねて来てくれたんだ。それを手ぶらで帰すなんて……。

 綺麗なお客さんが道具屋の扉を開けようとしたちょうどその時、外側から扉が勢いよく開いた。グラディスだった。ちなみにグラディスは俺の高等科を卒業した同級生で、今は同じ大学の神学科に通っている騎士見習いの女の子だ。

「こんにちはー! あ、ごめんなさ……」

 グラディスが扉の前にいた綺麗なお客とぶつかりそうになって咄嗟に頭を下げ、道を開ける。目の前を通り過ぎようとしていたフードのお客さんを見て、グラディスが固まった。

「えっ……!?」

 いや、気持ちは分かるけどオーバーリアクション過ぎるよ、グラディス。いくらなんでも失礼だろ。いや、俺も人のこと言えないけど。
 すると、グラディスがフードのお客の前に立ちはだかって、通せんぼした。いやいや、何してんのグラディス。

 さすがに目に余って、俺がカウンターから出ていこうとした時、頬を紅潮させたグラディスが興奮気味に言った。

「も、もしかして今、街に来てる旅の一座のミシェルさんですか? この間、舞台見ました! 歌もすっごく良かったです! あの、握手してもらってもいいですか?」
「えっ、あの旅芸人の?」

 そういえば、一週間くらい前にこの城下町に旅の一座がやって来たという話を、まさにグラディスから聞いたばかりだった。

 そうか、旅芸人ならあの美貌も納得だ。こうしてグラディスみたいに騒ぐファンがいるから、わざわざフードを被って顔を隠していたんだろう。

 それにしても、初対面でいきなり握手を求めるだなんて、グラディスは相変わらずミーハーだな。

「グラディス、いきなり失礼だろ?」
「いえ、いいんです。歌、聞いてくれたんですね、どうもありがとう」

 そう言って、綺麗な人――ミシェルさんはグラディスの手を取って握手をした。グラディスの顔がみるみる真っ赤になっていく。まるでたき火に当たってるみたいな赤さだ。

 握手を終えると、ミシェルさんは「それじゃあ」と言って、今度こそ店を出て行った。

「ああ、どうしよう。今日、眠れそうにない……」

 グラディスが閉まった扉を見つめながら、握手してもらった手を組み合わせて、大きなため息をつく。

 俺はというと、さっきのミシェルさんの悲しそうな微笑みが気になっていた。開けられない小箱といい、なんか訳ありっぽいんだよなあ。
 すると、イルミナさんがそんな俺の気持ちを察したみたいだった。

「あら、エドガーくん。気になるみたい」
「ええ、まあ。なんだか悲しそうな顔をしていたし、訳ありっぽいですよね」
「なるほど。自分はたかが道具屋のバイトで何か出来るような力はないけれど、でもどうにかしてあげたい、ってところでしょうか」
「そりゃ、どうにかしてあげられるのならしてあげたい……ん?」

 このしゃくに障る話し方。
 視線を声の主の方へと移動させると、そこには。

「エ、エミル!? いつからいたんだよ!?」
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