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第1章 剣の磨き布

31 謎解きのお時間です 2

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「じゃあ、グラディスがレオン先生に気があることを知って、ヤバいと思ったってことか」

 エミルはええ、と頷いた。

「パメラさんはグラディスさんを止めたのかもしれませんが、グラディスさんは噂のことなんか知りませんからね。パメラさんの話を信じられなかったんでしょう。なのでパメラさんは強硬手段に出た。先にレオン先生と付き合ってしまえば、グラディスさんは諦めざるを得ませんからね」
「でもさあ……」

 俺はもう、ため息しか出なかった。

「友達のためにそこまでするか、普通? グラディスに憎まれるのわかってて……。俺なら説得して話を聞いてもらえなかった時点で諦めるけどなあ……。それに下手したらパメラ自身がレオン先生の毒牙にかかっていかもしれないのに」
「そこは上手く出し抜いたんでしょう。彼女、頭良さそうですし」

 はは、エミルのお墨付きなら彼女、相当だ。

「それに」

 そう言って、エミルは意味深な視線を俺に投げかけてきた。

「もしかしたらパメラさんのグラディスさんに対する感情は、友情ではないのかもしれません」
「え? 友情でないならなんなんだよ」
「二人、抱き合っていたじゃないですか」
「…………。えっ! ええっ!! 嘘だろ!?」

 慌てふためく俺を見て、エミルがくっくっとおかしそうに笑っていた。
 これも嘘かよ!?
 いやいや、わからないぞ。友情じゃなくて愛情なら、パメラがグラディスをそこまでして守ろうとする事も説明がつくし……。
 パニックになっている俺を見て、エミルが楽しそうな顔で言った。

「今度、聞いてみたらどうですか?」
「そ、そうだね、機会があればね……」

 聞いたら、グラディスにもパメラにもぶっ飛ばされそうな気もするけどね……。

「でもさ。グラディスがたまたま来ていたから良かったものの、そうじゃなけりゃ、パメラを傷つけるだけで終わってたかもしれないんだよ」
「グラディスさんはずっと僕たちの後をつけて来ていましたよ」
「えっ」
「気づきませんでしたか?」
「……全然」
「だから僕はグラディスさんに聞こえるように、わざとパメラさんを追い詰めたんです。嘘の中に真実を少しだけちりばめて、ね」
「グラディスが飛び出してくる事まで想定済みだったってことか……」

 まいった。
 俺たちは完全にエミルの手の平の上で踊らされていたみたいだ。

「でもね、エミル。俺はやっぱり君のそういう強引なやり方には反対だよ。いくら真相をはっきりさせるためとはいえ、相手を傷つければ、いつかは自分に返ってくるものなんだよ」

 エミルはふっと柔らかい笑みを浮かべた。

「相変わらず鈍感な人ですね。そういうエドガーさんのお人好しがあるからこそ僕は強引な手段を取れるんです。それに、グラディスさんたちの心を繋げたのは間違いなくエドガーさんのお人好しの力ですよ」

 俺は思わず何も言えなくなってしまった。
 いや、なんか照れるけど……。そうなのかなあ。いや、俺、簡単に女子に騙されるようなただのお人好しなだけなんだけど。
 まあ、話半分に受け取っておくか。
 そのとき、店の奥からノエルが顔を出して、エミルの元へと走り寄ってきた。

「そういえば、磨き布の泣き声は止んだの?」
「ええ。このとおりですよ。ほら」

 エミルがノエルの頭をなでると、ノエルは妖精みたいな可愛い笑顔を見せた。
 良かった。なにはともあれ、これで本当に一件落着だ。
 
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