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第1章 剣の磨き布
01 お金がない 1
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「六百八十G……」
俺は財布の中身を確かめてため息をつくと、諦めきれずにもう一度その中身を確かめた。だけど、何度確かめたところで、お金が増えるわけがない。
財布の中身はもう六百八十Gしかないと考えるべきか、まだ六百八十Gもあると考えるべきか……。
「それが問題だ……」
いや、現実逃避してる場合じゃないぞ。
俺は頭をぶんぶんと横に振ると、思考を現実に戻し、腕の中に抱えた紙袋に視線を落とした。
生活費が底をつきそうになっている今、目下の問題はこの袋の中のガラクタがいくらで売れるかということだった。その金額で、俺のこの一週間の生活が決まるというわけだ。
一番の問題は食事かな。
朝食と昼食はもちろん抜き。夕食だけにするとして、あと一週間もたせられるかどうか……。
「くそぉ……。腹減ったなあ……」
すでに節約生活に入ってぐうぐう鳴る腹を手で押さえると、俺は「古道具レイツェル」と書かれたボロっちい道具屋の看板を見上げた。
俺のような貧乏学生には多少色をつけて買い取ってくれるという、ありがたい噂のある道具屋だ。実際、俺も大学の先輩に教えてもらってここにやって来たのだった。
俺は売り物を詰めた袋をぎゅっと抱きしめると、ドキドキしながら扉の取っ手に手を掛けた。
扉を開けると、ちりんちりんと扉に取り付けられた鈴が鳴る。
「こ、こんにちはー……」
開けた扉の向こうに広がる光景に、俺は思わず息を呑んだ。
薄暗い照明と、漂うカビ臭いにおい、狭い店内にそこかしこに並べられた道具の数々……。
道具屋の中は、まるで別世界に迷い込んだみたいな異質な空気に満ちていた。中でも俺の目を引いたのは、天井から吊り下げられている薬草だった。
「うわ、これフェネルスじゃないか。こっちはリーンセージ……? 希少種じゃないか、すごいな」
天井からは薬草以外にも、小動物の干物みたいな物がぶら下がっていて、棚には日用品からアンティークな小物まで様々なものが陳列されていた。
なんだか魔女が出てきてもおかしくないような雰囲気の店だな、なんて思っていたそのとき。
「はぁい、いらっしゃい」
店の奥から顔を出したのは妖艶な魔女……ではなく、美人の店員さんだった。
俺はつい、二度見してしまった。店員さんが、この辺では見かけないような美人だったからだ。
(あれ? でも、気のいいおばさんが店員をしてるって聞いてたんだけど……。娘さんかな?)
見たところ二十代半ばって感じだろうか。
背中まで伸びた漆黒の髪は少し青みを帯びていて、薄い青の瞳はなんだかエキセントリックで……。
「なあに? 私の顔になにかついてる?」
「えっ」
思わず見惚れてしまっていたことに気がついて、慌てて「すみません」と謝る。
でも道具屋の魔女……いや、店員のお姉さんはそんな風に見られることには慣れているみたいで、まったく動揺することなく楽しそうに微笑んだ。
「なにかお探し?」
くすくす笑いながら、お姉さんが俺に尋ねる。俺は照れくさくなって頭をわしわしと掻きながら答えた。
「す、すいません。探してるんじゃなくて、実は買い取ってもらいたい物があって来たんですけど……」
俺は古着や古本なんかをごちゃごちゃと詰めた袋を、お姉さんに広げて見せた。
「買取のほうね。オッケー。じゃあちょっと、見せてもらおうかしら」
俺は財布の中身を確かめてため息をつくと、諦めきれずにもう一度その中身を確かめた。だけど、何度確かめたところで、お金が増えるわけがない。
財布の中身はもう六百八十Gしかないと考えるべきか、まだ六百八十Gもあると考えるべきか……。
「それが問題だ……」
いや、現実逃避してる場合じゃないぞ。
俺は頭をぶんぶんと横に振ると、思考を現実に戻し、腕の中に抱えた紙袋に視線を落とした。
生活費が底をつきそうになっている今、目下の問題はこの袋の中のガラクタがいくらで売れるかということだった。その金額で、俺のこの一週間の生活が決まるというわけだ。
一番の問題は食事かな。
朝食と昼食はもちろん抜き。夕食だけにするとして、あと一週間もたせられるかどうか……。
「くそぉ……。腹減ったなあ……」
すでに節約生活に入ってぐうぐう鳴る腹を手で押さえると、俺は「古道具レイツェル」と書かれたボロっちい道具屋の看板を見上げた。
俺のような貧乏学生には多少色をつけて買い取ってくれるという、ありがたい噂のある道具屋だ。実際、俺も大学の先輩に教えてもらってここにやって来たのだった。
俺は売り物を詰めた袋をぎゅっと抱きしめると、ドキドキしながら扉の取っ手に手を掛けた。
扉を開けると、ちりんちりんと扉に取り付けられた鈴が鳴る。
「こ、こんにちはー……」
開けた扉の向こうに広がる光景に、俺は思わず息を呑んだ。
薄暗い照明と、漂うカビ臭いにおい、狭い店内にそこかしこに並べられた道具の数々……。
道具屋の中は、まるで別世界に迷い込んだみたいな異質な空気に満ちていた。中でも俺の目を引いたのは、天井から吊り下げられている薬草だった。
「うわ、これフェネルスじゃないか。こっちはリーンセージ……? 希少種じゃないか、すごいな」
天井からは薬草以外にも、小動物の干物みたいな物がぶら下がっていて、棚には日用品からアンティークな小物まで様々なものが陳列されていた。
なんだか魔女が出てきてもおかしくないような雰囲気の店だな、なんて思っていたそのとき。
「はぁい、いらっしゃい」
店の奥から顔を出したのは妖艶な魔女……ではなく、美人の店員さんだった。
俺はつい、二度見してしまった。店員さんが、この辺では見かけないような美人だったからだ。
(あれ? でも、気のいいおばさんが店員をしてるって聞いてたんだけど……。娘さんかな?)
見たところ二十代半ばって感じだろうか。
背中まで伸びた漆黒の髪は少し青みを帯びていて、薄い青の瞳はなんだかエキセントリックで……。
「なあに? 私の顔になにかついてる?」
「えっ」
思わず見惚れてしまっていたことに気がついて、慌てて「すみません」と謝る。
でも道具屋の魔女……いや、店員のお姉さんはそんな風に見られることには慣れているみたいで、まったく動揺することなく楽しそうに微笑んだ。
「なにかお探し?」
くすくす笑いながら、お姉さんが俺に尋ねる。俺は照れくさくなって頭をわしわしと掻きながら答えた。
「す、すいません。探してるんじゃなくて、実は買い取ってもらいたい物があって来たんですけど……」
俺は古着や古本なんかをごちゃごちゃと詰めた袋を、お姉さんに広げて見せた。
「買取のほうね。オッケー。じゃあちょっと、見せてもらおうかしら」
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