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第2章 開かない箱

03 謎めいた客 3

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 イルミナさんは店に出ると、にこやかな笑顔でお客さんを出迎えた。

「いらっしゃいませ」
「お手数おかけします、店長さん」
「あら」

 イルミナさんが珍しく驚いた顔をして、手を口元に当てる。

「やだ、ごめんなさい。つい見とれちゃったわ」

 さらりと言って、イルミナさんがお客さんと笑顔を交わす。
 こういう対応、さすが大人って感じだなあ。ついジロジロと見てしまった俺とは大違いだ。

 イルミナさんはカウンターに置かれた綺麗な小箱を手に取ってざっと見分すると、言った。

「これはからくり箱ね」
「からくり箱?」

 身を乗り出した俺に、イルミナさんがうなずく。

「そう。別名、ひみつ箱。パズルみたいに、仕掛けが施してあるのよ。箱の部品を引いたり外したりしないと開かない仕組みになっているの。でもそれ以前に魔法がかけられてるみたい」
「ま、魔法? って、あの魔法?」

 俺はさらに身を乗り出していた。ひみつ箱っていうだけでもワクワクする響きなのに、魔法だなんて!

「やだ。エドガーくん、驚きすぎ」
「驚きますって。普通に暮らしてたら魔法なんてお目に掛かる機会ないですもん」

 俺がはじめて魔法に関わったのは、この道具屋でバイトを始めてからだ。さっきお客が予約注文していった魔石なんかがそうなんだけど。

 俺の実家はこの城下町サンズベルクから少し離れた小さな村で百姓をやっている。村や街でごく普通の生活をしていれば、俺じゃなくとも魔法に関わることなんてほどんどないのが普通だ。

 イルミナさんの説明に、綺麗なお客さんも驚いた顔をしていた。

「魔法が掛けられていたなんて知らなかったな。てっきり、箱のからくりが分かれば開けられるものかと……。その魔法、解くことはできるんですか?」
「ごめんなさい、私には無理だわ。魔力は多少はあるけど、ただの占い師だもの。ちゃんと魔術を勉強している魔術師や格上の魔法使いじゃないと解除できないわね」

 占い師が占いをするためにも多少の魔力が必要らしいんだけど、イルミナさんは占いに必要最低限の魔力しか持っていないらしい。
 占い師が本業のイルミナさんがどうしてこんな古びた道具屋の店長をやっているかといえば……。あれ、そういえば聞いたことなかったな。

「どんな魔法を掛けたのかわからないなら、片っ端から解除の魔法を試すしかないわね。でも、鍵開けや封印の術は膨大な数があるの。ひとつひとつ試すにしても結構な時間と手間が掛かってしまうわ。何かヒントになるような物はないかしら?」
「ヒント、ですか……」

 しばらく俯いて考え込んでいたお客さんは、やがて顔を上げると言った。

「いえ、いいんです。どうしても開けなきゃいけないってわけでもないので」

 お客さんが小箱を手に取って「それじゃあ」と言ってその場を立ち去ろうとする。その背中にイルミナさんが声を掛けた。

「ちょっと待って。知り合いの術師に頼んでみましょうか? 少し時間が掛かるけど、片っ端から解除の術をかければきっと……」

 綺麗なお客さんは首を横に振った。

「開けられないのなら、きっとそれが答えなんでしょう」
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