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第1章 剣の磨き布
08 グラディス 1
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そんなことがあった、翌日のこと。
大学の授業が終わってから、俺は幼馴染で親友のイーデンとここ神学科の前庭で会うことになっていた。イーデンが石造りの建物から出てくるのを見つけて、俺は手を振り上げた。
「イーデン! こっち!」
「エドガー、一週間ぶりだね。なんかまたやつれたんじゃない?」
「苦労が向こうからやってくるんだよ……」
イーデンは同じ村で育った幼なじみだ。何がきっかけで友達になったのかなんて覚えていないくらいチビの頃からの腐れ縁ってヤツ。イーデンは村の教会の息子で、教会を継ぐために大学で神学を学んでいる。
俺はグラディスとはほとんど話した事がなかったから、彼女のことを良く知らない。だけど顔の広いイーデンなら知っているんじゃないか。そう思ってイーデンに聞いてみたら、どんぴしゃだったのだ。
「知らなかったよ、グラディスも同じ大学に通ってただなんて」
「一応神学科には籍を置いてるけど、騎士とか近衛兵目指してる連中はほとんど外で剣とか乗馬の鍛錬してるから、まあ大学内ですれ違うことは少ないかもね」
てっきり高等科卒業後、すぐに騎士見習いとしてお城の騎士団で修業をしているのかと思っていたけど、どうやら騎士も文武両道でなくてはならないらしい。脳筋ってだけじゃ、お城勤めはできないんだろうな。
「イーデンはグラディスと話したことある? 高等科のとき」
「あるよ。俺、全員と話してるもん。一年から三年まで全員」
「はあ? 全員!? 何でそんなことしたのおまえ……」
「俺の村に引っ越してきたら、教会に遊びに来てねって」
「おまえさ。それ、変な目で見られたんじゃないの……」
「面白いひとーって言われてすぐ仲良くなれたよ」
「イーデンって本当、得な性格してるよな……」
とまあ、イーデンはこんな風にいつもひょうひょうとしてつかみ所のない性格をしている。麦畑で風に揺れている麦穂みたいだといつも思う。
「で、グラディスは? どんな子だったんだよ」
「んー。とにかく背がでかかったよね」
「おまえが言うのかよ……」
イーデンは成人男性の平均身長よりも少し高いくらいだ。そのイーデンがでかいと言うくらいだから、今頃は山のように成長しているかもしれない。
俺? 平均よりちょい下ですよ。いいんだよ、これからまだ伸びるんだから!
「グラディス・クレイン、街出身。顔はまあ普通。特に美人でもないけどまあ普通に可愛いレベル。でも性格は見た目ほど体育会系じゃなかったかな。剣の腕は女子の中ではもちろん一番だったし、男子でもグラディスに勝てる相手は少なかったと思う」
「覚えてるよ。俺、剣の授業で一度当たったことあるけど、全然敵わなかったもんな」
グラディスは身長が高いだけじゃなくて力も強いから、俺は結局一本も取れずに負けたんだった。
「ちなみに人間関係は? 付き合ってた男とか……」
「え……」
イーデンは俺が差し入れたパンを食べる手を止めると、目を丸くして俺をじっと見つめてきた。
「知らなかった……。エドガー、グラディスのことを……」
「ち、違う、違うって! 最初に言っただろ、道具屋のバイトだって」
イーデンはそうだっけ、と言ってから、再びパンを食いはじめた。本当マイペースだな、おまえ。
「付き合ってた男がいたかは知らないけど、友人は多い方だったよね。男も女も。おおらかな性格だったし」
「そうか……」
俺はイーデンから聞いた情報を頭の中でざっと整理した。ま、とりあえず聞くのはこれくらいでいいだろう。
「助かったよ。ありがとな、イーデン」
「いいよ。それよりバイト代入ったら……」
「昼飯だろ? わかってる、奢るよ」
大学の授業が終わってから、俺は幼馴染で親友のイーデンとここ神学科の前庭で会うことになっていた。イーデンが石造りの建物から出てくるのを見つけて、俺は手を振り上げた。
「イーデン! こっち!」
「エドガー、一週間ぶりだね。なんかまたやつれたんじゃない?」
「苦労が向こうからやってくるんだよ……」
イーデンは同じ村で育った幼なじみだ。何がきっかけで友達になったのかなんて覚えていないくらいチビの頃からの腐れ縁ってヤツ。イーデンは村の教会の息子で、教会を継ぐために大学で神学を学んでいる。
俺はグラディスとはほとんど話した事がなかったから、彼女のことを良く知らない。だけど顔の広いイーデンなら知っているんじゃないか。そう思ってイーデンに聞いてみたら、どんぴしゃだったのだ。
「知らなかったよ、グラディスも同じ大学に通ってただなんて」
「一応神学科には籍を置いてるけど、騎士とか近衛兵目指してる連中はほとんど外で剣とか乗馬の鍛錬してるから、まあ大学内ですれ違うことは少ないかもね」
てっきり高等科卒業後、すぐに騎士見習いとしてお城の騎士団で修業をしているのかと思っていたけど、どうやら騎士も文武両道でなくてはならないらしい。脳筋ってだけじゃ、お城勤めはできないんだろうな。
「イーデンはグラディスと話したことある? 高等科のとき」
「あるよ。俺、全員と話してるもん。一年から三年まで全員」
「はあ? 全員!? 何でそんなことしたのおまえ……」
「俺の村に引っ越してきたら、教会に遊びに来てねって」
「おまえさ。それ、変な目で見られたんじゃないの……」
「面白いひとーって言われてすぐ仲良くなれたよ」
「イーデンって本当、得な性格してるよな……」
とまあ、イーデンはこんな風にいつもひょうひょうとしてつかみ所のない性格をしている。麦畑で風に揺れている麦穂みたいだといつも思う。
「で、グラディスは? どんな子だったんだよ」
「んー。とにかく背がでかかったよね」
「おまえが言うのかよ……」
イーデンは成人男性の平均身長よりも少し高いくらいだ。そのイーデンがでかいと言うくらいだから、今頃は山のように成長しているかもしれない。
俺? 平均よりちょい下ですよ。いいんだよ、これからまだ伸びるんだから!
「グラディス・クレイン、街出身。顔はまあ普通。特に美人でもないけどまあ普通に可愛いレベル。でも性格は見た目ほど体育会系じゃなかったかな。剣の腕は女子の中ではもちろん一番だったし、男子でもグラディスに勝てる相手は少なかったと思う」
「覚えてるよ。俺、剣の授業で一度当たったことあるけど、全然敵わなかったもんな」
グラディスは身長が高いだけじゃなくて力も強いから、俺は結局一本も取れずに負けたんだった。
「ちなみに人間関係は? 付き合ってた男とか……」
「え……」
イーデンは俺が差し入れたパンを食べる手を止めると、目を丸くして俺をじっと見つめてきた。
「知らなかった……。エドガー、グラディスのことを……」
「ち、違う、違うって! 最初に言っただろ、道具屋のバイトだって」
イーデンはそうだっけ、と言ってから、再びパンを食いはじめた。本当マイペースだな、おまえ。
「付き合ってた男がいたかは知らないけど、友人は多い方だったよね。男も女も。おおらかな性格だったし」
「そうか……」
俺はイーデンから聞いた情報を頭の中でざっと整理した。ま、とりあえず聞くのはこれくらいでいいだろう。
「助かったよ。ありがとな、イーデン」
「いいよ。それよりバイト代入ったら……」
「昼飯だろ? わかってる、奢るよ」
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