道具屋探偵ファンタジア ~古道具を売りに行ったら探偵の助手として雇われました~

荒久(あららく)

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第1章 剣の磨き布

22 懐かしい街へ 3

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 教員室をざっと見回しても、レオン先生の姿はなかった。鍛錬場で剣術の指導でもしているんだろうか。
 すると、紅茶とお菓子を運んできたハンナ先生は困ったような顔をした。

「どうかしたんですか?」
「それがねえ。レオン先生、学校を辞めたのよ」
「や、辞めた?」

 驚いてハンナ先生を見返す。ハンナ先生は、言葉を濁した。

「ええ。ちょっと色々とあってね……」

 ちょっと色々って、何があったんだろう。ハンナ先生はなんだか言いたくないみたいだけど。
 すると、教員室にいた若い男の先生が会話に参加してきた。名前は分からないけど、確か中等科の先生だ。

「もしかして君も被害者?」
「え? 被害者って……」
「ちょっと、ベン先生!」

 たしなめるようにハンナ先生が言う。
 いや、被害者ってどういうことだよ……。
 なんだか雲行きが怪しい話になってきて、俺はエミルと顔を見合わせた。もしかすると、グラディスにとってはあまりいい知らせとは言えないかもしれない。

 ベン先生はハンナ先生がたしなめるのも構わずに続けた。

「いいじゃないですか。この辺でもう知らない人はいないんだし。どうせ卒業生にも知れ渡ることですよ」
「でもねえ」
「教えてください、ハンナ先生。被害者ってどういうことですか? レオン先生、何をしたんですか?」

 俺が聞くと、ハンナ先生は手を頬に当てて困りきった顔をした。
 困らせてすみません、ハンナ先生。でも、どうしても知らなきゃいけないんです。
 ハンナ先生はため息をつくと、話し始めた。

「レオン先生、モテたでしょう?」
「ああ、モテてましたね。ファンクラブも出来てましたっけ」
「そう、それでね。その……。手が早いっていう噂が、ちょっとね」
「手が早いって……」

 俺が一瞬考えこんでいると、隣に座っていたエミルが小さな声で俺にささやいた。

「生徒に手を出してたってことですよ」
「はあ!?」

 えっ、ちょ、待っ……!

「う、嘘でしょ? あのさわやかなレオン先生が?」

 にわかに信じられなかった。どうみてもそんな風には見えなかった。確かに女子に絶大な人気はあったけど、優しくて剣術の腕前も確かな先生だった。何かの間違いなんじゃ……?
 するとベン先生が俺に声を掛けてきた。

「もしかして君も被害にあったクチ?」
「ち、違いますよ! だって俺、男ですよ!?」
「彼、男子生徒からもモテてたから」
「な、なんですかそれ……」

 つまりレオン先生は男も女もいけたってこと?
 ああもう、そんな事実、知りたくなかったよ……。特に親しくしていた先生じゃないけど、卒業した学校の先生はずっと尊敬させて欲しかったのに。

「まあ、君らが卒業してからだからね。問題が表面化したのは」
「そうねえ。エドガーが驚くのも無理ないわ」

 驚かせてごめんなさいね、とハンナ先生が謝る。
 とんでもないです、無理に聞いたのは俺のほうだし。

 それにしても、実はレオン先生は生徒に次々と手を出すナンパ男だったなんて。グラディスになんて言えば良いんだよ……。

「それでレオン先生は学校を辞めていま何を……?」
「レオン先生の実家はこの街なんだけど、実家には戻らなかったみたいね」
「そりゃあ、戻れませんよ。生徒に手を出してただなんて恥さらしもいいとこですから」

 ベン先生が横から言う。ハンナ先生はあいまいに頷いた。

「別の街に移ったみたいだけど、今どこで何をしているのかはわからないわ」
「そ、そうですか……」

 俺たちは紅茶とお菓子をいただいてハンナ先生と世間話をすると、お礼を言って教員室を出た。
 教員室の扉を閉めたちょうどそのとき、廊下に立ち尽くす人影が横目に見えた。そこにいたのは、呆然とした表情で立ち尽くすグラディスだった。

「グ、グラディス……!」
「今の話、嘘、だよね……」
 
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