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第2章 開かない箱

02 謎めいた客 2

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 フードを頭からすっぽりとかぶったその人は、否が応にも周囲の目を引いていた。入れ替わりで店を出ていこうとしたお客が、なぜか驚いたような顔でそのフードの客とすれ違っていく。

「すみません、見てもらいたい物があるんですけど……」

 まっすぐにカウンターまでやってきたお客さんが軽やかな仕草でフードを外す。フードの下からあらわれたお客さんの顔を見て、俺は言葉を失った。
 そのお客さんが、まるで彫像を思わせるような整った顔立ちをしていたからだ。

 肩まで伸びた濃い色の金髪に、明るい茶色の瞳、彫が深い目鼻立ち。
 女性……いや、女性にしては低めの声だし身長も高いから、もしかしたら男性なのかもしれない。でも、性別なんてどうでもよくなるくらいに綺麗な人だった。

 こうしてフードを被って顔を隠しているってことは、もしかしたらお忍びでやって来た貴族の人なのかもしれないな。いやでも、こんな古めかしい道具屋なんかにわざわざ高貴な人が来るはずが……。

「あのぉ」

 綺麗なお客さんが困ったような顔ではにかんで、俺は我に返った。しまった、ついじろじろ見てしまった。

「す、すみません!」
「構いませんよ。よくあることですから」

 そう言って、綺麗なお客さんは優しげな顔でにっこりと微笑み返してくれた。
 よかった、優しい人で……。
 俺は慌てふためきながら、カウンターの上に置かれた物に視線を落とした。

「こ、これは? か、買い取り、ですか?」

 目の前に差し出されたものは、小さめの木製の箱だった。大きさは大人の男性の手の平サイズくらいで、深さも小指の長さくらいしかない。

 でもただの木箱ではなくて、外側にすごくお洒落な異国情緒あふれる文様が掘られていた。
 この辺じゃ見たことのない模様だ。辺境の村の土産物か、もしかすると隣の国の代物かもしれない。

「昔、友人から貰ったものなんだ。この箱を開けたいんだけど、開けられなくて困ってて。ここの道具屋は古道具も扱っているって聞いたから、開け方とか、せめてどこの地方の民芸品か分かれば、と思ったんだけど……」

 その人が小箱を手にとって開ける仕草をする。だけどその人の言う通り、確かに箱のフタはまったく開く様子がなかった。
 これはバイトの俺には手に余る代物だ。

「すみません、俺じゃ分からないんで、今、店長を呼んできます」

 そう言い残してお客さんに背を向けると、俺はカウンター奥の居住スペースに足を踏み入れた。
 カウンターの奥は狭い物置になっていて、ここには薬草や魔石なんかの在庫が置いてある。

 その物置のさらに奥の部屋が道具屋の事務所、つまりイルミナさんの仕事部屋だ。
 俺が扉をノックして開けると、イルミナさんはテーブルの上に地図を広げて何か調べ物をしている最中だった。

「イルミナさん、すみません。見てもらいたい物があるんですけど、来てもらってもいいですか?」
「ええ。今、行くわ」

 イルミナさんが見ていたのは、わが国サンズベルクの地図だった。あちこちに丸やバツの印がつけてある。もしかして宝探しの地図かな、なんてね。
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