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第1章 剣の磨き布
32 エピローグ 1
しおりを挟む「こんにちはー」
グラディスが道具屋にやって来たのは、それから一週間後のことだった。
俺はグラディスをいつものアンティークテーブルに案内した。
グラディスは、まるで憑きものが落ちたみたいなすっきりした表情になっていた。よかった、グラディスの抱えていた問題は完全に解決したみたいだ。
「本当にありがとう。エドガーとエミルのおかげだよ」
「で? パメラとのこと、ちゃんと話してくれるんだよね? 俺、ちんぷんかんぷんなんだけど」
そうしてグラディスが話してくれた内容は、ほぼエミルの推理どおりだった。
卒業式を数日後に控えたある日のこと。レオン先生に剣の磨き布を渡そうと考えていたグラディスは、パメラにそれを止められたのだそうだ。
『どうして? レオン先生はパメラが思ってるような悪い人じゃないよ』
『信じたくない気持ちはわかるけど、あの先生の優しさはなんか胡散臭いのよ。プレゼントなんかして目をつけられたら、危険な目に遭うのはグラディスなんだよ? お願い、考え直して』
けれど当時はまだレオン先生の悪い噂は広まっていなかったため、グラディスはパメラの話を信じることが出来なかったのだそうだ。
「まあなあ。グラディスの気持ちはわかるよ。レオン先生、誰にでも優しかったし。俺みたいな運動音痴にも根気強く剣術教えてくれて、本当にいい先生だったもんな」
俺は今だって信じられないくらいだ。あのレオン先生が、生徒に手を出すような卑劣な人間だったなんて。
そしてパメラも、レオン先生の胡散臭さを証明する「確たる証拠」を持っていたわけじゃなかった。なんとなく胡散臭いから、なんて理由でグラディスを説得することは出来なかったのだ。
「しかし凄いな、パメラって子。なんでレオン先生が胡散臭いって分かったんだろう」
「パメラは昔から勘の鋭い子だったからね。それにパメラ、可愛い子でしょ?」
「ああまあ、確かにね」
俺はこの間パメラと初めて会ったときのことを思い返していた。
はっきりした目鼻立ちに、少し吊り上がり気味の大きな緑色の瞳は、確かに男子から好かれそうな顔立ちだ。
だけど、そんな可愛さを吹き飛ばすようなあの気の強さに、俺は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「パメラ、レオン先生に声を掛けられることが多かったんだって。剣術の授業でしか接点がないのにどうしてなんだろう気味が悪い、って警戒してたんだってさ」
「気味が悪いって……。レオン先生みたいな男はタイプじゃなかったってことか」
レオン先生、超絶イケメンってわけじゃないけど、そこそこイケメンの部類なのに、あれで気味悪がられてしまうのか……。レオン先生には同情の余地はないけど、なんだか少し気の毒になってしまった。きっとパメラは理想が高すぎるんだろう。
すると、グラディスが「あれ」と言って、不思議そうな顔で俺を見た。
「言ってなかったっけ。パメラって男嫌いなんだよ」
「はあ? き、聞いてないよ!」
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