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第1章 剣の磨き布
24 馬車~再び城下町へ 2
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とまあそんなことがあって、グラディスは大ショックを受けるわ、そんなグラディスの様子にハンナ先生もオロオロするわで大変だったのだ。
そして、帰りの馬車の中。大きなショックを受けたグラディスはほとんど口も聞かずに黙りこくったままで、とても声をかけられる雰囲気じゃなかった。
俺も少なからずショックを受けていた。
あのさわやかそうに見えたレオン先生が、女の子を取っかえ引っかえだなんて。しかも男もアリとか……。人って見た目に寄らないもんだな。
すると、ずっと馬車の外の景色を眺めていたエミルがグラディスに声を掛けた。
「グラディスさん。どうしてそんなにショックを受けているんです?」
エミル、君グイグイいくなあ。空気を読むってことを知らないのかな。
大人みたいな発言をするエミルだけど、こういう無神経さは子どもだからこそなのかもしれない。
「尊敬してた先生が生徒に手を出してたんだから、ショックに決まってるじゃないか。俺だって少しショックだし」
グラディスを助けるつもりで、俺は横から口を出した。今は少しそっとしておいて上げたほうがいいと思うし。
「でも、元々女性に人気にある先生だということはわかっていたはずですよ。付き合っている恋人のひとりやふたり、いないわけがないでしょう。それに、被害といっても女生徒が妊娠するような大事に発展するような事はなかったみたいですし」
「ちょ、ちょっとエミル!」
もう。そいうデリケートな問題をズケズケと口にするなんて、この子本当に十一歳なのかなあ。
「憧れていた先生の不祥事に傷ついた。本当にそれだけなんですか? グラディスさん」
「え、うん……」
グラディスはエミルから視線を逸らすと、あいまいに頷いた。
「もしかして他に気になってることがあるの?」
俺が聞くと、グラディスはこんなことを言ったのだ。
「パ、パメラ、どうなったのかな……」
「はあ?」
「だからその、被害にあったんじゃないかなって……」
思わず大きなため息がこぼれてしまった。
「グラディスも人が好すぎるよ。グラディスを傷つけたパメラがどうなろうといいじゃないか」
「で、でもさ……」
「そうですね。パメラさんはあなたを出し抜いた非道い人ですから、おそらく天罰が下ったんでしょう」
「もう、エミル」
俺はエミルをたしなめた。子供がそういうドライな考え方をするのは俺は好きじゃない。親がどういう躾をしたのかは知らないけど、俺は子どもは子どもらしく素直であって欲しかった。
「グラディスさん。どうしてそんなにパメラさんの事が心配なんです? 絶交した相手じゃないですか」
「し、心配なんかしてないよ……」
「そうですか? それじゃあ、これで磨き布は泣き止んでくれますね。レオン先生は最低な人だった。あなたは被害に遭わずに済んでラッキーでした。あなたを裏切ったパメラさんは天罰が下った。円満解決です」
「そ、そうだね……」
グラディスは胸の前で拳をぎゅっと握りしめた。
「そうだよね。エミルの言うとおりだよ。私のことを傷つけたパメラがどうなろうと知ったこっちゃないもんね」
グラディスは自分に言い聞かせるように呟くと、それきり黙ってしまった。エミルはそんなグラディスの様子をじっと観察するかのように見つめると、再び馬車の外の景色に目を向けてしまった。
二人とも静かになってしまい、俺は会話を諦めて馬車の外を眺めることにした。
時間が経てばきっとグラディスの傷も癒えていくだろう。それで磨き布の泣き声も止まるといいんだけど。元はといえば、あの磨き布の泣き声を止めるのが目的でグラディスに会ったり、わざわざ高等科を訪ねたりしたんだから。
でもなあ。
レオン先生は悪い男だったことがわかったし、グラディスを裏切ったパメラは自業自得。
