道具屋探偵ファンタジア ~古道具を売りに行ったら探偵の助手として雇われました~

荒久(あららく)

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第1章 剣の磨き布

14 グラディス、もう一度 2

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 そんなこんなで、グラディスはもう一度俺の話を聞いてくれることになった。なんだかなあ。いいのか、こんなんで?

 俺たちはこの間と同じベンチに三人並んで座ると、エミルとノエルのことをざっと説明した。
 説明を聞き終わったグラディスは俺の手を引くと、ベンチから離れたところまで引っ張って行って、小声でささやいた。

「エドガーあんたさあ、頭大丈夫? たかが磨き布が泣くわけないじゃない」

 グラディスの言葉に、俺は苦笑するしかなかった。
 まあそれが普通の反応だよなあ。エミルの話を始めて聞いたとき、俺もそう思ったし。っていうか、実を言うと今でもエミルとノエルの話は半信半疑なんだけど。

「グラディスの気持ちはわかるよ。俺だってまだ半信半疑だし。でもエミルがノエルを心配する気持ちは本物なんだよ。頼むから付き合ってやってくれない?」

 グラディスと声をひそめて話していると、背後から突然声がした。

「すみません、荒唐無稽な話に思われるかもしれませんが、本当の話なんです」
「うわっ、エ、エミル!」

 振り向くと、エミルがすぐ背後に立っていた。いつの間に……全然気がつかなかった。
 もしかして俺とグラディスの話、聞こえてたんじゃ……。そんなことを思っていると、エミルがにっこりと笑顔を返してきた。ああこの反応、やっぱり聞こえてたな。
 エミルに謝ろうと思ったとき、隣にいたグラディスが先に口を開いた。

「わかってるよ。私はエミルを疑ってなんかないよ。ただエドガーの口から聞くとなんか信憑性がなくってさ」

 おい。
 なんなんだそれ。

 まったく一人でいい人ぶっちゃってさ。でもまあ、とりあえずグラディスは協力してくれる気になったようだ。エミルの作戦、大成功だな。

「じゃあ、この磨き布にまつわる話、教えてくれるんだね?」
「それとこれとは話が別」

 グラディスは昨日の不機嫌そうな顔に戻ると、間髪を入れずに答えた。やっぱりこの磨き布の話題には触れたくないみたいだ。

「エミルの妹の事情はわかったけど、だからってなんで私の個人的な事情をあんたたちに話さなきゃいけないの? いやよ。特に親しいわけでもないのに……。ううん、親しい人でも嫌。この件に関しては誰にも話したくないの」

 まあそうだよなあ。俺だって、人に話したくない嫌な思い出なんて腐るほどあるし。
 でも、無理強いできないのは百も承知で、俺はしつこく食い下がってみることにした。ノエルを救うことができるのは多分グラディスだけだから。

「気持ちはわかるけど、そこを曲げて思い切って話してくれないかな。そうすればグラディスが抱えている痛みも、もしかすれば解決するかもしれないだろ?」

 エミルは「持ち主の悲しみが磨き布に染み付いている」と言っていた。ノエルに泣き声がまだ聞こえるってことは、多分グラディスが抱えている悲しみも、まだ癒えていないはずなんだ。

「しつこいなあ。言いたくないって言ってるでしょ。そういうおせっかいとか必要ないんだよ。これは私の問題で、あんたたちには関係ないんだからほっといてよ」
「あなたに関係なくても僕の妹にはあるんです」

 
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