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第3章 水の研究者、勇者を還す
第101話 さよなら
しおりを挟むミーナと一緒に、ファーラム王都まで戻ってきた。
「あっ! 関谷さん!!」
柳君たち高校生4人が俺たちを迎えてくれた。
ちょうどみんな揃ってて良かった。
「魔王をたったふたりで追いかけて行ったんじゃないかって、心配してたんです」
「俺もシオリのおかげで完全回復しました。すごい魔法使いになった関谷さんのお力になれるか分かりませんが、全力で魔王討伐のお手伝いをします」
「私にもサポートさせてください!」
柳君たちが元気に意気込みを語ってくれる一方で、九条 朱里さんは何故かおどおどした感じで俺に尋ねてきた。
「あの、えっと。関谷さん、もしかして……。魔王を、持ってたりします?」
「は?」
何を言っているんだという表情で固まる勇者たち。
「アカリ、なにいってんの?」
「そんなわけないだろ」
「良く分かったね。ほら、これ」
そう言って、魔王だったモノを取り出した。
拳サイズに圧縮された水の塊。
「関谷さん。あの、これは?」
「魔王だよ」
「「「えっ?」」」
「何回も魔王を倒してるうちに死にそうな雰囲気出したから、あわてて水に閉じ込めて超高密度まで圧縮した。脳も肉体も残ってはいるから、死んだとしても別の場所で復活はできない。この状態なら復活した瞬間に思考もできずにまた死ぬから、魔王が死にたいって思うこともできないはず。現にそれが成功してる」
勇者たちと離れた場所で魔王を倒してしまったら、女神に交渉する時間すらなく元の世界に戻されてしまうかもしれない。
それだけは絶対に避けたかった。
俺はこの世界で、ミーナと一緒に生きていくと決めたんだから。
「じゃあ、コレがほんとに魔王なんですね」
「うん、そうだよ」
九条さんは索敵スキルを女神から貰っていたようで、俺が持っている水塊から魔王の魔力を感じとっていた。それを柳君たちにも説明してくれたから、彼らには割とすんなり理解してもらえた。
「今から魔王を解放して、最後にもう一回殺す。もしかしたら自爆魔法とか使うかもしれないから、ヒトの少ない場所までついてきてもらっていい?」
弱っているとはいえ、王城の中で魔王を解き放つのは流石に危険すぎる。
「わかりました。行きましょう」
「ゆ、勇者様。少しお待ち下され」
玉座の間から出て行こうとしたら、王様に呼び止められた。
「これから魔王を倒されるのですね。そうすれば貴殿らは、もうここへは戻ってこれぬかもしれませぬ。せめて最後に、お礼を言わせていただきたい」
ファーラム王が声をかけると、数分で城にいた大臣や貴族たち、そして一緒に王都を防衛した兵士たちができる限り集まってきた。
集まった全員が俺たちの前に膝をつく。
「勇者ケンゴ様、賢者レン様、拳闘士アカリ様、そして聖女シオリ様。この国を守るためにご尽力いただいたこと、我々は決して忘れません」
「い、いや俺たちは……」
「魔王を追い詰めたのも関谷さんですし」
「そちらのトール様にも、もちろん多大なる感謝をしています。ですが魔物の大群に囲まれ、民が最も絶望を感じていた時に勇気をくださったのは貴方たち4名です。もし魔王を倒した後もこの世界にしばし滞在できるようであれば、是非ここに戻って来て下され。出来る限りのもてなしをさせていただきます」
本当に良い王様なんだな。
柳君たちが辿り着いた国が、ここで良かった。
「わかりました。戻ってこられたら、よろしくお願いしますね」
その後、彼らは防衛戦で共に戦った冒険者や兵士たちと少し会話してから、俺と一緒に移動を開始した。
──***──
「トールさん。こっちでは、そう名乗ってるんですね」
「うん。アレンから聞いた?」
「はい、あの少年に教えてもらいました」
「アレン君に魔法をかけてもらったおかげで、一緒に戦ってくれた冒険者さんたちも蘇生することができたんです」
「そうなんだ。それは良かった」
アレンにはファーラム王都でグレイグと一緒に待ってもらうことにした。俺はこっちの世界に残るつもりだから。
