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第1章 剣の磨き布

17 磨き布の話 2

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 エミルとの話を終えてテーブルに三人で座ると、イルミナさんがハーブティーを持ってきてくれた。イルミナさんをひと目見たグラディスは、またしても「わぁ……」とため息交じりの声を上げると、隣に座る俺の服の袖を引っ張ってきた。

「ねえエドガー、あの人すっごい美人! 私、あんな綺麗な人見たことない」
「だろ? 俺も最初この店に入ったとき、びっくりして二度見しちゃったよ」

 たかが子守りのバイトを引き受けただけだけど、雇い主が褒められると自分が褒められているような気がして、なんだか悪い気がしない。

 ハーブティーを飲んでひと息ついたグラディスは、テーブルに置かれた剣の磨き布を手に取ると静かに話を始めた。

「エドガーはレオン先生って覚えてる? 剣術の先生」
「覚えてるよ。女子にすごく人気のあった先生だろ?」

 レオン先生は高等科で剣術を教えていた男の先生だ。ものすごくイケメンってわけじゃないんだけど、物腰の柔らかい優しげな性格でとにかく女子からの人気は絶大だった。剣を振るたびに女子からきゃーきゃー黄色い声援が飛んでいたっけ。

「レオン先生がどうかした?」

 横に座ったグラディスを見ると、グラディスは少し頬を赤らめてティーカップじっと見つめていた。

「えっ、磨き布あげようとした相手って、もしかしてレオン先生……?」
「なによ。悪い?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど……」

 グラディスが頬を膨らませて俺をにらんできた。
 いや、全然悪くはないけど、イケメンが好きっていうタイプには見えなかったから、正直なところ意外だった。でもエミルを見て「可愛い!」と目を輝かせていたから、ミーハーなところもあるのかもしれないな。

「えーっと、話の腰を折ってごめん。それで……?」
「これね、レオン先生に渡そうと思ってたんだよ。卒業式の日にさ。私、騎士になるのが夢だし、それで剣術ですごくお世話になった先生だったから……」

 グラディスの話によると、卒業式の日、レオン先生に感謝の気持ちを込めてこの磨き布を渡そうとしたらしい。しかし、親友のパメラが直前にレオン先生に告白しているのを見てしまった。

「パメラってこの間言ってた子?」
「そう」

 グラディスは怒りと悲しみがないまぜになったような表情でうなづいた。

「パメラに裏切られた気持ちになっちゃって。それまでレオン先生のことなんて何も気にかけてなかったのに……」
「気にかけてなかった……?」

 グラディスの言葉に反応したのは、向かい合って座っていたエミルだった。

「エミル、どうかした?」
「いいえ、なんでも……」
 
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