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第3章 水の研究者、勇者を還す
第81話 大精霊の加護
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「トール殿。何かあったのですか?」
「なに騒いでるニャ」
レオルが様子を見に来てくれた。
ミーナも一緒にいる。
この空間の入口にミーナが戻ってきたけど、彼女を追いかけていった俺が戻らなかったので探しに来てくれたんだろう。
「あっ、レオル! 無事だったのね!! こ、こいつ、急に現れて私のこと拘束したの! 今すぐ追っ払って!!」
水の大精霊ウンディーネがレオルの元に飛んでいく。
「だ、大精霊様……。申し訳ありません」
ウンディーネの前に獣人王が膝をついた。
「え、えっ!? なに、どうしたの?」
「俺はこちらにいる、ミーナ先生に負けました。ですから、その御指示には従うことができません」
「ミーナって……。あんた確か。先代獣人王の娘じゃない」
「そうニャ。このちっこいの、なんだニャ?」
ミーナは水の大精霊のことを知らないらしい。
「水の大精霊、ウンディーネ様です」
「ふーん」
いきなりミーナがウンディーネに飛びついた。
あまりの素早さに、あっさり捕まる水の大精霊。
「なっ、なにすんの!? 放しなさいよ!」
「ウチ、精霊って初めて見たにゃ」
ウンディーネを観察しながら、その頬を指で突っつくミーナ。
「み、ミーナ先生! ダメですよ!!」
レオルがすごく焦ってる。
ウンディーネはこの国に水を供給してくれてる存在なのだから当然か。
「ミーナ、放してあげなさい」
「はいニャ」
ミーナが手を離すと、ウンディーネはレオルの後ろに飛んで行って身を隠した。
「レオル、私を守りなさい!」
「で、ですから俺はミーナ先生に負けたので、その……。あの御方に逆らえません。今後はミーナ先生がこの国の王になられます」
「うっそ。ほんとにあんたが負けたの!? あっちの人族にじゃなくて?」
「……はい。その通りです」
「ちなみにウチより、トールの方が強いニャ」
「トールって、あんたね」
ウンディーネが俺の目の前まで飛んできた。
「私に攻撃とか、するつもりないよね?」
「ありません」
「あんたがあの娘のボスって感じ?」
「んーと……」
「そうニャ」
俺がなんて言おうか悩んでいると、ミーナが代わりに回答してしまった。
「さっきあの娘に指示を出して私を助けてくれたから、あんたのことを少しだけ信じてあげる。あっちよりあんたの方が話通じそうだし」
大精霊と分かって即座に拘束を解除した俺と、大精霊だって分かっていても捕まえに行ったミーナ。その選択肢だと、俺の方がマシだと判断されたみたい。
「その代わり私の質問に答えて」
「わかりました」
「なんでそんなに強いの? ていうか私を拘束できる魔法使いとか信じらんないんだけど。神様から、なんか加護とかもらってる?」
神様から加護か。
スキルすらもらってないな。
「何も貰っていません」
「だったら、この世界の高位存在から加護を貰ったか、契約を結んだとか」
契約ならある。
あるけど、何か関係あるの?
「世界樹を守るために契約しています」
「それだ! 世界樹の神性魔力が混じってるから、水魔法で私が拘束できるのね」
へぇ。そうなんだ。
「てことはあんた、勇者だったりするわけ?」
「いえ。俺は勇者の召喚に巻き込まれた一般人です。女神様からスキルも貰っていませんよ。そのせいでこちらの世界に来た当初は、かなり苦労しました」
「なんと。トール殿は、異世界人だったのですか……」
そっか、レオルには言ってなかったな。
「言語理解スキルも貰えなかったので、これを使っています」
首から下げている翻訳水晶を見せた。
これはエルフの王国で倒れていた冒険者から奪ったもの。今はミーナとの練習のおかげでかなり読み書き会話ができるようになっているけど、エルフ語などその他の言語も理解できるから常に身に着けるようにはしていた。
「じゃあ、能無し異世界人だったんだ。なんでそれで水魔法が使えちゃうかな……。ヤバい使い方する人族が増えたから、1500年前に弱体化したのに」
やっぱり弱体化されてたんだ。
火魔法とかイメージだけで何もない空間から火を出せるのに、水魔法は強制結露させる空間を指定しなきゃ戦闘で使えるほどの水を集められない。
水魔法だけ不遇すぎるから、おかしいって思っていた。
「まぁ、弱体化させすぎて獣人が水不足に喘ぐようになったから、こうして私がこの国に水を供給し続けなきゃいけなくなったんだけど……」
ウンディーネが俺の頭に触れる。
「ふむふむ。神様との契約がないから、世界樹と契約しててもまだ “空き” はありそうね。これならいけるかな」
「あの、何を?」
「私ね、1000年くらいこの国から離れられなかったの。さすがに飽きちゃった。頭の中を見させてもらったけど、トールはそんなに悪い奴じゃなさそう。だからあんたに私の加護をあげる。それでこの国の水不足を何とかして」
