上 下
35 / 86
第1章 剣の磨き布

34 エピローグ 3

しおりを挟む
 
 するとグラディスはポッとを染めてへらっと笑った。

「いやー。まさかそこまで愛されてるとは思わなかったよねー」

 マジか……。
 パメラは男嫌いだって言うし、じゃあやっぱりグラディスのことを……。
 なんてことを考えていたら。

「前にも言ったけど、私とパメラ、小さい頃からの幼馴染なの。で、パメラの家は家庭事情がちょっと、色々あってね。この間パメラに言われたんだ。辛かった時にグラディスがそばにいてくれて、それだけで助けられた、って。だから今度は私が助ける番だと思った……って」
「そうだったんだ……」

 なんだよ、すごくいい話じゃないか。女の子同士の恋愛かも、だなんて考えた数分前の自分を殴りたい。

「やだ、エドガー。泣いてんの?」
「ちょっと、涙腺にきた」

 俺、こういう話に弱いんだよな。イーデンからいつも呆れられるくらいだ。

「でも、一時的にでもレオン先生と付き合ってたんだろ? なにか嫌な目にあったんじゃないの」
「私もそれが一番気になっていたんだ。そうしたらパメラ、キスもさせなかって。さすがパメラだよね」
「そっか。良かったなあ」

 俺も、磨き布の泣き声が止まったことを伝えると、グラディスは「良かった」と言って笑った。

「そういえば私、ノエルちゃんに会ったことないや。謝りたいんだけど、今いる?」
「いや、エミルと一緒に出掛けてるよ」
「そう。じゃあ、エドガーから伝えておいてよ。後で改めて謝りに来るけどさ。あ、そうだ、これ」

 そう言ってグラディスが俺に差し出したのは、良いにおいのする紙袋だった。

「ジンジャークッキー。パメラが皆さんにって。ちょっと食べてみてよ」
「うわ、ありがとう。さっきから良いにおいしてたけど、これだったんだ」

 俺は早速紙袋を開けてみた。クッキーを一枚取り出して口に入れると、ジンジャーの良い香りが口の中に広がった。

「美味い。さすが女中の仕事をやってるだけあるね」
「だよね。私が男だったら絶対お嫁さんにするのにぃー」

 はいはい。のろけはもういいよ。しかもなんで女同士の友情に嫉妬してるんだよ俺は。
 クッキーをもう一枚取り出してから紙袋の口を閉じているとき、パメラが少し遠い目をしてつぶやいた。

「エドガーから磨き布を見せられた時には不安しかなかったんだけど、こうしてパメラと仲直りできたし、本当に良かったよ。それに、エドガーたちのお陰で新しい恋も始められそう」

 えっ、それってもしかして……。
 俺があらぬ期待に心臓をどきどきさせていると、グラディスはポケットから何かを取り出して、テーブルの上に広げて見せた。

「見てこれ!」
「なに、これ……?」
「来月、有名な旅の一座がこの街に来るの。すっごく有名な一座なんだって。で、見て、この歌手の人! すっごくイケメンって評判なんだよ!」

 俺はがっくりと肩を落とした。
 そうだった、グラディスはミーハーなんだった。
 しっかし、レオン先生のことがあったばかりなのに、懲りない奴だなあ。

 でもとにかく、グラディスに笑顔が戻って本当に、本当に良かった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔攻機装

野良ねこ
ファンタジー
「腕輪を寄越すのが嫌ならお前、俺のモノになれ」  前触れもなく現れたのは世界を混沌へと導く黒き魔攻機装。それに呼応するかのように国を追われた世界的大国であるリヒテンベルグ帝国第一皇子レーンは、ディザストロ破壊を目指す青年ルイスと共に世界を股にかけた逃避行へ旅立つこととなる。  素人同然のルイスは厄災を止めることができるのか。はたまたレーンは旅の果てにどこへ向かうというのか。  各地に散らばる運命の糸を絡め取りながら世界を巡る冒険譚はまだ、始まったばかり。 ※BL要素はありません  

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...