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敗戦の責任

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「次はセンプローニウス殿についてだが、まずは皆の意見を聞きたい。言いたいことがある者は自由に述べられよ」
 ファビウスがそう言って一同を見まわすと、次々と元老院議員が意見を述べ合った。
 冷静にセンプローニウスを批判する者、酷く憤慨しながらセンプローニウスを厳しく弾劾する者、それぞれ温度差はあったものの、敗戦の責任がセンプローニウスにあるということでは一同一致していた。
 講堂の中で傍聴している市民やその外で見守っている市民からも敗戦の責任者に容赦のない言葉が浴びせられたが、議長であるファビウスはそれを制しようとはしなかった。
 責任の一端はあるかもしれないが……、ハンニバル相手に皆が望むような勝利を収めることは難しい。センプローニウス殿だったから、全滅するのを防げたと言えなくもない。
 プブリウスは講堂を取り巻く弾劾一色の空気に反発したかったが、それを声に出すことはできなかった。擁護の声を上げるなどとてもできない雰囲気だったのだ。支持基盤でもある市民から見放されたセンプローニウスを、平民出身の元老院議員らも見放すしかなかった。それほど、トレビア川での戦いの結果はローマ人にとって受け入れ難いものであったのだ。
「センプローニウス殿、これが我々元老院の声でありローマ市民の声だ。ローマの法により敗戦の責任を負わせることはないが、自分のしでかした愚かな行為を大いに反省し、今後もローマの発展に尽力されよ。最後に、言いたいことがあればここで述べてもかまわんが」
 敗戦の責任者がどのような言葉を述べるのか、周囲は固唾を飲んで待った。やや間を置き、センプローニウスは涙ぐみながらも、はっきりとした口調で述べた。
「今回の件は大変申しわけなく思っております。亡くなった者、捕虜にされた者、またはその家族に対してできる限り償って参りたいと思います」
 トレビアの陣営地で見たセンプローニウスとはまるで別人だった。平民からのし上がってきた男の政治生命が終わった。プブリウスは俯く彼に、
「政治生命が終わっただけで、あなたの人生が終わったわけではありません。努力してきたことが無に帰するのは残念ですが、また何かを一から始めるにはよい機会であり、この転機がよりあなたの幸せに繋がると考え、前をしっかりと向いてください」
 と、心の中で語りかけた。地位や名誉だけが人を幸せにするものではない。プブリウスは自分にもそう言い聞かせていた。
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