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第1章 勇者の誕生
第七話
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あの後、館に帰った俺たちは、しばらくのんびりとしていたのだが、なんと予想外の人物が帰ってきた。
「ただいま帰りました。アルバ様、ラルフ様。」
「えっ、シエル、学園は?」
なんと、シエルが館に箒に乗って帰ってきた。どうしてか理由を聞くと、
「学校では最初に箒を使った飛行について学びました。先生のテストを通過すると、休日ならいつでも家に戻っていいそうなので。」
「そんな制度があったのか。」
初めて聞いたので、俺はとても驚いた。
シエルが話を続ける。
「それで、魔法について少し質問があったので帰ってきました。」
「質問?」
ラルフが尋ねる。
「はい。ラルフ様はどうやって魔法の形を決めたのですか?」
「あぁー、その話ね。」
「魔法の形? 一体どういうことだ?」
「えっ、アルバ知らなかったの?」
俺の呟きに、ラルフが驚く。嘘でしょあり得ないというような顔をされた。
仕方がないだろ。俺は魔法が使えないんだから。
俺の不満が顔に出ていたのだろう。ラルフが説明をしてくれることになった。
「魔法は想像力が大事なんだよ。自分が今から作るものだったり、することだったりのイメージが大事なんだ。」
「そして、そのイメージを魔法として具現化するのです。例外として、複雑すぎるものはイメージだけではできないと学校で教わりました。」
俺がへぇー、というとラルフが続ける。
「でも、炎とか水とか魔法で作り出すものは、形が不確定なものが多いでしょ。それに、例えば炎だと、形が不規則に変わり続けるから想像が難しい。」
「魔法はイメージが大事だから、具現化出来ないってことか?」
「いや、出来ないわけじゃない。ただイメージがきちんと固まっていないと、具現化するまでにかなり時間がかかるんだよ。」
実際にやってみようか、とラルフが言うので、俺とシエルはラルフの手を見る。
ラルフが『ファイア』と唱えると、5秒後くらいに小さな火の玉が出てきた。
「こんな風に難しいし不便なんだ。だから、魔法を使う人はみんな、1つ形を決めるんだよ。その形に属性を付与して具現化するって言えばいいのかな。」
ラルフはもう1回『ファイア』と唱えると、今度は赤い矢の形をしたものがすぐに出てきた。手を近づけると、しっかりと熱い。
ラルフが言うには、この矢は火属性の魔法で出来ているのでこの矢が刺さったところを燃やす、ということもできるそうだ。
「こんな感じで比較的簡単になるし、すぐに出せるから便利なんだよ。でも、僕の使ってる『心眼』もそうだけど、形に付与したところでどうにもならないものは、特訓するしかないけどね。」
「それで、学校の宿題で何か形を決めるようにと言われました。ラルフ様は、なぜ矢の形にしたのですか?」
「確かに、俺も気になる。」
ラルフは苦笑しながら答えた。
「そんなに参考にならないと思うよ。僕のは、父親譲りなんだ。小さい頃から、父さんに弓矢だったり、魔法だったりを教えてもらってたから、一番馴染み深かったのもあるかな。」
そう言って、ラルフは昔を懐かしむような顔をした。一瞬、悲しそうな表情が入ったのは気のせいだろうか。
「なるほど。馴染み深いもの、ですか。」
シエルは深く考え込んでいる。
「そんなに考えすぎなくてもいいんじゃないか?最初に思い付いたものとか。」
「最初に思い付いたもの……本、でしょうか。しかし、もっと軽やかに動くものがいいですね。少し探してきます。」
そう言って、シエルは自分の部屋に入っていき、すぐに戻ってくる。
「これはいかがでしょう。」
シエルの魔法を見て、ラルフが言う。
「少し試してみない?」
俺たちは外に出て、シエルの魔法を実践することになった。
ラルフが『ソイル』と唱えて、茶色い矢を放つと、刺さったところに土の柱が現れる。
どうやら、あの柱を的にするらしい。
「いきます。」
そう言ってシエルは『ファイア』と唱えると、赤色のトランプカードの形をしたものが出てきた。
カードが刺さると、きちんと燃えていた。
「効果はバッチリだね!」
「これで、宿題はなんとかなりそうです。ありがとうございました。」
「また、何かあったら言ってね~。」
頭を下げて礼を言うシエルに、ラルフが笑って返す。
シエルが頭を上げると、あっ、と思い出して言った。
「そういえば、アルバ様、実技合同演習はご存知ですか?」
「あぁ、知ってるよ。」
