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第1章 剣の磨き布

28 パメラ 2

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「言っておくけど、私から話すことは何もないから。グラディスの方から絶交してきたんだから」
「そう言わないでさ。今からでも、な、仲直りするつもり、ないかな、グラディスと」

 怒りを精一杯抑えたつもりだったけど、声が少し震えてしまった。怒るな、我慢だ、俺。

「はあ? 向こうが勝手に怒って勝手に絶交してきたのよ。私のほうから謝らなくちゃいけない理由なんかないわ」

 そこで、ついに俺の堪忍袋の緒が切れた。
 本当はグラディスと仲違いをした理由をくわしく聞くつもりだったけど、もう我慢の限界だ。

「きっ、君のほうがグラディスを裏切ったんだろ!?」
「ふうん。グラディスからそう聞いたんだ?」
「そうだよ。君はグラディスがレオン先生のことを好きだと知っていて、横取りしたんじゃないか。親友なのに、よくそんな酷いことできるな。グラディスは今だってずっとその傷を引きずったままなんだぞ!」

 すると、パメラが俺の服の胸ぐらをぐいっと掴んできた。

「なら、どうしてグラディス本人が来ないのよ」

 パメラの緑色の瞳が怒りに震えているのがわかった。俺の服を掴む小さな手は、女中の仕事のせいか酷く荒れていた。

「私と仲直りするつもりがあるなら、なんで本人がここに来ないのよ」

 パメラはくるりと背を向けて桶からジャガイモを一つ手に取ると、俺に投げつけてきた。

「もう二度と来ないで!」
「うわっ」

 そして、ジャガイモの桶を抱えてお屋敷の中に戻ろうとしたパメラに声を掛けたのはエミルだった。

「レオン先生、学校を辞めたそうですよ」
「誰、あんた」
「驚かないんですね」

「ふん、いい気味。自業自得よね」

 俺は投げられたジャガイモを拾い上げると、パメラに近づいていった。

「へえ。じゃあやっぱりパメラも捨てられたんだ」
「うるさいわね。こっちが捨てたのよ」

 パメラの冷たい視線を浴びながら、俺は手に持ったジャガイモをパメラの手元の桶に戻した。俺の家はお百姓だからね。食べ物を粗末にするのは許せないんだ。

 俺とパメラがにらみ合っていたとき、エミルが横から口を挟んできた。

「パメラさん。あなたはレオン先生が生徒に手を出すような人間だと知っていたんじゃないんですか?」
「え?」

 エミルの発言に驚いたのは、俺だった。パメラを見ると、パメラも少し驚いたような顔でエミルを見ていた。

「で、でもエミル。ハンナ先生の話だと、俺たちの代の生徒にはまだ噂は広まっていなかったって……」
「そうです。エドガーさんが高等科に在籍していたころは、まだ噂は広まっていなかった」

 エミルは桶からジャガイモをひとつ取ると、それをポンと空中に投げては受け取りながら話を続けた。

「高等科に入学してグラディスさんが剣術に時間を割くようになってから、あなたと会話をする時間が減っていったとグラディスさんが言っていました」

 そうだった。剣の腕を磨いて女王様をお守りする騎士になりたい、そういう夢が出来たグラディスは、高等科のかなりの時間を剣術の練習に割いたと言っていた。

「親友だと思っていたグラディスさんが、自分から離れていった。あなたはそんなグラディスさんに不満を募らせていったんじゃありませんか?」

 幼なじみで仲の良かったパメラとは、話す機会がどんどん減っていったと言っていた。それでもまったく会話がなくなった訳じゃない。廊下ですれ違えば、いつものように会話をしていたとグラディスは話していた。

「あなたは自分から離れていったグラディスさんを、どうにかして傷つけたかった。そんなとき、グラディスさんがレオン先生に好意を抱いていることを知った。そこであなたは思いついたんです。自分からグラディスさんを奪ったレオン先生とグラディスさん、両方を傷つける方法を」
 
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