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『第3章 黒い霧、悪夢の織り手』

村、エルフ族

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 ヴィスラの口から放たれた黄金色の大炎。
それは巨躯の化け物を覆い尽くし、辺りには香ばしい匂いが立ち込める。


「あァあァ。ちょいと焼きすぎたさね」


 地面は黒く焼き焦げ、木々もまた一瞬で炭化していた。火は燃え移ることすらなく、化け物に一直線に黒い跡となって全てを飲み込んでいた。
その様子を見てヴィスラはニヤニヤと満足げに口角を上げる。


(怖いぃ痛い苦しいなんでなんで苦しい怖い苦しいなんでなんで苦しい怖いいなんでなんでなんでなんで)



「……にしても、まだ声が聞こえてるってことはさっきのはコイツからじゃなかったさね」


 ヴィスラが耳を澄ますと聞こえてくる悲痛な思念。ヴィスラはその”声”のする方へ目を向ける。
そしてヴィスラは地面に転がる悠に手を差し出して、立ち上がる手助けをする。


「あっちの方に何かいるさね。見に行こうさね」


「なぁ、ヴィスラ。聞きたいことがあるんだけど」


「なにさね、そんな改まって」


 悠は背に釣り竿を戻しながら、黒焦げになって赤子のように身をすぼめた化け物を見つめながら口を開く。
その黒焦げた化け物の脇を通り過ぎ、ヴィスラはアーティファクト”万物の声”を通して聞こえる声に導かれるように歩みを進める。


「俺も魔法を使えるっぽいんだ」


「はァ?」


「なんでか分からないけど、俺が危なくなったときに”時間が止まった”ようになるんだ。これって魔法じゃないのか?」


 ヴィスラは何かを思案するように、鼻先に指を当ててつかの間考える。
しかし何も思い浮かばなかったのか、赤い髪をはためかせて首を横に振る。


「アタシも長く生きてるけど、そんな話は聞いたことないさね。思い当たるとすれば悠、アンタはアタシと血魂けっこんの契約したさね、それで落ちた人間テンペストであるアンタになにか干渉したとか。あるいは」


「あるいは?」


「何かアーティファクトを既に持っているか、さね。ただ、アタシがアンタの記憶を契約の時に覗いたときには、それらしきものはなかったと思うさね」


「……ヴィスラ、アンタにもこの”チカラ”が分からないのか。それにこの時間が止まったような感覚はヴィスラと契約する前からだ」


「アンタも契約のお陰でアタシの記憶は持ってるだろうに、なんでアタシが知らないってことを知らないさね。 ……まァ、アタシの記憶量とアンタの記憶量を比べたら絵日記と百科事典ぐらい差があるから仕方ないことさね」


「いきなり低スペックのガラケーに、スーパーコンピュータ京のデータをぶち込まれたようなもんだぞ、こっちの身にもなってくれよ」


「まァ、何が言いたいのか分からないけどさ。とりあえず、村みたいのは見えてきたさね」


 ヴィスラが指を指した方向。森が開けた先に小さな村があった。村は一昔前の中世の建築であり、家の壁はレンガ造りで赤と黒色に染まっていた。


「な、なんだよ……。なんなんだよ、これ」


 悠は村を震えた指で指し示す。
その村には腕がもがれて倒れる者、潰されて奇妙に四肢がねじ曲がって動かなくなった者、首だけが野ざらしになっている者。それらが地面や建物を朱色に彩っていた。


「……恐らく、さっきの化け物がやったんだろうさね。ただ、こいつらは耳の長いの、つまりエルフ族さね。エルフってのは戦闘や魔法に長けた種族でね、あれ1匹だけでここまでにはならないはずさね」


「そうなら、何が起きたんだ?」


「そいつをそこに隠れているエルフに聞こうじゃないさね」


 ヴィスラは地面に転がる死体を避け、あるいは無造作に蹴飛ばしながら1軒の家の前に立つ。
ドアノブを回すが、鍵が閉まっているのか扉は固く閉じられたままであった。


「お、おい。ヴィスラ……」


「こうすれば簡単に開くさねっ」


 ヴィスラの右手が見る間に紅い鱗に覆われてかぎ爪が生える。
その右手で強引に扉に穴を空けると、まるで段ボールを破るように木製の扉を切り裂く。


「ヒィィィッッッ」


「さて、何が起きたか教えてもらおうさね」


 家の中は机は逆さになり、割れた食器の破片が散乱していた。その荒れた家の中に怯え叫ぶ1人のエルフ女。
ヴィスラはそのエルフ女を見つけると、ゆっくりと近づくのであった。
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