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第1章 剣の磨き布

35 エピローグ 4

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そしてこの話には、あと少しだけ続きがある。

「お疲れ様でーす」
「あら、エドガー君、お疲れ様ー」

 俺がやってきたのは、もちろん道具屋レイツェル。
 イルミナさんに挨拶をしてからカウンターに入り、俺はエプロンを身につけた。

 なんと、あれから俺はこの道具屋レイツェルで、正式にバイトとして働くことになったのだ。
 それをイルミナさんに提案された時は、すでに他のバイトもしているからと断ろうと思ったんだけど、まかないも付けてくれる、おまけにバイト代も弾んでくれるって言うんで、結局この道具屋のバイトを引き受けることに決めたんだ。

 引き受けた理由は別にバイト代のことだけじゃない。ここで働いていれば薬草の知識を身につけられるわよ、とイルミナさんに言われたからだ。
 そしてこのバイトにはもちろん、エミルとノエルの子守りも込み、ということで。

「エドガーさん、お疲れ様です」
「やあ、エミル」
「エプロン姿、板についてきたじゃないですか」

 居住スペースから顔を出したエミルが、俺の姿を見て楽しそうに笑う。

「イルミナさんが子守りの分、バイト代を上げてくれるって言うんだけど、本当にいいのかなあ。エミルに子守りなんて必要ないだろ?」
「話し相手が欲しかったので僕は嬉しいですよ。それに、また何か事件があればエドガーさんに協力してもらうつもりですから」
「またまた。そんなしょっちゅう事件なんて起こるわけないじゃないか」

 するとエミルは意味ありげな顔でにこっと笑った。
 いや、まさかな。そうそう頻繁に事件なんて起こるわけないよな。はは。

「でもエミル。君は本当はいくつなんだよ? とりあえず十一歳じゃあないだろ?」

 俺はずばり聞いてみることにした。何度か聞いた質問だけど、そのたびにはぐらかされた気がしていたからね。
 するとエミルは少し真面目な表情になった。

「ええ。エドガーさんにはずっと内緒にしてましたが、僕、実は初等科はとっくに卒業しているんです」
「や、やっぱり!」

 俺は息を呑んだ。
 じゃあ実年齢はやっぱり三十歳くらいとか? それで、高名の魔法使いだったりするんじゃないの……?
 するとエミルはにっこり笑ってこう言った。

「飛び級したんです」
「は?」
「ですから。飛び級で初等科も中等科も、高等科も。もう卒業済みなんですよ」
「こ、高等科も?」

 ってことはつまり……。

「僕、休学してるって言ったじゃないですか」
「あ、ああ。そういえば……」

 言った。確かに言っていた。初等科を休学しているのかと思ってたけど、もしかして……。

「休学しているのは、大学です」
「だ、大学……」
「ええ。つまり僕はあなたと同期生、ということになります」

 エミルは背伸びをすると、実に楽しそうな笑顔で俺の肩をポンと叩いた。

「よろしく、エドガー」
「同期生、同期生……十一歳と……マジか……」

 俺が茫然自失でいるとき、道具屋の扉が開いてチリンチリンと鈴が鳴った。

「い、いらっしゃいませー」
「胃痛に効く薬草を探してるんだけど、ここに色々置いてあるって聞いて来たんだけど」
「は、はい! 胃痛だとカミツレと緑薄荷、ウイキョウなんてのもオススメなんですけど、具体的にどういう症状ですか?」
「なんかお腹がずっと張ってるんだよね」
「なるほど。それなら……」


 その後、ノエルがまた物の泣き声をキャッチして俺とエミルが事件の解決に奔走することになるんだけど。
 それはまた、別の話だ。
 
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