確かにエミルの言うとおりなんだけど、本当にこれで良かったんだろうか。
本当にこれで円満解決? なんだかスッキリしないや。
そして、帰りの馬車の中。大きなショックを受けたグラディスはほとんど口も聞かずに黙りこくったままで、とても声をかけられる雰囲気じゃなかった。
俺も少なからずショックを受けていた。
あのさわやかそうに見えたレオン先生が、女の子を取っかえ引っかえだなんて。しかも男もアリとか……。人って見た目に寄らないもんだな。
すると、ずっと馬車の外の景色を眺めていたエミルがグラディスに声を掛けた。
「グラディスさん。どうしてそんなにショックを受けているんです?」
エミル、君グイグイいくなあ。空気を読むってことを知らないのかな。
大人みたいな発言をするエミルだけど、こういう無神経さは子どもだからこそなのかもしれない。
「尊敬してた先生が生徒に手を出してたんだから、ショックに決まってるじゃないか。俺だって少しショックだし」
グラディスを助けるつもりで、俺は横から口を出した。今は少しそっとしておいて上げたほうがいいと思うし。
「でも、元々女性に人気にある先生だということはわかっていたはずですよ。付き合っている恋人のひとりやふたり、いないわけがないでしょう。それに、被害といっても女生徒が妊娠するような大事に発展するような事はなかったみたいですし」
「ちょ、ちょっとエミル!」
もう。そいうデリケートな問題をズケズケと口にするなんて、この子本当に十一歳なのかなあ。
「憧れていた先生の不祥事に傷ついた。本当にそれだけなんですか? グラディスさん」
「え、うん……」
グラディスはエミルから視線を逸らすと、あいまいに頷いた。
「もしかして他に気になってることがあるの?」
俺が聞くと、グラディスはこんなことを言ったのだ。
「パ、パメラ、どうなったのかな……」
「はあ?」
「だからその、被害にあったんじゃないかなって……」
思わず大きなため息がこぼれてしまった。
「グラディスも人が好すぎるよ。グラディスを傷つけたパメラがどうなろうといいじゃないか」
「で、でもさ……」
「そうですね。パメラさんはあなたを出し抜いた非道い人ですから、おそらく天罰が下ったんでしょう」
「もう、エミル」
俺はエミルをたしなめた。子供がそういうドライな考え方をするのは俺は好きじゃない。親がどういう躾をしたのかは知らないけど、俺は子どもは子どもらしく素直であって欲しかった。
「グラディスさん。どうしてそんなにパメラさんの事が心配なんです? 絶交した相手じゃないですか」
「し、心配なんかしてないよ……」
「そうですか? それじゃあ、これで磨き布は泣き止んでくれますね。レオン先生は最低な人だった。あなたは被害に遭わずに済んでラッキーでした。あなたを裏切ったパメラさんは天罰が下った。円満解決です」
「そ、そうだね……」
グラディスは胸の前で拳をぎゅっと握りしめた。
「そうだよね。エミルの言うとおりだよ。私のことを傷つけたパメラがどうなろうと知ったこっちゃないもんね」
グラディスは自分に言い聞かせるように呟くと、それきり黙ってしまった。エミルはそんなグラディスの様子をじっと観察するかのように見つめると、再び馬車の外の景色に目を向けてしまった。
二人とも静かになってしまい、俺は会話を諦めて馬車の外を眺めることにした。
時間が経てばきっとグラディスの傷も癒えていくだろう。それで磨き布の泣き声も止まるといいんだけど。元はといえば、あの磨き布の泣き声を止めるのが目的でグラディスに会ったり、わざわざ高等科を訪ねたりしたんだから。
でもなあ。
レオン先生は悪い男だったことがわかったし、グラディスを裏切ったパメラは自業自得。
確かにエミルの言うとおりなんだけど、本当にこれで良かったんだろうか。
本当にこれで円満解決? なんだかスッキリしないや。
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