勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

文字の大きさ
上 下
78 / 101
第3章 水の研究者、勇者を還す

第78話 ミーナの元部下

しおりを挟む

 大観衆の中、ミーナにキスをした。

 それでメイン通りに集まった獣人たちが大騒ぎしている。

 大半は俺たちを祝福してくれるものだった。少し怒りの声も聞こえたが、祝福の声にかき消されていった。

 多くの獣人に強さを認められているダズさんを倒せたのが良かったみたい。


「えへっ。やっとトールが結婚しようって言ってくれたニャ。実はウチ、結構長いこと期待して待ってたんだニャ」

「ごめん。ずっとミーナと一緒にいたいって思いながら、心のどこかで元の世界に帰らなきゃって気持ちがあったんだ。でも俺は、やっぱりこの世界でミーナといたい。君と一緒に歳をとっていきたい。そ、その……。子どもも、ほしい」

「ウチ、子どもは3人欲しいニャ! だからトールには、頑張って働いてもらわなきゃいけないニャ」

「うん。頑張るよ」

 こうして未来のことを話せるのって、なんだかすごく幸せだ。

 スキルを貰えず、言葉も話せない状態で奴隷になった。死のうと思ったこともあるけど……。あの時に我慢して本当に良かった。

 あの地獄を耐え抜いたから、今の俺がいる。

 この幸せをずっと守りたい。
 世界がずっと平和であってほしい。

 
「み、ミーナ隊長?」

 ミーナと抱き合っていると、ひとりの女犬獣人が話しかけてきた。

「ん? あっ! ケイル、無事だったのかニャ!!」

 俺から離れ、ミーナが犬獣人に抱き着いた。

「すす、すみません。お取込み中でしたのに」

 ケイルさんは俺の方を見ながら謝ってくれた。

 隊長って呼ばれてたし、ミーナの反応を見る限り、彼女の大切な部下とかだったんだろうな。

「いえ、大丈夫ですよ。ミーナのお知り合いですか?」

「ミーナ隊長の下で里の守備部隊にいたケイルと言います。トールさん、でしたよね? この度はミーナ隊長とのご成婚、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「ねぇ、ケイル。その……、ほかのみんなは?」

「グルッシュが左手を失いましたが、あの時ミーナ隊長が逃がしてくださった隊員は全員生きていますよ。何人かはこの王都に住んでいます」

「──っ!! よ、よかったニャァ」

「それよりミーナ隊長。姫って、どういうことですか?」

「えっ、あ、それは、だニャ……」

 もしかしてミーナ。自分が元お姫様って言わずに、この国から離れた獣人の里で守備部隊隊長やっていたんだろうか?

 彼女の強さと性格なら、そーゆーことやってそうだな。


 ──***──

 その後、俺たちはダズさんの家に招かれた。

 ケイルさんも一緒に来ている。
 
 かつての仲間たちがどうなったか、ミーナも知りたがった。逆にケイルさんもミーナが今までどこにいたか気になったようだ。

「少し人族の足止めをしたら、すぐに私たちを追いかけてくると思っていました。でも隊長はいつまで待っても現れず……。時間をおいて戦闘していた場所まで何人かで様子を見に行きましたが、人族は引き上げた後でした」

「限界まで戦って、捕まっちゃったんだニャ」

「や、やはりそうだったんですね。すみません。動ける者で探そうとしたんですが、子どもや老人を安全な場所に移動させるのを優先させました」

 非常に苦しそうな顔でケイルさんが説明してくれた。

 そんな彼女をミーナが優しく抱きしめる。

「うんうん、それで良いニャ。逆にウチはあの襲撃による戦果がウチの身柄だけって聞いてたから、みんなは無事だって信じてたニャ。無理しなくて正解だニャ」

「あ、ありがとうございます」

「なんだかんだでウチのことをバカな商人が買ってくれたおかげで、男にはじめてを奪われることなくトールと出会えたニャ」

「トールって言います。魔法使いです。水の」

「先ほどの戦闘、最後の方だけ見ていました。天候を変えてしまう魔法使いなんて初めて見ました。それからあの、氷ってやつ。とてもおいしかったです」

 俺が魔法で落とした雹は砕いて、その場にいた獣人たちに振舞った。

 予想通り、氷は獣人たちに大人気だった。

「トールはこの国で、氷を作って売ってれば一生安泰だニャ」

「そうかな。それもありだけど」

 まずは魔族を全部倒して、平和を確保してからだな。


「そろそろ俺も会話に混ざってもよろしいですか?」

 ミーナの親衛隊長だったダズさんも、彼女に話したいことがたくさんあるようだ。

「もともとお転婆な性格でしたが、ミーナ様。いったい何をしていたんですか!」

「う、うぅ…。ごめんニャ。だって、ここにいたら王様にされそうだったから、怖くなっちゃったんだニャ」

 それでこの国から逃げたってことか。

「まぁ、それはもういいです。でも獣人王陛下に求愛されても無視していたあなたが、人族とつがいになると言われた時は驚きました」

 へ、へぇ……。
 あの獣人王が、ミーナを。

「だってレオル、ウチより弱いからニャー。それに何年も弟子として鍛えてきたから、あんなのとつがいになる気は全くなかったニャ」

 本人がいない所でボロクソ言われて、獣人王様がちょっとかわいそうになった。
 
「歴代最強って言われている王様を倒せちゃうミーナ隊長が強すぎるんですよ」

「でもウチよりトールの方がもっと強いニャ」

「直接戦ったことないから、ほんとはどうか分からないけどね」

「魔人倒しちゃうから、絶対にトールのが強いニャ!」

 ミーナの発言を聞いて、ダズさんとケイルさんがすごい勢いで俺を見てきた。

「ま、魔人を倒せるのですか!?」
「そんな御方と、俺は戦おうなんて……」

 ダズさん戦ったおかげで多くの獣人にミーナとの結婚を認めてもらえたんだから、俺はあの場で戦うって選択をして良かったと思っている。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...