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第3章 水の研究者、勇者を還す
第90話 王都防衛戦 初日
しおりを挟む王城での防衛作戦会議が行われた翌日。
総勢20万体を超える魔物がファーラム王都に突撃してきた。
この王都を守る兵力は5万人。魔物軍には、この地方にはいないはずの強力な魔物たちも混じっている。
そんな絶望的状況にもかかわらず、王都の防壁はまだ破られていなかった。
「ケンゴ、下がれ! でかいのを撃つぞ!!」
最前線で魔物をなぎ倒す勇者ケンゴに、賢者レンが背後から声をかける。
声に反応した勇者が後ろを振り向き、その目で見たものは──
「お、おい……。うそだろ」
超巨大な火球を空に準備しているレンの姿。
それはかつてオリハルコン級冒険者、灰燼魔法のゴバがエルフの王国にて、ラエルノアを完全に焼き尽くそうと全力で放った火球の数十倍のサイズがあった。
「行くぞ」
「待て待て、待てって!!」
ケンゴが自陣に逃げ込んできた。
ほぼ同時にレンが手を振り下ろす。
「火よ、焼き尽くせ!」
圧倒的火力により数千という魔物が、たった一発の魔法で焼き尽くされた。
「ケンゴ、残りは任せた! 俺は次、東方向の魔物を燃やしてくる」
「お、おう。気をつけてな」
文句を言う間もなく、レンは去って行った。
「アレが、賢者の魔法か」
「俺のとは次元が違う」
「そんなバケモンが今は味方だってんだから、頼りになりすぎだろ!」
この地方にいる唯一のゴールド級冒険者パーティであるガジルドとマシンバ、ダーナは、ケンゴと共に最前線で王都に押し寄せる魔物を食い止めていた。
「ガジルドさん。俺はもっかい魔物に突撃してきます。俺の横を抜けてこの辺りまで来た奴をお願いしますね」
「おう。ここは俺らに任せてくれ。そんでお前は、全力で行ってこい!」
「はい!!」
レンの魔法で焼き尽くされた魔物の死骸を乗り越え、地を埋め尽くすほどの魔物たちがやってくる。それに向かってケンゴは走り出した。
彼の突破力であれば、そのまま魔物軍を一直線に通り抜けながら魔物を屠っていくことも可能だ。しかしケンゴが遠く離れた隙に魔物が彼ではなく王都を目指す可能性が高いため、ある程度進んだら王都に向かって後退しつつ近くにいる魔物を手あたり次第切り伏せるという行動をとっている。
もうすでに数千体は倒した。
それでもファーラム王都に向かってくる魔物の数は減っていないように感じる。
「クソがっ! どんだけいるんだよ」
文句を言いながらもガジルドは魔物を倒していく。彼の手には、この国の宝物庫に保管されていたダマスカス鋼製の大剣があった。国を守るため、特級戦力となる彼に王が貸し出した武器だ。
「でも今回、矢の補充は十分です! これなら、戦える!!」
マシンバは国軍の兵士から矢の供給を受け、迫ってくる魔物の中でも強い敵を優先的に遠距離から射殺し続けている。彼が放つ矢には聖女シオリが祈りを捧げているため、魔物に対する効果は絶大だった。
「賢者様の魔法の後じゃ霞むんだが……。俺だってゴールド級冒険者なんだ! 火よ、貫け!!」
大量の魔物が集結しているからこそ、人々はそれに恐怖する。しかし攻撃する側にしてみれば、狙いを付けずに撃っても魔法があたるのだ。
火魔法使いダーナが放った魔法は何十体もの魔物を貫き、焼き殺した。
「ダーナさん。魔力回復薬です!」
「おう、ありがと」
兵士が持ってきた回復薬の小瓶を飲み干すと、彼は次の魔法のために魔力を放出し始めた。
今回、作戦本部が立案したのは勇者や賢者、それからガジルドたちゴールド級冒険者を国軍が全力でバックアップしながら行うヒット&アウェイ作戦。
これで魔物の数を減らしつつ、他国からの救援が来るのを待つ。
魔物が迫って来ているという情報を掴んだ4日前の時点で隣国に向け、助けを求める手紙を鳥で運ばせていた。
一番近い国からファーラム王都までは、馬でも1週間ほどかかってしまう。そのため、最低3日はこの国にある戦力だけで耐える必要があるのだ。
全ての戦力を防衛戦初日に投入してしまうことはできない。
そのため現在、聖女の結界は王都に展開されていなかった。シオリは主戦力であるケイゴたちが怪我を負った時のため、彼女の護衛である拳闘士アカリと共に王城にて待機している。
また、アカリにはまずい状況になりそうな防壁があれば、そこに急行する遊軍としての役割もある。緊急の伝令がなくとも、索敵スキルで敵の動きが分かる彼女がこの役目に最適だった。
この布陣であれば、少なくともあと3日ほどは魔物からファーラム王都を防衛することが可能。そんな状況であった。
しかし、それを許さない存在がいたのだ。
「ふむ。我が配下を蹴散らす輩がいると聞いて見に来てみれば……。貴様は勇者ではない、ただの人族ではないか」
「な、なんだてめーは!?」
ガジルドの前に、一体の魔族が姿を現した。
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