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カルタゴ軍とガリア人
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アルプス越えで生き抜いたカルタゴ兵は二万六千。
ハンニバルはアルプス山脈以南のガリア人の懐柔に力を注いでいる。
カルタゴ軍とガリア人との間で大規模な争いがあり、カルタゴ軍が勝利する。
いくつかのガリア人部族がカルタゴ軍に合流するが、多くの部族が様子を見ている。
ガリア兵を加えたカルタゴ軍の総勢が三万六千を超える。
カルタゴ軍が東に移動を開始する。
これらの情報を得ながらコルネリウスはプラケンティアでの戦闘準備に余念がなかったが、自軍の二個軍団だけでガリアを横断し、カルタゴ軍と開戦しようとは考えていなかった。
「カルタゴ軍の勢いは増すばかりですぞ。これ以上ガリア人どもが奴らに加勢する前に、我々は討って出るべきではないでしょうか」
そうした側近の声に、
「カルタゴの将軍ハンニバルを侮ってはいけない。彼は数々の困難を克服し、我々が予想できなかった方法で戦いを始めようとしている。彼がどのように考え、どのように行動するのかを予想することは難しい。それに、すでに数の上でも我々は劣勢である。万が一我らが敗れれば、様子見している多くのガリア人がカルタゴ軍に加勢するだろう。そうなれば勢いを持ってセンプローニウスの軍に当たることになり、そこでもカルタゴ軍勝利となれば、敵は我が都市ローマまで何の障害もなく進軍することができる。今度の戦いは我々ローマ軍が他国に攻撃しているのではなく、我が領土が攻撃されているのだ。遠征先で敗れるのと防衛先で敗れるのとでは責任の重みが違うのだ。今は動かず、友軍の到着を待って万全の態勢で敵を迎え撃つのが良策である。それに、敵はロダヌス川の渡河やアルプス越えで多くの犠牲を払い、満身創痍であろう。そんな彼らの元にいったいどれだけのガリア人が集まるというのだ。私はハンニバルが考えているよりもガリア人が集まっていないのではないかと思う。雇ったガリア人に餌も与えなければならない。ガリア人は蛮族で餌が尽きれば逆に危険な存在にもなる。当然そのことはハンニバルも知っているだろう。ハンニバルの軍勢がそれほど大きくはならないと私が考えるのは、間違いだろうか」
コルネリウスの見識に側近らは改めて感銘を受けたようで、もう誰も不安を述べるものはいなくなった。
プブリウスは父の考えを理解し、その考えに同調もしていたが、全ての不安が払しょくされたわけではなかった。
なぜ、ハンニバルはこんな無謀な戦いを挑んだのだろうか。
多くの味方を死に追いやった敵将のやり方に、プブリウスは今も激しい憤りを感じずにはいられないが、それとは別にハンニバル自身の矛盾がプブリウスには疑問でならなかった。
プブリウスにはハンニバルの行動の全てが無謀としか思えなかった。ハンニバルはガリア人との戦闘で兵を減らし、ロダヌス川の渡河で多くの兵を減らし、アルプス越えでさらに多くの兵を減らし、ローマ軍と戦う前に自軍の兵をどんどん減らしているのだ。ガリア人は身体的な強さを持っているが統制に疎く頼りにはできない。多くのガリア兵を集めてみても自軍の精強な兵の代りにはならないはずである。
これほどの犠牲を出してまで突き進んだ先にあったものは、奇襲とも呼べるローマ本土への攻撃だった。だが、半減した戦力での遠征に勝機があるとは到底思えなかった。プブリウスにはハンニバルが狂人であるとしか思えなかったのだ。
プブリウスは親友ラエリウスにそうした心の内を話してみた。
「プブリウス様、遠く離れた敵将の心情を推し量ることは簡単ではありませんが、それは敵も同じです。私たちはこの軍の最高指揮官である執政官、つまりがあなたのお父上様を信じて従っておればよいのです。ローマ人はガリア人よりも非力ですが、それでもローマ軍はガリア人に勝利しているのはなぜでしょうか。
それは指揮官の差です。優れた指揮官の元で一致団結することで、ローマ軍は最強なのですから」