水不足の解消か。
俺の専門分野だな。
やり方はいろいろあるけど、1000年単位で水問題を抱えていたこの国をなんとかしようってのは結構難しい気がする。
ウンディーネから貰える加護で、どのくらいできることが増えるか次第。
「加護を貰うと、何ができるようになりますか?」
「水魔法の発動速度、それから威力と範囲が全部2倍になる」
それは俺個人としてはとても嬉しい。
でも渇水問題の解決には役立たないかな。
「もうちょっと何かないですか?」
「あんた天候を操作できるんだから、それで十分でしょ。だって2倍よ? 既に歴代最強って言われてた賢者クラスのことができるあんたの攻撃力が更に2倍になるの! その条件で満足しなさいよ」
「俺は人族です。俺が生きている間は定期的にこの国に雨を降らせることはできますが、せいぜい60年くらいが限界でしょう」
「えっ、もしかして永久的に水問題を何とかしようとしてる?」
「ん? そうですが……。違うんですか?」
何か互いの認識に食い違いがあるみたい。
「私が精霊界に戻る1週間くらい何とかしてくれれば良いの」
「たった1週間? それだけでいいんですか?」
「あんた国ひとつに水を供給し続けることの大変さを舐めてるんじゃない? この仕事、ほんとに大変なんだからね」
もしかして水循環の地表流にこの国を入れることを全く検討しようとしてないのか? 本当に水源ゼロの場所で数十万人の獣人に水を行きわたらせてるってこと?
そっちの方が逆にヤバいだろ。
「加護を貰ったら、この国周辺の水の流れとかも分かるようになりませんか?」
「それくらいならオプションで付けてあげても良いわ」
「なら、その条件でお願いします!」
水流、水域を把握する能力。
とてもありがたい。ぜひ欲しい。
強敵と戦う前に周囲の水流を把握できていれば、俺の武器を増やすことができる。最近は空気中から集めた水をその辺の水たまりに混ぜることで、戦闘中でも操れる水量を増加させることが可能になっていた。
まずはこの国の水不足を改善することに利用するけど、その後は俺の戦闘力向上のために使わせてもらおう。
「なに騒いでるニャ」
レオルが様子を見に来てくれた。
ミーナも一緒にいる。
この空間の入口にミーナが戻ってきたけど、彼女を追いかけていった俺が戻らなかったので探しに来てくれたんだろう。
「あっ、レオル! 無事だったのね!! こ、こいつ、急に現れて私のこと拘束したの! 今すぐ追っ払って!!」
水の大精霊ウンディーネがレオルの元に飛んでいく。
「だ、大精霊様……。申し訳ありません」
ウンディーネの前に獣人王が膝をついた。
「え、えっ!? なに、どうしたの?」
「俺はこちらにいる、ミーナ先生に負けました。ですから、その御指示には従うことができません」
「ミーナって……。あんた確か。先代獣人王の娘じゃない」
「そうニャ。このちっこいの、なんだニャ?」
ミーナは水の大精霊のことを知らないらしい。
「水の大精霊、ウンディーネ様です」
「ふーん」
いきなりミーナがウンディーネに飛びついた。
あまりの素早さに、あっさり捕まる水の大精霊。
「なっ、なにすんの!? 放しなさいよ!」
「ウチ、精霊って初めて見たにゃ」
ウンディーネを観察しながら、その頬を指で突っつくミーナ。
「み、ミーナ先生! ダメですよ!!」
レオルがすごく焦ってる。
ウンディーネはこの国に水を供給してくれてる存在なのだから当然か。
「ミーナ、放してあげなさい」
「はいニャ」
ミーナが手を離すと、ウンディーネはレオルの後ろに飛んで行って身を隠した。
「レオル、私を守りなさい!」
「で、ですから俺はミーナ先生に負けたので、その……。あの御方に逆らえません。今後はミーナ先生がこの国の王になられます」
「うっそ。ほんとにあんたが負けたの!? あっちの人族にじゃなくて?」
「……はい。その通りです」
「ちなみにウチより、トールの方が強いニャ」
「トールって、あんたね」
ウンディーネが俺の目の前まで飛んできた。
「私に攻撃とか、するつもりないよね?」
「ありません」
「あんたがあの娘のボスって感じ?」
「んーと……」
「そうニャ」
俺がなんて言おうか悩んでいると、ミーナが代わりに回答してしまった。
「さっきあの娘に指示を出して私を助けてくれたから、あんたのことを少しだけ信じてあげる。あっちよりあんたの方が話通じそうだし」
大精霊と分かって即座に拘束を解除した俺と、大精霊だって分かっていても捕まえに行ったミーナ。その選択肢だと、俺の方がマシだと判断されたみたい。
「その代わり私の質問に答えて」
「わかりました」
「なんでそんなに強いの? ていうか私を拘束できる魔法使いとか信じらんないんだけど。神様から、なんか加護とかもらってる?」
神様から加護か。
スキルすらもらってないな。
「何も貰っていません」
「だったら、この世界の高位存在から加護を貰ったか、契約を結んだとか」
契約ならある。
あるけど、何か関係あるの?
