封印されし欲深な龍と半龍混じりの契約者 ~イリオス・アーティファクト~

重弘 茉莉

文字の大きさ
上 下
11 / 22
『第2章 聖女の予言、清廉騎士団』

予言、騎士団副長ルゥ-1

しおりを挟む
 いつも間にか黒髪黒目に戻った悠とヴィスラはたき火を囲み、話ながらも互いに別のことに没頭していた。
ヴィスラは腕に付けたドクロをあしらった黄金の装飾品を磨いており、悠は釣り竿を磨いていた。ヴィスラは悠から手渡された『拭くだけでピッカリッーン』と書かれた布を手にして目を丸くする。


「まァ、こんな便利なモノが悠の世界にあるさね。まったく羨ましい限りさね」


「まあ、俺が居た世界はほどほどに平和で便利だったよ。だけど28年間生きてきて、あんまり好きじゃなかったけどな」


「ふゥん、そんなもんさね? アタシにはわからない感覚さね。ところで、だ」


「うん?」


「そのつりさお?をちょっとアタシに貸して欲しいさね」


「えっ、嫌なんだけど」


 悠は釣り竿を抱えるようにしてヴィスラから距離を取る。
悠にとって雀の涙ほどの給料とボーナスからなんとか捻出して購入したモノであり、大物を釣った思い出や台風の日に釣りに出掛けた思い出などが詰まった釣り竿であった。さらにこの釣り竿は自分が元の世界から持ってきた数少ない己の持ち物。そのため、悠はヴィスラに釣り竿を渡すのを渋ったのだった。


「まァまァ、ちょっとぐらい良いさね。なに、壊したりしないからさ」


「無理」


「なァ、ちょっと」


「無理無理」


「おィ」


「無理無理無理かたつむり」


 悠のその拒否具合に、ヴィスラは苛つき始める。
段々とヴィスラの口元からは黄金の炎が漏れ始め、右手は鋭い爪が伸び始める。二人の間はぴんと張り詰めた空気になり、ヴィスラは釣り竿を奪おうとまさに悠に向かって飛びかかろうとする。だが。


(へっ?)


 悠に向かって飛びかかろうとしたヴィスラの動きがゆっくりと、ほとんど止まっているかのようになる。
その感覚に悠はこの世界に落ちてきた時のことを思い出す。あのときもまた、隕石群の破片がほとんど止まって見えていたのだ。


(なんだ、何が起こっている?)


 悠はヴィスラから目を離すと辺りをぐるっと見渡す。そこで悠は気が付く。
俺の背後から飛んできた2本の矢。その矢の軌道は、悠の後頭部へと伸びていた。


(矢? えっ、どこから)


 咄嗟にしゃがみながらも矢が飛んできた方を視線で追う。
そこには複数人の人影が、矢を引き絞っている姿があった。


「ひっ!」


 悠がそこまで理解した瞬間、止まった世界の時間が動き出す。
悠の頭上すれすれを矢は通過し、その流れ矢はちょうど悠に飛びかかろうとした体勢のヴィスラへと突き刺さる。


「痒いさねっ!!!」


 ヴィスラの胸へと直撃した矢はその体に突き刺さらずに地面へとぽろりと落っこちる。
二の矢、三の矢が次々と廃屋となった家の影から放たれる。


「遅いさねっ!」


 二の矢をその鋭い爪でたたき落とし。


「ふッ!」

 
 三の矢を口で受け止めて。


「そこからさねっ」


 ヴィスラは矢の軌道を読むと、射手に向かって飛びかかる。
だがその鋭い爪が射手へと届くことはなかった。


「”大爆発エル・ヒュージョン”」


 ヴィスラと射手の間に起きる爆発。地面は揺れ、空気は震え、辺りには衝撃波が広がる。
地面のレンガは粉々に砕け、大穴が穿たれる。その大穴の中に、紅い鱗で覆われた右手で体を防御しているヴィスラの姿があった。


「アラアラ、このわたしの大爆発エル・ヒュージョンで死なない方が居るなんて思いませんでしたのよ?」


 射手の間から、一人の少女がクスクスと笑いながら出てくる。
片手にはジャスミンにも似た花があしらわれた杖を持ち、清純さを感じさせる真っ白なスカーフとドレスを着ていた。
少女は額から血を流すヴィスラを見下ろしながら、杖を突きつける。


「まァまァ、それなりに骨のあるやつもいるさね。ところでアンタたち、いったい何者なんだい?」


「わたしはルゥ、純血のルゥ。清廉騎士団、副長をしているわ。 ……聖女様の予言の通り、”ごくと”の封印が解かれてる。予言の通りなら貴方たち2人が、”ごくとの厄災”。聖女様の言われた通り、貴方たち”2人”を浄化するわ」


「2人だってェ?」


 ルゥはその杖先をヴィスラから、しゃがみ込んで動けていない悠に向ける。
そのことに気が付いたヴィスラは悠を守ろうとルゥに向かって飛びかかるが、もう遅い。



「”大爆発エル・ヒュージョン”」


 ルゥは呪文を唱え、杖先が光る。悠は体が動かず、ただただルゥとヴィスラを見ていることしか出来なかった。
同時に、悠は閃光に包まれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...