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第1章 剣の磨き布

18 磨き布の話 3

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「でもさ。グラディスはレオン先生のことはただの恩師で、別に好きだったわけじゃないんだろ? なら、パメラって子がレオン先生に告白しようが関係ないんじゃない?」

 グラディスは俺を見ると、わざとらしくため息をついた。隣でエミルもため息をついていた。

「エミルまでかよ?」
「エドガーさんって鈍いんですね」

 子供の君に言われたくなかったよ……。

「つまりはグラディスもレオン先生のことを好きだったってこと?」

 俺が改めて聞くと、グラディスはほんのりほほを染め、恥ずかしそうにぼそぼそ呟いた。

「う、うん……まあ……憧れっていうか、そういう気持ちがないと言ったら嘘になるかな……」
「っていうか、恋愛がらみの話なのかよ。俺、そういう話、苦手なのに……」
「なによその嫌そうな顔。話し聞くって言ったじゃない」
「言ったけどさあ……」

 イーデン曰く「エドガーは女の子の心を全然わかってない」だそうで、実際そういう恋愛の駆け引きだとかの複雑なことが、俺には良くわからない。だから好きな女の子が出来ても、いつもフラれてばっかりだった。
 それに人の良さにつけこまれて女の子に利用されることが多い俺にとっては、最近そういう恋愛がらみの話からはあえて距離を取っていたんだ。

「鈍いエドガーさんのことは放っておきましょう。グラディスさん、それから?」

 あのさあエミル、年上にはもう少し敬意をはらおうよ……。
 グラディスはというと、ため息をひとつついてから、こう続けた。

「パメラが本気だったら、私も許せたんだよ。親友だからね。パメラが本当に先生のことを好きなら、応援したいと思ってた。でも、親友だと思ってたのは私だけだったのかな……」

 エミルの推察どおり、グラディスもお人好しの部類に入るみたいだ。俺だったら、いくら親友だからといっても好きな人を横取りするような人間を応援なんかできない。

「パメラが幸せならそれでいいかと思ってたんだ。でもね、卒業と同時にパメラは先生と別れちゃって……」
「早くない?」
「でしょ? 早すぎだっての!」

 グラディスはぶぅと頬を膨らませて怒ると、すぐにシュンとうつむいてしまった。忙しい子だな。

「なんかね、パメラもレオン先生もいっぺんに失ったって感じがして……。もう忘れたくて。でも、この磨き布は捨てられなかったんだ。かなり高価なものだし……」

 そんなパメラのいい加減な態度が許せなくて、グラディスはパメラと大喧嘩した。それからというもの、パメラとは絶交状態、磨き布は見るだけでも辛いので、捨てようかと思っていたところにちょうど俺が通りかかった、というわけらしい。

 そういう理由だったのか……。そりゃ、そんな因縁だらけの磨き布なんて見たくもなくなるよな。

「でもパメラって子、ひどいな。グラディスの親友なんだろ? 普通、友だちが気にかけてる先生と付き合ったりするか?」
 
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