プブリウスは安堵の笑みを親友に向けたが、それは作りものだった。悪い予感めいたものがいくら振り払っても、プブリウスの脳裏から離れなかった。
ハンニバルはアルプス山脈以南のガリア人の懐柔に力を注いでいる。
カルタゴ軍とガリア人との間で大規模な争いがあり、カルタゴ軍が勝利する。
いくつかのガリア人部族がカルタゴ軍に合流するが、多くの部族が様子を見ている。
ガリア兵を加えたカルタゴ軍の総勢が三万六千を超える。
カルタゴ軍が東に移動を開始する。
これらの情報を得ながらコルネリウスはプラケンティアでの戦闘準備に余念がなかったが、自軍の二個軍団だけでガリアを横断し、カルタゴ軍と開戦しようとは考えていなかった。
「カルタゴ軍の勢いは増すばかりですぞ。これ以上ガリア人どもが奴らに加勢する前に、我々は討って出るべきではないでしょうか」
そうした側近の声に、
「カルタゴの将軍ハンニバルを侮ってはいけない。彼は数々の困難を克服し、我々が予想できなかった方法で戦いを始めようとしている。彼がどのように考え、どのように行動するのかを予想することは難しい。それに、すでに数の上でも我々は劣勢である。万が一我らが敗れれば、様子見している多くのガリア人がカルタゴ軍に加勢するだろう。そうなれば勢いを持ってセンプローニウスの軍に当たることになり、そこでもカルタゴ軍勝利となれば、敵は我が都市ローマまで何の障害もなく進軍することができる。今度の戦いは我々ローマ軍が他国に攻撃しているのではなく、我が領土が攻撃されているのだ。遠征先で敗れるのと防衛先で敗れるのとでは責任の重みが違うのだ。今は動かず、友軍の到着を待って万全の態勢で敵を迎え撃つのが良策である。それに、敵はロダヌス川の渡河やアルプス越えで多くの犠牲を払い、満身創痍であろう。そんな彼らの元にいったいどれだけのガリア人が集まるというのだ。私はハンニバルが考えているよりもガリア人が集まっていないのではないかと思う。雇ったガリア人に餌も与えなければならない。ガリア人は蛮族で餌が尽きれば逆に危険な存在にもなる。当然そのことはハンニバルも知っているだろう。ハンニバルの軍勢がそれほど大きくはならないと私が考えるのは、間違いだろうか」
コルネリウスの見識に側近らは改めて感銘を受けたようで、もう誰も不安を述べるものはいなくなった。
プブリウスは父の考えを理解し、その考えに同調もしていたが、全ての不安が払しょくされたわけではなかった。
なぜ、ハンニバルはこんな無謀な戦いを挑んだのだろうか。
多くの味方を死に追いやった敵将のやり方に、プブリウスは今も激しい憤りを感じずにはいられないが、それとは別にハンニバル自身の矛盾がプブリウスには疑問でならなかった。
プブリウスにはハンニバルの行動の全てが無謀としか思えなかった。ハンニバルはガリア人との戦闘で兵を減らし、ロダヌス川の渡河で多くの兵を減らし、アルプス越えでさらに多くの兵を減らし、ローマ軍と戦う前に自軍の兵をどんどん減らしているのだ。ガリア人は身体的な強さを持っているが統制に疎く頼りにはできない。多くのガリア兵を集めてみても自軍の精強な兵の代りにはならないはずである。
これほどの犠牲を出してまで突き進んだ先にあったものは、奇襲とも呼べるローマ本土への攻撃だった。だが、半減した戦力での遠征に勝機があるとは到底思えなかった。プブリウスにはハンニバルが狂人であるとしか思えなかったのだ。
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「プブリウス様、遠く離れた敵将の心情を推し量ることは簡単ではありませんが、それは敵も同じです。私たちはこの軍の最高指揮官である執政官、つまりがあなたのお父上様を信じて従っておればよいのです。ローマ人はガリア人よりも非力ですが、それでもローマ軍はガリア人に勝利しているのはなぜでしょうか。
それは指揮官の差です。優れた指揮官の元で一致団結することで、ローマ軍は最強なのですから」
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