道具屋探偵ファンタジア ~古道具を売りに行ったら探偵の助手として雇われました~

荒久(あららく)

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幕間 仲直り

04

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「うまく言えないんだけど……。今、気持ちがぐちゃぐちゃしてるの。グラディスと仲直りできて嬉しいし、あんたたちに感謝しなきゃいけないのは頭ではわかってるの。でも、あんた達に言われた言葉がどうしても許せなくて。その二つの気持ちがせめぎ合ってて、自分でもどうにもならないのよ」
「だ、だよね。俺たち、君に酷いこと言っちゃったもんな……」

 俺はパメラがグラディスの好きな人を横取りした嫌な女の子だと勘違いをして、彼女に酷い言葉を放ってしまった。パメラにも複雑な事情があったとはいえ、なんの関係もない初対面の俺やエミルから責め立てられたんだから、俺たちを許せない気持ちになるのは当然だ。

 俺やエミルが取ったやり方は、こんな風に責められても仕方のない事なんだ。結果が良くても、俺たちはパメラに取り返しのつかない傷を負わせてしまった可能性だってあるんだから。

 俺が暗い顔で地面を見つめながら猛省しているとき、頭上からパメラのからりとした言葉が降ってきた。

「いいわ、やめた」
「え?」

 顔を上げると、パメラのさっぱりとした顔がそこにあった。

「考えるの、やめるわ。結果的にいい方向に進んだんだから、それで良しとしなくちゃね」
「え、じゃ、じゃあ……」
「これ、ありがと。遠慮無く使わせてもらうわ」

 パメラはバームの瓶を持ち上げると、かすかに俺に笑ってみせた。それは、パメラが初めて見せた笑顔だった。安心したせいか、俺はその場にへなへなとへたりと座り込んでしまった。

「よ、よかった……」
「ちょっと、やめてよ。こんなことくらいで」
「俺、ずっと気になってたんだよ。君を傷つけたこと。いや、パメラのためじゃないな……。きっとパメラを傷つけてしまったことの罪悪感から早く逃れたくて、早く許してもらいたくて……。俺は俺が救われたくてこのバームを作ったんだ。ずるいよな、そんなの」
「あんたもずいぶんなお人好しね。グラディスといい勝負だわ」

 そのとき、俺の目の前にすっとパメラの手が差し出された。その手を取って立ち上がる。握ったパメラの手は、俺の予想以上にガサガサに荒れていた。……俺の作ったバーム、少しでも効いてくれるといいんだけど……。

「じゃあ私、もう仕事に戻るから」
「う、うん。仕事、がんばって」

 パメラの背中を見送っていると、屋敷の勝手口に手を掛けようとしたパメラが、くるりと俺を振り返った。

「ねえ。グラディスとのこと、本当にありがとう。ずっとあの子と仲直りしたいと思ってたの。あのクソ生意気な子にも言っておいてよ」
「う、うん。伝えるよ!」

 勝手口の扉が閉まるのを見届けると、俺は大きく大きく安どの息を吐いた。

 よかった、本当によかった……。
 真摯な気持ちで向き合えば、頑なな心にも想いが伝わるものなのかもしれないな。
 いや、そうであって欲しい。俺は心からそう願いながら、道具屋への帰途についた。


 その後、俺の作った手荒れ用バームはパメラの女中仲間のあいだで一瞬にして話題になったそうで。
 道具屋で売り出すことになるんだけど、それはもう少し先の話だ。
 
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