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幕間 仲直り

03

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「確か、ミツロウと精油があればいいのよね」
「あ、精油は俺、自分で選ばせてください。出来るだけ肌荒れに効く成分の物を選びたいんで。あと女の子が好きそうな香りを加えてみるのもいいな」
「そうね、薬草に関してはエドガー君の専門だものね。じゃあ決まったら言ってくれるかしら」
「はい!」
「なんだか久しぶりにワクワクしてきちゃったわ」

 そう言い残すと、イルミナさんは鼻歌を歌いながらカウンター奥の倉庫へと向かっていった。

 そんな経緯があって、俺は手荒れ用のバームを作り始めた。
 材料はミツバチの巣に含まれるミツロウ。それから植物から抽出した油、つまり精油。

 手荒れや肌荒れに効く精油はたくさんあるんだけど、いくらイルミナさんが用意してくれると言ってもあまり高価な物を選ぶつもりはなかった。そこまで甘えるわけにいかないしね。イルミナさんの気持ちだけで充分だ。
 そんなわけで、俺は手に入りやすい種類の精油から、二種類を選ぶことにした。

 そうしてバームは出来上がり。
 瓶に詰めて、こうしてパメラが勤める貴族の屋敷にやってきて、パメラを呼び出してもらったんだけど。

「なにこれ」

 バームの瓶を手に取ったパメラの不機嫌な顔を見て、きっと喜んでくれるはずと確信していた俺の心はすっかりしぼんでいた。
 まあ、そうだよな。知らなかったとはいえ、パメラに酷いこと言っちゃったし、そう簡単に許してくれるわけないよな……。

「て、手荒れ用のバームだよ。君に酷いことを言っちゃったから、そのお詫びっていうか……。あの時は本当にごめん!」

 黒い女中服に白いエプロンをつけたパメラは黙ってバームの瓶を見つめていた。もしかしたら、いやもしかしなくても、俺が思っているよりもずっと怒っているんだろう。パメラは瓶を見つめたまま、不機嫌そうな顔で黙ったままだ。
 うう、この沈黙がつらい。何かしゃべらなきゃ。何か、何か……。

「きっ、君、お菓子は自分で作れるだろ? だから食べ物以外の物がいいかと思ったんだ。この間、手が荒れてたのが見えたから、バームがいいんじゃないかと思って」
「……」
「み、皆で考えてバームにしたんだよ。イルミナさんが、あ、道具屋の店長なんだけど、イルミナさんが材料を用意してくれて、お、俺が精油を選んで作ったんだ」
「これ、あんたが作ったの?」
「そうだよ。結構簡単に作れるんだ。ミツロウと精油を混ぜて湯煎して、固めるだけ。ちなみに精油は手荒れに効く成分が多く入ってるものを選んだんだ」
「いい香りするけど」
「ローズだよ。女性はローズが好きだっていうイルミナさんのアドバイス」
「バラの精油って高いんじゃないの?」
「香りづけでほんの数滴使うだけだから、それほどじゃないよ。ローズもいろいろと種類があるけど、それを選んだのはエミルなんだ。言い過ぎたお詫びにって」
「ふうん……」

 ちなみに、エミルが選んだっていうのは嘘だ。でも、エミルの言葉がきっかけでバーム作りにたどり着いたわけだから、エミルの功績でもあるわけだし。

 それに、最近グラディスはちょくちょく道具屋へ顔を出すようになった。そのグラディスの友人ならこれからもパメラと顔を合わせることがきっとあるはずだ。そんな時に、お互い気まずい思いをしたくない。パメラにはエミルの事も許してもらいたかった。

「あ、あの……。気に入らなかった?」

 お詫びの品ひとつで許してもらえるほど、簡単な問題じゃないのかもしれない。
 がっくりと肩を落としていると、俺の目の前でパメラが小さくため息をついた。


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