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第1章 剣の磨き布

13 グラディス、もう一度 1

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 翌日、俺はエミルを連れて大学の構内に足を踏み入れた。
 考えがあると言うから「どんな考え?」と聞いてみたら「内緒です。行けば分かりますよ」と笑顔で返された。そんな言い方されちゃあ、余計に気になるじゃないか。

 構内を歩いていると、エミルはすれ違う人たちの視線を否応なしに集めていた。
 そりゃそうだよな。大学に子どもがいるだけでも充分珍しいのに、エミルのこの端正な容姿だもん。

「へえー。ここが大学ですか……」

 エミルはというと、興味深そうな顔できょろきょろと辺りを見渡している。こういうところは年相応の子供らしくてなんだか微笑ましい。

「エミルなら頭良いいし、大学に通えると思うよ」
「そうでしょうか」
「一番難しい法学とか、あと神学なんかいいんじゃないかな」

 そんな話をしていると、グラディスが向こうから歩いてきた。俺が直接グラディスに声を掛けても取り合ってもらえないだろうと思って、イーデンを通して頼み込んだのだ。

 イーデンはちゃっかりと「昼飯三日分」を要求してきた。要領がいいというかちゃっかりとしてるっていうか。イーデンってこういう奴なんだ。まあ憎めない、いい奴なんだけどね。バイト代が入ったとして、俺の手元に残るお金は少なそうだ。

 俺はグラディスに向かって手を振り上げた。グラディスは俺の姿を認めると、あからさまに嫌そうな顔をした。まったく正直なやつだな。

「グラディス、何度も呼び出してごめんな」
「ハーイ、ジョン・スミス。またあんたなの? しつこい。このあいだ磨き布捨ててって言わなかったっけ?」
「いや、エドガーだって」

 このやろー、ワザと名前間違えやがったな。これは相当怒ってるぞ。エミルは手があるなんて言ってたけど、それ以前に話を聞いてもらえるかどうか。
 すると、俺の背後に隠れていたエミルがひょこっと顔を出した。

「あの……。あなたがグラディスさん、ですか?」
「えっ、この子誰?」

 グラディスの表情が一瞬にして柔らかくなる。

「エミルっていうんだ。俺のバイト先の子だよ。どうしても大学に来てみたいっていうから連れてきたんだ」

 俺とエミルとの口裏合わせで、とりあえず「バイト先の店の子ども」という設定にしようという事になったんだけど、グラディスは俺の話なんかまるで聞いていないようだった。
 胸の前で手を組み合わせると、グラディスは見たこともないような笑顔で言った。

「やだ、この子かわいーい! お人形さんみたい!」
「…………」

 もしかしてエミルの言っていた「作戦」ってこれのこと……? っていうか、グラディスってそんなキャラだったっけ。
 エミルはエミルで「そんなことありませんよ」と、グラディスの言葉に照れた仕草をしていた。いや君もそういうキャラじゃないだろ……。
 
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