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第1章 剣の磨き布

20 懐かしい街へ 1

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 結局、俺とエミル、グラディスの三人で、レオン先生に会いにいくことになった。
 グラディスは少し嫌そうな顔をしていたけど「パメラに会うよりはマシだから」と言って了承してくれた。

 次の休日に、俺たちは城下町から乗合馬車に乗った。
 馬車に乗ってしばらくすると森が開けてきて、畑や民家なんかが増えてきた。もう少しで、俺たちが通った高等科がある街「パストーレ」につく。

「こののどかな感じ、懐かしいなあ」

 パストーレの街は、お城や大学のあるサンズベルクの城下町から馬車で一時間くらいのところにある中規模の街で、グラディスの出身地でもある。俺の住んでいた村は、その街からさらに一時間くらい行ったところにある、いわゆるド田舎だ。

 隣の席に座っているグラディスは馬車に乗ってから、ずっと緊張した顔で俯いたままだった。ちなみに今日は、男みたいなズボンではなく、ブラウスにスカートっていう普通の女の子の格好だ。髪もリボンでまとめているけど、レオン先生に会うからお洒落してきたんだろうな。
 エミルはというと、何を考えているのかわからない表情で馬車の外の景色を眺めていた。

 エミルが磨き布の泣き声を止めたくて必死なのはわかる。
 だけど、俺はグラディスの古傷を掘り返してでもしなきゃいけないこ事とは思えなくて、少し複雑な気持ちだった。エミルは「グラディスも磨き布にまつわる問題を本当は気にしている」なんて言っていたけど……。

 そういえば、俺はエミルのことをほとんど知らないことに気がついた。当たり前のようにあの道具屋に住んでいるけど、家族はどうしているんだろう?
 せっかくの機会だし、俺は聞いてみることにした。

「ねえ、エミルってイルミナさんとはどういう関係なの? 姉弟きょうだい?」

 エミルは十一歳で、イルミナさんは二十代半ばくらいだ。姉にしてはちょっとばかり歳が離れすぎている気がする。

「イルミナお姉ちゃんは僕の母の妹なんです。つまり叔母にあたる人ですね」
「そうなんだ。そういえば髪の色なんか似てるもんな」

 イルミナさんの髪もエミルの髪も青みがかった黒で、すごくエキゾチックな感じだ。

「でもイルミナ叔母さんって呼ぶと怒るんです。なのでイルミナお姉ちゃん、と」

 俺は声を上げて笑った。確かにあの若さと美貌で叔母さんなんて呼ばれるのは嫌だろうな。

「でもエミル、学校は行かなくていいの? 今、ずっと道具屋にいるんだろ?」
「休学しているんですよ。ノエルのこともあるし。両親も仕事で忙しいので、イルミナお姉ちゃんの道具屋にお世話になってるんです」
「へえ、そうだったのか」

 エミルの年齢だと初等科に通っているはずだけど、ずっと道具屋にいるみたいだし、不思議に思っていたんだよな。
 でも両親が忙しいからといって、エミルが初等科を休学してまで妹の面倒を見る必要があるのかな。
 疑問に思ったけど、それは聞かないでおいた。しつこく聞くのも失礼だし、まあそのうち聞けるだろう。

 グラディスもエミルの話に興味を持ったみたいで、少し明るい表情で俺たちの話を聞いていた。
 今なら話しかけても大丈夫そうだ。

「ねえ、グラディス。言いたくないならいいんだけど、パメラってどんな子だったの?」

 グラディスは俺をちらっと一瞥すると、手元に視線を移して静かに話し始めた。

「パメラとは子供のころからの幼なじみだったんだ。私、子どもの頃から背が大きくて、男の子にからかわれる事が多かったんだけど、パメラは私がいじめられてるのを見ると必ず助けてくれた。体は小さいのに気が強くて、時々男の子と殴り合いの喧嘩になったこともあったよ」
「へえ。もっと意地悪そうな女の子ってイメージだったよ」

 グラディスの話はものすごく意外だった。グラディスの好きな人を横取りするような女だから、もっとわがままで意地悪そうな女の子を想像していたんだけど。その話だけ聞くと、すごく友達想いのいい子じゃないか。
 それをグラディスに言うと、グラディスは哀しそうな顔で頷いた。

「私もだよ。だから今でもすごく戸惑ってるんだよね」

 もしかしたら、知らない間に嫌われてたのかな。
 グラディスはぽつりと呟くと、また俯いて黙り込んでしまった。
 なんとかしてあげたいけどなあ。レオン先生から上手いこと話が聞ければいいけど。
 
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