道具屋探偵ファンタジア ~古道具を売りに行ったら探偵の助手として雇われました~

荒久(あららく)

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第1章 剣の磨き布

05 子守りのバイト 1

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(俺はこんなところで何をしてるんだろう……)

 道具屋の店の隅に置かれた、売り物のアンティークテーブル。
 俺と少年はなぜか、そのテーブルに向かい合って座っていた。テーブルの真ん中には俺が売りにきたハンカチ――もとい磨き布が置いてあって、少年の背中には彼の妹と思わしき女の子がぴったりと抱き着いている。

 イルミナさんが俺の古着やなんかを査定している間、俺はこの子たちの話を聞く事になった。それが、イルミナさんの言う「お守りのバイト」らしい。
 エミル、と名乗った少年は俺の顔を見上げて言った。
 
「つまり妹のノエルによると、この磨き布は泣いているんです」

 俺が売りにきたこれは実はハンカチではなく、剣の手入れをする時に使う「磨き布」という物らしかった。言われてよく見れば、ハンカチとは違う素材で出来ているみたいだ。これは羊毛かな?

 で、なんとその磨き布が「泣いて」いて、兄妹のうち妹のほうが、その磨き布の泣き声を聞くことが出来るらしい。

「そ、そうなんだあ……」

 俺は頬を引きつらせ、曖昧に笑い返すことしかできなかった。
 いやだって、普通に考えてこんな布っきれが泣くわけないだろう?

「ち、ちなみに、なんで泣いているんだろう……?」

 俺は出来るだけ優しい口調で尋ねてみた。エミルは手にしていた磨き布をテーブルに置くと、背中にしがみついている妹をちらりと見て言った。
 
「妹のノエルは物に染みついた感情を受け取ることができるんです」
「う、うん」
「つまり、この磨き布の持ち主が悲しんでいた、もしくは今現在も悲しんでいる、ということになります」
「そ、そっかあ……」

 俺はあいまいに笑い返すことしか出来なかった。
 だって古道具の泣き声が聞こえるんです、とか言われても、はいそうですか、と素直に受け取れるほど、俺は世間知らずの子供じゃないんだから。

「磨き布の泣き声が止まないと、ノエルがいつまでも辛い思いをするんです……。だから僕はこの磨き布の泣き声を止めたい」

 少年の説明を聞きながら、俺は深く深く頷いてみせた。
 妹想いの気持ちは分かるけど、この話、どこまで信じたらいいんだろう……?

 物の声を聞く事ができるなんていう話は、これまで聞いたことがなかった。精霊たちの声を聴くことが出来る人たちが稀にいるのは知っているけど、そういうのは高名の神官や魔術師だけだというし……。

 俺は目の前の幼い兄妹を見やった。
 二人とも顔立ちが整っていてどこか浮世離れした雰囲気はあるものの、それ以外はどこから見ても普通の子供だ。兄のエミルはさっきからずっと、背中にしがみついている妹の頭を優しく撫でている。

 エミルの話が本当かどうかはともかくとして、妹を案じるエミルの気持ちは、俺にはとても嘘には思えなかった。

「君は妹思いなんだね」
「当然ですよ、兄ですから」
 
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