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第1章 剣の磨き布
02 お金がない 2
しおりを挟む美人の店員さんは袋を受け取ると、中に入っていた物をひとつひとつ出して店のカウンターに乗せた。並べた物をざっと見聞すると、うーんと首を傾げてから、苦笑した。
「古着に古本かあ。これはあんまり期待しない方がいいかもねえ」
やっぱりなあ……。
俺はがっくりと頭を垂れた。まあ、最初からあまり期待はしてなかったけど、やっぱりお金にならないと分かるとがっかりしてしまう。
「そうですか……。少しでも現金になればと思ったんですけど……」
「あなた、もしかして大学の学生さん?」
「はい。しがない貧乏学生で……。大学の近くで下宿してるんですけど、バイト代も底を尽いちゃったもんで、こうしていらない物を売りに来たってわけで……」
俺は貧乏であることを強調してみた。これで少しは同情を買ってもらい、買取価格を少しでも上げてもらおうという俺のみみっちい作戦だ。
……なんだけど、お姉さんから返ってきたのは予想外の反応だった。
「すごぉい! 大学って言ったら、卒業したらお城にお勤めする人がほとんどなんでしょう? 頭良いのねぇ」
「い、いやそれほどでも……。魔術科とか法学科ならともかく、俺は農業系なんで……」
ここでちょっと、大学の説明だ。
王都のほど近くにある大学は国が運営する機関で、大雑把に「神学科」、「法学科」、「哲学科」、「魔術科」、そして「医学科」に分かれている。
俺はそこの医学科に属しているんだけど、俺が目指してるのは人間の医者じゃない。植物の医者のほうなんだ。
俺の実家は農家なんだけど、天候不良が続いたりすると農作物の収穫が安定しなくて困ってしまう。
だから効率よく野菜や麦を収穫できるように、土地の改良や効率のいい作物の育て方なんかを大学で勉強したいと思ってる。
でも植物学とか農業なんかの専科はないから、まずは医学科に入って人間や植物の仕組みを習う、というわけだ。
「ううん、大学に通えるってだけでも充分すごいわ!」
「い、いやあ。それほどでも……」
綺麗なお姉さんに褒められるのは凄くうれしい。うれしいけど、今はもっと同情して欲しかった。そしてできれば買取価格を上げてくれないでしょうか、お姉さん。
でもお姉さんの様子から察するに、同情作戦は失敗したみたいだった。あとはもう、少しでも高値で買い取ってくれることを祈るしかない。
「じゃあとりあえず、ここに必要事項を書いてくれる?」
お姉さんは紐で綴じたノートとペンを差し出してきた。カウンターの上で、俺はペン先をインクにつけた。
名前はエドガー・リンネ。
年齢、十九才。
職業は大学生……っと。
その時、カウンターの奥の扉が開いた。どうやら住居部分とつながっているらしいその扉から、小さな二つの影が顔を覗かせた。
「イルミナお姉ちゃん……」
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