実技合同演習とは、冒険者と魔法学園の学生で一緒に魔物を倒すという行事だ。魔物が出る森で、冒険者が魔物を倒している姿を見たり、教わったりするというものだ。
「アルバ様達も参加するのですか?」
「いつも通りなら、今年も呼ばれると思うが。」
俺たちは毎年、実技合同演習に参加している。冒険者としていつも呼ばれて、学生に魔物の急所だったり、処理の仕方だったりを教えている。
最近、魔王軍の動きはないらしい。そのおかげで俺は忙しくないし、勇者に選ばれてしまったから、今年は確実に呼ばれるだろうな。
「もう、そんな時期か。」
「今年はどんな子達だろうねぇ。」
「毎年、伸び代がある人多いからな。楽しみだよ。」
俺は笑ってそう言った。
先生方の教え方がいいのか、学生達は皆優秀だ。
「私も精一杯頑張ります。」
「シエルの活躍、期待してるぞ。」
「僕たちも学生に負けないようにしないと。一緒にがんばろー!」
そこで俺は、あることに気づいた。
「いや、ラルフ、お前冒険者じゃないだろ。」
「えっ、そうなのですか。しかし、アルバ様と一緒に依頼を受けていたのでは?」
ラルフは、正式な冒険者じゃない。ギルドに冒険者として加入していないからだ。
一応、俺を友達として手伝っているということになっている。
「えー、そんな細かいこと気にしないでよ~。なんだかんだ言って、結局参加させてくれるくせに。」
「まあ、そうなんだが……。」
毎年、魔法学校の先生に許可を取っている。
部外者をそんな簡単に参加させていいのか、と思う。以前、先生に聞いたが、あなたの連れてくる人なら優秀で善い人でしょう、と言っていた。
「それに、弓矢を教える機会はあまり無いから助かっているって言われたよー。」
あちらが歓迎しているなら、まあ、いいか。
実技合同演習の話をしたあとは、シエルの学校生活の話を聞いたり、俺たちがこの間行った拠点での話をしたりして過ごした。
シエルは魔法学校の友達と遊ぶ約束をしているらしく、夕方頃に帰っていった。
噂をすればと言うべきなのか、次の日、実技合同演習の招待状が届いた。
優秀な者達を育成するため、ぜひ勇者様にご参加願いたい、とのことだ。
「一応聞くが、どうする?」
「そりゃもちろん。行くしかないでしょ!」
「わかった。参加の返事をしてくる。」
招待状と一緒に返信用の紙も届いていた。
その紙の参加の文字に丸をすると、魔法で紙が空に飛んでいく。魔法学校の方面に飛んでいったようだ。
日程は2週間後だそうだ。
今年はどんな人達がいるか、とても楽しみだ。
「ただいま帰りました。アルバ様、ラルフ様。」
「えっ、シエル、学園は?」
なんと、シエルが館に箒に乗って帰ってきた。どうしてか理由を聞くと、
「学校では最初に箒を使った飛行について学びました。先生のテストを通過すると、休日ならいつでも家に戻っていいそうなので。」
「そんな制度があったのか。」
初めて聞いたので、俺はとても驚いた。
シエルが話を続ける。
「それで、魔法について少し質問があったので帰ってきました。」
「質問?」
ラルフが尋ねる。
「はい。ラルフ様はどうやって魔法の形を決めたのですか?」
「あぁー、その話ね。」
「魔法の形? 一体どういうことだ?」
「えっ、アルバ知らなかったの?」
俺の呟きに、ラルフが驚く。嘘でしょあり得ないというような顔をされた。
仕方がないだろ。俺は魔法が使えないんだから。
俺の不満が顔に出ていたのだろう。ラルフが説明をしてくれることになった。
「魔法は想像力が大事なんだよ。自分が今から作るものだったり、することだったりのイメージが大事なんだ。」
「そして、そのイメージを魔法として具現化するのです。例外として、複雑すぎるものはイメージだけではできないと学校で教わりました。」
俺がへぇー、というとラルフが続ける。
「でも、炎とか水とか魔法で作り出すものは、形が不確定なものが多いでしょ。それに、例えば炎だと、形が不規則に変わり続けるから想像が難しい。」
「魔法はイメージが大事だから、具現化出来ないってことか?」
「いや、出来ないわけじゃない。ただイメージがきちんと固まっていないと、具現化するまでにかなり時間がかかるんだよ。」
実際にやってみようか、とラルフが言うので、俺とシエルはラルフの手を見る。
ラルフが『ファイア』と唱えると、5秒後くらいに小さな火の玉が出てきた。
「こんな風に難しいし不便なんだ。だから、魔法を使う人はみんな、1つ形を決めるんだよ。その形に属性を付与して具現化するって言えばいいのかな。」
ラルフはもう1回『ファイア』と唱えると、今度は赤い矢の形をしたものがすぐに出てきた。手を近づけると、しっかりと熱い。
ラルフが言うには、この矢は火属性の魔法で出来ているのでこの矢が刺さったところを燃やす、ということもできるそうだ。