「世界樹を守るために契約しています」
「それだ! 世界樹の神性魔力が混じってるから、水魔法で私が拘束できるのね」
へぇ。そうなんだ。
「てことはあんた、勇者だったりするわけ?」
「いえ。俺は勇者の召喚に巻き込まれた一般人です。女神様からスキルも貰っていませんよ。そのせいでこちらの世界に来た当初は、かなり苦労しました」
「なんと。トール殿は、異世界人だったのですか……」
そっか、レオルには言ってなかったな。
「言語理解スキルも貰えなかったので、これを使っています」
首から下げている翻訳水晶を見せた。
これはエルフの王国で倒れていた冒険者から奪ったもの。今はミーナとの練習のおかげでかなり読み書き会話ができるようになっているけど、エルフ語などその他の言語も理解できるから常に身に着けるようにはしていた。
「じゃあ、能無し異世界人だったんだ。なんでそれで水魔法が使えちゃうかな……。ヤバい使い方する人族が増えたから、1500年前に弱体化したのに」
やっぱり弱体化されてたんだ。
火魔法とかイメージだけで何もない空間から火を出せるのに、水魔法は強制結露させる空間を指定しなきゃ戦闘で使えるほどの水を集められない。
水魔法だけ不遇すぎるから、おかしいって思っていた。
「まぁ、弱体化させすぎて獣人が水不足に喘ぐようになったから、こうして私がこの国に水を供給し続けなきゃいけなくなったんだけど……」
ウンディーネが俺の頭に触れる。
「ふむふむ。神様との契約がないから、世界樹と契約しててもまだ “空き” はありそうね。これならいけるかな」
「あの、何を?」
「私ね、1000年くらいこの国から離れられなかったの。さすがに飽きちゃった。頭の中を見させてもらったけど、トールはそんなに悪い奴じゃなさそう。だからあんたに私の加護をあげる。それでこの国の水不足を何とかして」
水不足の解消か。
俺の専門分野だな。
やり方はいろいろあるけど、1000年単位で水問題を抱えていたこの国をなんとかしようってのは結構難しい気がする。
ウンディーネから貰える加護で、どのくらいできることが増えるか次第。
「加護を貰うと、何ができるようになりますか?」
「水魔法の発動速度、それから威力と範囲が全部2倍になる」
それは俺個人としてはとても嬉しい。
でも渇水問題の解決には役立たないかな。
「もうちょっと何かないですか?」
「あんた天候を操作できるんだから、それで十分でしょ。だって2倍よ? 既に歴代最強って言われてた賢者クラスのことができるあんたの攻撃力が更に2倍になるの! その条件で満足しなさいよ」
「俺は人族です。俺が生きている間は定期的にこの国に雨を降らせることはできますが、せいぜい60年くらいが限界でしょう」
「えっ、もしかして永久的に水問題を何とかしようとしてる?」
「ん? そうですが……。違うんですか?」
何か互いの認識に食い違いがあるみたい。
「私が精霊界に戻る1週間くらい何とかしてくれれば良いの」
「たった1週間? それだけでいいんですか?」
「あんた国ひとつに水を供給し続けることの大変さを舐めてるんじゃない? この仕事、ほんとに大変なんだからね」
もしかして水循環の地表流にこの国を入れることを全く検討しようとしてないのか? 本当に水源ゼロの場所で数十万人の獣人に水を行きわたらせてるってこと?
そっちの方が逆にヤバいだろ。
「加護を貰ったら、この国周辺の水の流れとかも分かるようになりませんか?」
「それくらいならオプションで付けてあげても良いわ」
「なら、その条件でお願いします!」
水流、水域を把握する能力。
とてもありがたい。ぜひ欲しい。
強敵と戦う前に周囲の水流を把握できていれば、俺の武器を増やすことができる。最近は空気中から集めた水をその辺の水たまりに混ぜることで、戦闘中でも操れる水量を増加させることが可能になっていた。
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