お別れは必要ない。
もしものために軽く挨拶はしておいたけど。
「さて、この辺で良いかな」
広い草原の真ん中までやって来た。
周囲にヒトの気配はない。
魔王を圧縮していた水魔法を解除する。
身体を圧縮された極小の魔王を草原に落とした。
少し待つと、魔王が元のサイズへと戻る。
膝をつき、目がうつろだった。
「もう…、ころして……」
「いいよ。俺は満足したから」
一応、橘君に確認をとる。
彼は魔族に殺されているから。
でも仕返しとかはしないようだ。
橘君が首を横に振ったのを確認し、俺は一番はじめにヒトの命を奪った水魔法で魔王を殺すことにした。
「水よ、回れ」
水の刃が魔王の首を落とす。
もう魔王は復活しなかった。
周囲が光に包まれる。
気づけば足元も周囲も、全てが真っ白な空間にいた。
この世界に送り込まれる時、最初にいた場所だ。
周りには4人の高校生。
それから俺の右手に抱き着くミーナがいた。
『勇者たち。よく魔王を倒してくれました』
頭に女神の声が響く。
『今から貴方たちを元の世界へ送り還してあげましょう』
「あの、すみません。女神様」
『……ん? あ、貴方、まだ生きていたんですね』
コイツ、誰が魔王を倒したかも見てないのか。
まぁ、それはそれで都合が良い。
「たしか、元の世界に俺を送り還すのは力を消費するからやりたくないって言ってましたよね。女神様の負担になりたくないので、俺はこっちに残ります」
『えっ、良いのですか? この機会を逃せば、次に異世界とつながりを結べるのは100年後。人族である貴方は絶対に帰れませんよ』
「えぇ、それで大丈夫です。その代わり勇者となった子どもたちは、しっかり元の場所に送り返してくださいね」
『なんて良い心がけなんでしょう。自己犠牲、尊いですねぇ。ではこの世界に残る選択をした貴方に、私からプレゼントです』
俺の身体が輝きだした。
「えっと、これは?」
『貴方には水魔法への適性があるようですね。しかしこの世界で水魔法は弱体化しています。そんな魔法にしか適合がなくて可哀そうな貴方に、水魔法の威力を10倍、そして消費魔力を10分の1にする女神の加護を付与しておきました』
そんなことできるなら、この世界に来た時点でやれよ!!
──って、強い怒りを感じるが耐えた。
ここで女神の機嫌を損ねたくはない。
「ありがとうございます!!」
『では、勇者たちは送り返します! お疲れ様でした!!』
「あっ!」
柳君たちも女神に何か言おうとしたが、そんな時間は与えられなかった。
彼らの身体が光の粒になって消えていく。
「と、トールさん! お元気で」
「関谷さんのこと、絶対忘れません」
「ありがとうございました」
「トールさん。さようなら」
「うん、さよなら」
右手に抱き着いたままのミーナと一緒に、俺は元の世界へと帰っていく高校生たちを見送った。
【あとがき】
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
これにて本作は完結です。
アフターストーリーを投稿していくかもしれないので、出来れば作品のフォローをしたままにしておいていただけると幸いです。
魔法攻撃力が130万になってるトールの水魔法を更に強化する加護を与えてしまった女神様。それはトールを送り返すよりよっぽど多くの神力を消費してしまうことになり、大神様にめっちゃ怒られる──みたいなお話しを書くかも(予定は未定)
本作への感想をお待ちしております。
また、もしよければ私の別作品も読んでくださいねー!
以上です。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
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応援よろしくお願いします!!
別作品も投稿してます! こっちも見てねー!!
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