「こんな感じで比較的簡単になるし、すぐに出せるから便利なんだよ。でも、僕の使ってる『心眼』もそうだけど、形に付与したところでどうにもならないものは、特訓するしかないけどね。」
「それで、学校の宿題で何か形を決めるようにと言われました。ラルフ様は、なぜ矢の形にしたのですか?」
「確かに、俺も気になる。」
ラルフは苦笑しながら答えた。
「そんなに参考にならないと思うよ。僕のは、父親譲りなんだ。小さい頃から、父さんに弓矢だったり、魔法だったりを教えてもらってたから、一番馴染み深かったのもあるかな。」
そう言って、ラルフは昔を懐かしむような顔をした。一瞬、悲しそうな表情が入ったのは気のせいだろうか。
「なるほど。馴染み深いもの、ですか。」
シエルは深く考え込んでいる。
「そんなに考えすぎなくてもいいんじゃないか?最初に思い付いたものとか。」
「最初に思い付いたもの……本、でしょうか。しかし、もっと軽やかに動くものがいいですね。少し探してきます。」
そう言って、シエルは自分の部屋に入っていき、すぐに戻ってくる。
「これはいかがでしょう。」
シエルの魔法を見て、ラルフが言う。
「少し試してみない?」
俺たちは外に出て、シエルの魔法を実践することになった。
ラルフが『ソイル』と唱えて、茶色い矢を放つと、刺さったところに土の柱が現れる。
どうやら、あの柱を的にするらしい。
「いきます。」
そう言ってシエルは『ファイア』と唱えると、赤色のトランプカードの形をしたものが出てきた。
カードが刺さると、きちんと燃えていた。
「効果はバッチリだね!」
「これで、宿題はなんとかなりそうです。ありがとうございました。」
「また、何かあったら言ってね~。」
頭を下げて礼を言うシエルに、ラルフが笑って返す。
シエルが頭を上げると、あっ、と思い出して言った。
「そういえば、アルバ様、実技合同演習はご存知ですか?」
「あぁ、知ってるよ。」
実技合同演習とは、冒険者と魔法学園の学生で一緒に魔物を倒すという行事だ。魔物が出る森で、冒険者が魔物を倒している姿を見たり、教わったりするというものだ。
「アルバ様達も参加するのですか?」
「いつも通りなら、今年も呼ばれると思うが。」
俺たちは毎年、実技合同演習に参加している。冒険者としていつも呼ばれて、学生に魔物の急所だったり、処理の仕方だったりを教えている。
最近、魔王軍の動きはないらしい。そのおかげで俺は忙しくないし、勇者に選ばれてしまったから、今年は確実に呼ばれるだろうな。
「もう、そんな時期か。」
「今年はどんな子達だろうねぇ。」
「毎年、伸び代がある人多いからな。楽しみだよ。」
俺は笑ってそう言った。
先生方の教え方がいいのか、学生達は皆優秀だ。
「私も精一杯頑張ります。」
「シエルの活躍、期待してるぞ。」
「僕たちも学生に負けないようにしないと。一緒にがんばろー!」
そこで俺は、あることに気づいた。
「いや、ラルフ、お前冒険者じゃないだろ。」
「えっ、そうなのですか。しかし、アルバ様と一緒に依頼を受けていたのでは?」
ラルフは、正式な冒険者じゃない。ギルドに冒険者として加入していないからだ。
一応、俺を友達として手伝っているということになっている。
「えー、そんな細かいこと気にしないでよ~。なんだかんだ言って、結局参加させてくれるくせに。」
「まあ、そうなんだが……。」
毎年、魔法学校の先生に許可を取っている。
部外者をそんな簡単に参加させていいのか、と思う。以前、先生に聞いたが、あなたの連れてくる人なら優秀で善い人でしょう、と言っていた。
「それに、弓矢を教える機会はあまり無いから助かっているって言われたよー。」
あちらが歓迎しているなら、まあ、いいか。
実技合同演習の話をしたあとは、シエルの学校生活の話を聞いたり、俺たちがこの間行った拠点での話をしたりして過ごした。
シエルは魔法学校の友達と遊ぶ約束をしているらしく、夕方頃に帰っていった。
噂をすればと言うべきなのか、次の日、実技合同演習の招待状が届いた。
優秀な者達を育成するため、ぜひ勇者様にご参加願いたい、とのことだ。
「一応聞くが、どうする?」
「そりゃもちろん。行くしかないでしょ!」
「わかった。参加の返事をしてくる。」
招待状と一緒に返信用の紙も届いていた。
その紙の参加の文字に丸をすると、魔法で紙が空に飛んでいく。魔法学校の方面に飛んでいったようだ。
日程は2週間後だそうだ。
今年はどんな人達がいるか、とても楽しみだ。
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